能力者主義の世界で俺は無能なチート能力者

高桐AyuMe

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本編

不穏

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 突然に放たれた蹴りに俺は冷静に右腕でガードするように受け止める。相手は攻撃が通らないことがわかると、そのままもう一撃蹴りを放ちつつ着地する。俺はその行動すらも予測しその場から退くことで回避する。
 再び相手を視界に入れたとき、俺は直感的に口を開く。
「誰だ、お前」
 顔はフードを深くかぶっているため見えない。だが、それでも俺は断言することができた。俺はこいつを知らないと。
 前回の試験で結果的に俺はこの学校に所属する全生徒と手合わせをしたことになる。つまり、顔をよく覚えていなくとも、何か引っかかるところはあるはずだ。特にいえば、今回参加しているのはAクラスの生徒のみ。前回の試験では一番警戒するべき生徒の集団だ。俺も勿論、なんとなくは覚えている。それに短くとも俺もAクラスの生徒だ。流石に見覚えぐらいはないほうがおかしいだろう。
 だがそれでも俺はこいつを知らないと断言できる。直感的な何かが警鐘を鳴らす。それだけの実力をもつ生徒がAクラスでないわけが……。
 いや、違う。先程自分で考えたばかりじゃないか。
 俺のようなケースを警戒して戦闘解禁初日からポイントを稼ぐために……。
 そういうことなのか?
 Aクラスじゃない生徒。この試験への参加を許された他クラス代表のうちの一人。それが俺のようなケースの生徒だと。
 いや、今はそう結論づけるしかない。あまりにも判断材料は少ない。
 まずは攻撃を仕掛けてきたこいつをどうするかを考えるべきだ。
 ここまで3秒程度。ようやく俺は臨戦態勢に入った。体制は変えない。全身から無駄な力を抜いて、どんな事にも対応する。
 そうして更に2秒が経った時、奴は動く。
 小細工なしに突進を選んだ奴は、そのまま俺へと全力で向かってくる。
 蹴りか、拳か、投げ技か。まずは見極めるところから。
 伸ばしてきたのは右手。その手はパーに開かれている。初手掴み技。
 それを理解したうえで俺は固めた右手を放つ。
 それは迫りくる相手の手と交差し、相手よりも早く奴に迫りくる。
 危険察知。奴は急激なブレーキはかけずに攻撃の方をキャンセル。体をかがめて俺の横をすり抜けるように後ろへと抜けていく。
 どちらも一撃も与えることはできなかったが、これで俺は確信できた。
 こいつは俺より弱いと。
 だったら警戒する必要はない。わざわざ俺が手を下す必要もないだろう。
 どれもこれも、奴が本気を出したと仮定したときの判断であるが。
 まあ、相手から喧嘩を売ってきたんだ。元々今日は戦うつもりは毛頭なかったが、相手がやる気だというのなら仕方ない。ポイントの足しになってもらう。
 奴の方に目を向けると、すでに起き上がってもう一度俺の方に向きなおり、少しばかりの前傾姿勢で戦闘態勢をとる。
 だが、数秒で落とした腰を上げると、踵を返し森の中へ消えていく。
 それを俺は別に追うこともなく見送った。
 何度も言うが、今日は戦うつもりはない。相手がやる気が失せたというのなら俺は自分のやりたいことを再開するだけだ。
 それにしても、一体何の目的があって俺に攻撃を仕掛けてきたのか。
 全くもって謎だ。さっきは弱いと結論付けたが、具体的に言えばAクラスの生徒の多くを相手できるほどの実力は兼ね備えていた。
 別格の二人は別として、Aクラスに所属しているといわれても違和感なく納得できるぐらいには弱かった。
 こうも意味不明な出来事が起こると色々と勘ぐってしまう。
 特にこの学校には奴ら、組織Xの手が伸びてきているのは前回の試験で確認できた。これも奴らの計画の一部だとしたら、この試験にもかかわっているとしたら。
 そもそもの試験攻略が難しくなってくるのは考えるまでもない。
 杞憂で終わってくれればありがたいのだが、果たしてそう事がうまく運ぶかどうか……。

 俺は走る。
 複雑な木々の間をすり抜け、そして苦しさが限界に近づいたところで俺は膝に手を置いて足を止めた。
 あいつは追ってきていない。それを確認したのちポケットに入れてある通信機器を取り出し、あの男と繋ぐ。
 この通信機器は通常の生徒には配布されていない。俺がこれを手にしているのはその男の関係者ゆえだ。
 数コールののち、男は応答した。
『ああ、きみか。まだ試験中じゃないのかい? 随分とリスキーな行動するものだ』
「うるせえ、もちろん周りには誰もいないしちゃんと周囲は逐一確認している。お前に言いたいことがある。話が違うじゃないか!」
『話が違うとは一体何のことか、具体的に言ってくれないかい? 色々と君には手を貸している都合上、その一言だけでは私にはわからんよ』
「あんたは俺に言ったはずだ。奴を超える戦闘技術を与えると。俺はさっきやつと手合わせをした」
『ほう、実に興味深い話だ。勝敗は聞くまでもないが、それが何か? 不都合なことでも起きたか?』
「まったくもって歯が立たなかった。あんたらが教えた戦闘技術なんざ全く通用する気がしない。やつを超える戦闘技術ってのはウソだったってことかよ」
『まさか、私はうそをつかない。だが、そうだね。色々と言いたいことはあるが、まず君はその戦闘技術とやらをすべて試したのかい?』
「は? いや、それは無理だ。負けるに決まってる。一撃くらわしたと思ったら澄まし顔で笑われたんだぞ。通用するはずがないじゃないか」
『私が言っているのはすべて試したかどうか。つまり君は全ては試さずにその結論を出しているというわけだね?』
「あ、ああ。それがどうした」
『話にならないね。全力で戦ってもいないのに敵わないと結論づける君の思考回路が解せない。私が聞きたいのは戦闘技術が何処まで通用するかだ。勝ち負けの話ではない』
「それだと話が違うじゃないか。あいつを超える戦闘技術を」
『彼だって人間だ。あれからいくつの先頭を経験していると思っている? 彼がもう成長しないと誰が決めた? 誰が言った? 日々成長する彼に他社から教え込まれた技術など到底通用しない。それが君に対する結論だ。私は君たちが彼に勝つとは微塵も考えていないよ。そう気負う必要はないさ。それじゃあ、何か彼について進展があったら連絡をしてくれ。よろしく頼むよ』
 そこで通話は切れる。俺は悔しさのあまり、持っていた通信機器を投げつける。
 奴は俺が倒す。絶対にあの男に、学園長に認めてもらう。そのためには椿零には犠牲になってもらう。
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