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本編
それぞれの足枷と必敗
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「あ~あ、……寝すぎたな……」
自分の持っているスマホの時刻を見て、嘆息する。
舞原が指定した集合時刻は午前7時半なのだが、表示されている数字は8時を指している。
「こりゃ、やっちまったってやつかな……」
まあ、取り敢えずなるべく急いで集合することにしよう。昨日は色々とあったせいで疲れが思ったよりも溜まっていたらしい。
それにしてもよく寝たものだ。そのおかげか頭の中は最近で一番すっきりしているし、体は昨日よりも軽く感じる。まあ、感じるだけだろうが。
「ふう、怒られ案件だな」
そう一人呟き、俺は部屋を出た。
「で、言い訳を聞いてあげるわ」
「言い訳っつてもなあ……」
案の定、舞原に剣の切っ先を向けられながら、俺は問い質されていた。
いや、悪いとは思っている。だが、ここまでする必要はあるだろうか。一つ返答を間違えれば殺されるというこの状況。いくら何でも度を越していると思わないか?
「まあ、昨日は私たちよりも動いてくれたから、仕方ないんじゃない?」
「なん……だと……⁉」
突然、ミサが俺をかばうような発言をしたことに対し、俺は思うわず後ずさる。
「な、何よ……」
「ま、まさか、ミサがそんな言葉を言うなんて、きょ、今日は槍が降る。確実にだ……。だ、だから今日は宿泊施設にとどまった方が……」
「し、失礼ね。私だってそれくらいできるわよ!」
「だ、だって、なあ……」
俺は驚きを隠さぬまま、舞原に助けを求める。
「え、ええ。今日は試験はやめた方がいいんじゃないかしら……」
「二人とも酷い! しかも今日リタイアしたらどうなるのよ。負け確よ」
確かにそうだ。一旦落ち着こう。
「まあ、どうでもいいが、こんなにも早い時間に集まった理由はなんだ?」
隣から盛大にツッコむ少女を無視し、舞原に答えを促す。
「え、そうね。今日の戦う相手なんだけれど、一人が厄介なのよね……」
「一人? 知り合いか?」
「私たちのクラスメイトよ。名前は須保青砥。今日の第四戦目よ」
「四戦目……。ああ、お前がマークしていた奴か」
試験が始まる前に、舞原が独自にマークしていた奴だ。
「能力は、『獣の力を操る能力』。かなり強力よ」
「ああ、あの地味なザ・陰キャみたいな生徒の事?」
ミサが思い出したように声を上げる。
「そう言えば、お前もAクラスだったか」
「何で忘れてるのよ!」
最近ずっといじられっぱなしだったからな。日頃の恨みだ。
「まあ、彼は確か、警察がマークしていた組織に独自で潜入して完全に殲滅したんだっけ? 当時の青砥はCクラスだったから、かなりの出席だったのね」
「実力は折り紙つきってことか……」
これはまためんどくさそうな生徒と当たるもんだ。今日もゆっくりできないかもしれない。
時は流れ、時刻は午前9時。ちょうど今日の一試合目が始まった頃だ。俺はその試合を見ることなく、静かに部屋でのんびりしていた。
別に強者の余裕でも何でもない。ただ、自分の体が心配だっただけだ。
まだ異常は感じていないが、たった一日でかなり右手首に負担をかけ過ぎた。このまま同じようなことが続けば、この試験中に壊れることになる。
「全く、エゴイことしてくれるよ……」
もし、右手が使えなくなったら、俺は間違いなくリタイア、それも試験からリタイアすることになる。流石に右手なしではどうにも戦えない。
それに加え、試験が終わってからも負担をかけることはきっと格段に増えることだろう。尚更、気遣わなくてはいけない。幸い、今日が西園寺との戦いじゃなくてよかった。
さて、そろそろ出番かな……。
入場直前で舞原と合流した俺はステージに上がった。
相手は特別強いわけでもなく、また弱いわけでもないB・Eクラスで構成されたチーム。
だからといって楽に勝てるという訳ではない。
「この試合は私がやるから、下がって」
舞原が進んで前に出た。
「別にいいぞ」
「いってら~」
俺たちはそんな彼女の背中を見送る。この試合も傍観させてもらおう。
「それでは双方準備が整ったようなので、試合開始」
もう聞きなれた教師の声にいち早く舞原が動いた。既に手には禍々しい槍を握り、相手三人に対し躊躇いもなく突っこんでいく。
だがしかし、あちらもただ突っ立ている人形ではない。Eクラスの二人は直ぐに横跳びで回避。Bクラス、つまりは俺のクラスメイトはよけながらも背後からの攻撃に警戒を寄せている。まあ、これがクラスの差ということなのだろうか。ほとんどまぐれで上へと上がった俺たちが言えることでもないが……。
すると、巧みな槍の扱いにより、後ろに回っていたEクラスの生徒がバランスを崩す。あとは腰を捻って槍を刺突させるだけなのだが……、
「あれ……?」
舞原は腰を捻らず、体全体を動かして後ろの生徒を片付ける。
おかしい。舞原がそんなことをするはずがない。もし、あれで相手しているのが西園寺だったら、確実に体を回した段階でその無防備な背中に一撃を入れられてる。
常に最悪を想定し、どんな勝負でも最高のパフォーマンスを心掛ける舞原がそんなことをするだろうか。
考え方が変わったというのなら納得はできる。だが、舞原は自分の考え方を、、信念は変えることはない。絶対に信念を曲げたりはしない。ましてやそれを変えるだなんてもってのほかだ。
だとすると、考えられることは二つ。
一つはまだ体が温まっていないこと。
二つは体の何処か、おそらく腰のあたりに異常をきたしていること。
一つ目は舞原は試合前には必ず準備、つまりは少し体を動かしてから試合に臨んでいるといつしかミサが言っていた。とすると、残ったのは二つ目、腰の辺りの異常。
参った。舞原がリタイアすれば前線から消え、俺が務めることになる。それだけならいい。俺はなるべく手首を温存したい。更には人数が少なくなったチームには多くのボーナスチャンスが挑まれることが予想される。つまりは舞原のリタイアはこのチームの必敗へと導いてしまう。どうしたものか……。
「終わったわ」
「お疲れ~」
三人全員を片付け終わった舞原がこちらに戻ってくる。
俺は舞原に言葉をかけてやることはできなかった。
まさか、二日目にこんな試練が待ち受けているとは……。
この試験、思ってた以上に厄介になりそうだ……。
自分の持っているスマホの時刻を見て、嘆息する。
舞原が指定した集合時刻は午前7時半なのだが、表示されている数字は8時を指している。
「こりゃ、やっちまったってやつかな……」
まあ、取り敢えずなるべく急いで集合することにしよう。昨日は色々とあったせいで疲れが思ったよりも溜まっていたらしい。
それにしてもよく寝たものだ。そのおかげか頭の中は最近で一番すっきりしているし、体は昨日よりも軽く感じる。まあ、感じるだけだろうが。
「ふう、怒られ案件だな」
そう一人呟き、俺は部屋を出た。
「で、言い訳を聞いてあげるわ」
「言い訳っつてもなあ……」
案の定、舞原に剣の切っ先を向けられながら、俺は問い質されていた。
いや、悪いとは思っている。だが、ここまでする必要はあるだろうか。一つ返答を間違えれば殺されるというこの状況。いくら何でも度を越していると思わないか?
「まあ、昨日は私たちよりも動いてくれたから、仕方ないんじゃない?」
「なん……だと……⁉」
突然、ミサが俺をかばうような発言をしたことに対し、俺は思うわず後ずさる。
「な、何よ……」
「ま、まさか、ミサがそんな言葉を言うなんて、きょ、今日は槍が降る。確実にだ……。だ、だから今日は宿泊施設にとどまった方が……」
「し、失礼ね。私だってそれくらいできるわよ!」
「だ、だって、なあ……」
俺は驚きを隠さぬまま、舞原に助けを求める。
「え、ええ。今日は試験はやめた方がいいんじゃないかしら……」
「二人とも酷い! しかも今日リタイアしたらどうなるのよ。負け確よ」
確かにそうだ。一旦落ち着こう。
「まあ、どうでもいいが、こんなにも早い時間に集まった理由はなんだ?」
隣から盛大にツッコむ少女を無視し、舞原に答えを促す。
「え、そうね。今日の戦う相手なんだけれど、一人が厄介なのよね……」
「一人? 知り合いか?」
「私たちのクラスメイトよ。名前は須保青砥。今日の第四戦目よ」
「四戦目……。ああ、お前がマークしていた奴か」
試験が始まる前に、舞原が独自にマークしていた奴だ。
「能力は、『獣の力を操る能力』。かなり強力よ」
「ああ、あの地味なザ・陰キャみたいな生徒の事?」
ミサが思い出したように声を上げる。
「そう言えば、お前もAクラスだったか」
「何で忘れてるのよ!」
最近ずっといじられっぱなしだったからな。日頃の恨みだ。
「まあ、彼は確か、警察がマークしていた組織に独自で潜入して完全に殲滅したんだっけ? 当時の青砥はCクラスだったから、かなりの出席だったのね」
「実力は折り紙つきってことか……」
これはまためんどくさそうな生徒と当たるもんだ。今日もゆっくりできないかもしれない。
時は流れ、時刻は午前9時。ちょうど今日の一試合目が始まった頃だ。俺はその試合を見ることなく、静かに部屋でのんびりしていた。
別に強者の余裕でも何でもない。ただ、自分の体が心配だっただけだ。
まだ異常は感じていないが、たった一日でかなり右手首に負担をかけ過ぎた。このまま同じようなことが続けば、この試験中に壊れることになる。
「全く、エゴイことしてくれるよ……」
もし、右手が使えなくなったら、俺は間違いなくリタイア、それも試験からリタイアすることになる。流石に右手なしではどうにも戦えない。
それに加え、試験が終わってからも負担をかけることはきっと格段に増えることだろう。尚更、気遣わなくてはいけない。幸い、今日が西園寺との戦いじゃなくてよかった。
さて、そろそろ出番かな……。
入場直前で舞原と合流した俺はステージに上がった。
相手は特別強いわけでもなく、また弱いわけでもないB・Eクラスで構成されたチーム。
だからといって楽に勝てるという訳ではない。
「この試合は私がやるから、下がって」
舞原が進んで前に出た。
「別にいいぞ」
「いってら~」
俺たちはそんな彼女の背中を見送る。この試合も傍観させてもらおう。
「それでは双方準備が整ったようなので、試合開始」
もう聞きなれた教師の声にいち早く舞原が動いた。既に手には禍々しい槍を握り、相手三人に対し躊躇いもなく突っこんでいく。
だがしかし、あちらもただ突っ立ている人形ではない。Eクラスの二人は直ぐに横跳びで回避。Bクラス、つまりは俺のクラスメイトはよけながらも背後からの攻撃に警戒を寄せている。まあ、これがクラスの差ということなのだろうか。ほとんどまぐれで上へと上がった俺たちが言えることでもないが……。
すると、巧みな槍の扱いにより、後ろに回っていたEクラスの生徒がバランスを崩す。あとは腰を捻って槍を刺突させるだけなのだが……、
「あれ……?」
舞原は腰を捻らず、体全体を動かして後ろの生徒を片付ける。
おかしい。舞原がそんなことをするはずがない。もし、あれで相手しているのが西園寺だったら、確実に体を回した段階でその無防備な背中に一撃を入れられてる。
常に最悪を想定し、どんな勝負でも最高のパフォーマンスを心掛ける舞原がそんなことをするだろうか。
考え方が変わったというのなら納得はできる。だが、舞原は自分の考え方を、、信念は変えることはない。絶対に信念を曲げたりはしない。ましてやそれを変えるだなんてもってのほかだ。
だとすると、考えられることは二つ。
一つはまだ体が温まっていないこと。
二つは体の何処か、おそらく腰のあたりに異常をきたしていること。
一つ目は舞原は試合前には必ず準備、つまりは少し体を動かしてから試合に臨んでいるといつしかミサが言っていた。とすると、残ったのは二つ目、腰の辺りの異常。
参った。舞原がリタイアすれば前線から消え、俺が務めることになる。それだけならいい。俺はなるべく手首を温存したい。更には人数が少なくなったチームには多くのボーナスチャンスが挑まれることが予想される。つまりは舞原のリタイアはこのチームの必敗へと導いてしまう。どうしたものか……。
「終わったわ」
「お疲れ~」
三人全員を片付け終わった舞原がこちらに戻ってくる。
俺は舞原に言葉をかけてやることはできなかった。
まさか、二日目にこんな試練が待ち受けているとは……。
この試験、思ってた以上に厄介になりそうだ……。
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