上 下
47 / 51
本編

奇襲

しおりを挟む
 突然の爆音。
 何の脈絡もなしに聞こえてきたその音に俺は目が覚める。
 急いで寝袋をたたみ、手ぶらで外に出る。と、何やら森の少し奥の方で既に戦闘が繰り広げられているようだ。横槍を入れるつもりは毛頭ないが、情報収集のために少しのぞいてみることにする。
 少し歩くと、開けた場所に出る。そこで二人は戦っていた。一人は知っている。槙田燐、前回の総当たり戦で戦った双子の一人だ。もう一人の奴は、顔がよく見えない。だが、場面は燐は少し優勢だ。燐は数回足で地面をたたくと、地を蹴り、相手との距離を詰める。相手はそれを察知して後ろに下がろうとするが、遅かった。
 疲労ゆえか、予測まではよかったが体は想定よりも遅く動く。動作は遅れ、燐の射程範囲内へ。瞬間、撃ち込まれる拳で一人の生徒は文字通り吹っ飛んだ。気にもたれかかるようにして伸びている。
 燐はそれで満足したのか、周りを見渡し、俺と目が合った。
「あ、あんた……」
 俺は仕方なく、茂みから出る。
「なに、やろうっての?」
 肩で息をしながらも、俺への攻勢を見せるところ、それなりの警戒はされているようだ。
「いや、別に戦闘の意思はない。お前がやるというのなら話は変わるが……。ただ近くで音がしたから少し見に来ただけだ」
「あっそ。試験でもあんたはそのスタンスを貫くのね」
「何の話だ?」
「あんたはどんなことがあっても自分から行動を起こすことはしない。それはこの試験でも変わらないのねってことよ」
「慌ててポイントを集める必要がないと思っただけだ。まだ試験は一週間以上ある。いまから飛ばしてたら体がもたない」
「総当たり戦で一回もリタイアしなかった奴が言う?」
「それとこれとは話が違う」
 舞台にルールまで違う試験のことを出されても、まったく参考にはならない。同じ戦闘の分野があるからと言って比べる対象になるとは言えないな。
「まあ、どちらにしても私は今あんたと戦うつもりはない」
「そうか、それは助かる」
「でもいつかあんたの顔面に渾身の蹴りを打ち込んでやる」
「そりゃあ、また大層迷惑な話だな」
「じゃ、私は行くから、付いてくんなよ」
「ああ、わかってるさ」
 俺もやりたいことはある。まだ1日は始まったばかりだ。

   燐と別れた後、俺は島内の森の中を歩く。
   今日は自分から戦闘を仕掛けるつもりは毛頭ない。ほかの生徒から挑まれるというのならば話は変わってくるが、取りあえずは今日は静観して過ごすつもりだ。理由としては、まずは今日が戦闘解禁初日だということ。つまりは、基本的に血眼になってSクラスを目指す生徒たちにとっては一刻も早く、そしてこの試験内になるべく多くの戦闘を行い、ポイントを稼ぐ必要がある。何故なら、舞原、西園寺といった圧倒的実力者と共に、俺という予想だにしていなかった候補が現れたことだ。
   Sクラスの枠は10人。そのうちの2枠はもはや決まったといっても過言ではない。後の追随を許さないほどにあの二人の実力は飛びぬけている。だから狙うとしたら、残りの8枠。だがそこに俺という異分子が乱入してしまった。今まで無能力者と、最弱だといわれていた生徒が突然、試験で驚異的な結果を残すという離れ業をやってのけた。それ故に8枠を狙う生徒はこう思う。「他にも同じケースが潜んでいるんではないか」と。当然その可能性は低いが目の前で具体的な事例を見せれてしまえば、頭で理解していようとも、そのような心理に陥ってしまうのも無理はない。つまりは、皆は恐れている。抜け駆けするような実力者が潜んでいることを。そんな状態で悠長はことはしてられない。と、焦る気持ちが先行し、戦闘解禁初日にもかかわらず、アクセル全開で戦闘を開始する生徒は少なくない。
    だが、冷静に考えれば、これは大きなチャンスでもある。
    初日から飛ばせば体力の消耗が激しいのは考えるまでもない。前回の試験であれば、疲労したとしても、部屋に戻れば柔らかいベットと、美味しい食事にありつけた。言うなれば、疲労回復するための状況は整えられていた。だが、今回の舞台は打って変わって無人島。慣れない環境と、寝心地はお世辞にはいいとは言えない寝袋、十分とは言えない食事。通常の生活も送ることができない環境で回復仕切れず溜まる疲労とそれによるストレス。身体的にも精神的にも疲労したところを俺が刈り取れば、俺の手間も含めて最低限ですむ。わざわざ戦闘を広げるまでもなく、すぐに終わる作業だ。だからこそ少しばかり静観して、隙を見て疲労した生徒を刈り取る。これが今回俺が考える策だ。
    そのためには島内の情報はなるべく収集しておいたほうがいい。地形は既に頭に入れたが、今この島がどのような状況に置かれているかを知る術は俺にはない。だからこそ足で稼ぐのだ。なるべく物音には気をつけることにしよう。奇襲ならばいくらでも対応できるが、変に目立ってもいいことはないからな。
   そう考えた瞬間だった。
   俺は歩く足を止め、辺りを目だけでうかがう。
   僅かながらに感じた殺気。だが、それは今は消えている。俺に気付かれたことを察知したか。それとも他の第三者に向けたものか。俺としては後者であってほしいとは思うが。
   ほんの一瞬。1秒にも満たないことであったが、ほんの少し首筋に電流のようなチリっとした感覚が走る。そして。
    後ろから迫る蹴りをそちらを向かずに受け止める。強烈な一撃。だが、俺は僅かにだが口角を上げて言った。
「命知らずな戦闘狂はお前か?」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...