能力者主義と無能力者正義の世界へようこそ

高桐AyuMe

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本編

決戦前夜

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 潮のいい香り漂う海風を感じながら俺は少しずつ見えてきた学校が管理するという島に目を向ける。
 ついに明日に迫った特別試験のため、今はフェリーに乗っているのだが、俺は外の風にあたるべくデッキに足を運んでいた。
 俺が今乗っているフェリーはこの国が保有する客船の中で3番目に大きいとされる客船であり、レストランは勿論、気軽に使えるコンビニや生徒一人一部屋という圧倒的部屋数、更にはアクティビティとして映画館、プールなども完備されている。しかし、今回は長い戦いになる事が予想されるのもあって、誰も娯楽施設を使っていた形跡はない。
 今回の試験は2週間という長丁場。無人島という慣れない環境下でのサバイバルや他生徒とのポイント争奪戦。各々の戦略がぶつかり合う本試験において、俺も建前上は全力で挑むわけであるが、結局答えは出せないまま今日を迎えてしまった。
 このままAクラスとして生活するか、Sクラスへと成り上がるか。
 だが、どちらにせよ俺が当初求めていた平穏という生活からは程遠い立ち位置にいることには変わらない。
 それに前回の試験で実力をさらけ出しすぎた。結果として学園長にも目を付けられる事態となってしまっている。
 学園長から直々にSクラスを伝えられた時、その報酬も伝えられた。警察という肩書を言い方悪く言えば乱用することができるというもの。
 この世界で警察という立場はそれなりに重宝される。能力者による犯罪を止める、というよりかは止めてやっているというスタンスの上での組織だからこそ、その資格というものは江戸時代の武士と近い状況ともいえる。
 だが、俺とってそんなものはどうでもいい。
 この世界は能力者主義という反面、実力主義という一面も持っている。実際、能力というものは自分の実力のうちという風習があるし、それ故に無能力者との格差も起きている。
 つまりはこの試験で俺がSクラスに上がるメリットは存在しなくなるのだ。
 だが、一つだけ、俺だけのメリットならある。
 それは組織Xの監視の目から遠ざけることができるかもしれないということ。
 残念ながら俺はこの組織Xから逃げてきた身であり、行方をくらましたつもりであったが、結局は奴らの手のひらで踊っていただけに過ぎないことが分かった。
 それがSクラスという学園長が手を出すようなトップクラスに入ることが出来れば、それが少なくとも軽減されるかもしれないというものだが、基本は俺の予想であるしこれといった確証もない。望みは極めて薄いだろうな。
『本試験の最終確認を行います。試験に挑む生徒は15時に映画館へと集合してください。繰り返します……』
 色々と思案していたが、お呼び出しがかかった。
 もう今更戻れはしない。この試験がどう転ぶかはまだわからないし、何かのトラブルが起こる可能性も捨てきれない。
 ただ今言えることは、舞原や西園寺が敵同士ということは奴らとの全力の戦いは避けられない。つまりは俺は全力を出すことになる可能性が高いということだ。
「やるなら、やるだけ……か」
 俺は去り際に不穏な空気をまとう無人島を見据えた。

 無人島での特別試験。
 今まで戦闘での実力のぶつかり合いは何度もあったが、サバイバルなどという戦闘系以外の能力を取り入れた試験は初めてだ。
 でもそれは私がまだ経験していないだけなのかもしれない。
 今回は前回と違って個人戦。誰の手も借りれず、ただ己の実力で戦い抜く必要がある。まあ、元々手を貸してもらうつもりはないけれど。
 学校最強、と。そう言われ始めたのはいつだったか。それも覚えていないが、確かに私は学校最強を名乗る実力を持っていると自負している。西園寺にも負けるビジョンは見えない。だけど、彼だけは、あの無能力者だけは分からない。
 彼は腹の底が知れない。前回同じチームだからこそ分かったこと。彼は一度も汗を流していないということ。これが意味するのは、きっとまだ彼は全力を出していないということ。
 まだ忘れてはいない。私とミサがリタイアしてもなお、勝ち続けたあの圧倒的ともいえる実力、加えて西園寺を倒しきるパワー。一体、彼はどれだけ強いのか。
 一度、彼には死闘を挑んだことがある。実際、私はお遊び感覚でやっていたけれど、油断は一ミリもしていなかった。一撃ももらうつもりもなかった。だけど彼は私を倒してしまった。それも涼し顔で。だけど、それでも。
 私は全員に勝たなくてはならない。何故なら私は最強だから。最もたる強さを誇る私が彼を超える。いや、超えていることを証明する。
『本試験の最終確認を行います。試験に挑む生徒は15時に映画館へと集合してください。繰り返します……』
 僅かに震える手を静かに抑える。違うこれは武者震いだ。
 僅かに、いや、久しぶりの高揚感を自覚して自室のベットから立ち上がる。
「最強の証明を、見せつける……」
 学校最強じゃない、能力者としての最強を証明する。その最もたる強さで、実力で長ったらしい文章はいらない、圧倒的な差をこの試験で……。

 果たしてどう転ぶか。それは私でも分からない。舞原や西園寺が無双するのか、それとも彼が全力を出すのか。それは彼自身が決めることであって私は何も手出しはできない。
 そう、私は、ね。
 手に持っているスマホにはある7人の生徒と音声がつながっている。
「是非とも、君たちの力を見せてくれ。くれぐれもルールは守るようにな。君たちには期待している。私の研究がどれ程にまで通用するのかも兼ねた実験だ。がっかりさせないでくれ」
 それだけ言って通話を切ろうと思ったのだが、一人の生徒から質問が飛ぶ。
「彼と対峙した場合、どうしても良いのですか?」
 あわよくば……、という問いに私は答える。
「好きにしてくれ。挑むもよし、逃げるもよし。その選択は君たちの自由だ。君たちの判断にゆだねるよ。ほかに聞きたいことはないかい?」
 誰も答えることはなく、私は通話を切った。
 さて、ついに明日に始まる。私は学園長ゲームマスターとして君を見守るとしようか。
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