上 下
22 / 51
本編

友達とはライバルであり

しおりを挟む
 一試合目は残った生徒が降伏し、俺たちの不戦勝。
 続く二試合目は舞原が制圧し、二勝目。
 更に三試合目から五試合目までこれといった障害もなく突破し、第六試合へと進んだ。

 「はあ、疲れる……」
 俺はゆっくりと息をついた。
「どの口が言っているのよ。貴方、一試合目以外何もしていないじゃない……」
「ほんとにそう。全部私たちだけでやってるじゃない!」
「一つ異を唱えておくと、ミサ、お前も何もやってないだろ……」
「はあ? 何言ってるのよ。ちゃんと活躍してたでしょ!」
「残念だが、防御専門とは言え、後ろで何もせず、攻撃が来るのをずっと突っ立ってることは活躍したとは言えない」
「くっ…………」
 ミサは悔しそうにそう漏らした。
 だが、事実だ。俺もほとんど何もやってないが、それはミサも同じ。お互い様としか言えないわけだ。
「一応確認だけど、分かってる?」
「「何が?」」
 そう切り出した舞原に対して、俺とミサは揃って聞き返す。
 舞原はわざとらしく大きくため息をついた。失礼な奴だ。
「次の試合ではボーナスチャンスを使うから覚悟しておいてって、さっき言ったはずなんだけど……」
「ああ、そう言えば……」
 ミサは納得したようだが、俺はそんな話は聞いてないぞ。
「だがいいのか? 大会初日に使っちまって、何か狙いでも?」
 チャンスは一チームにつき三回まで。ハイリスクハイリターンなその権利は逆転をかけて使うものだと思っていたが。
「ええ、取り敢えず、初日には西園寺たちに並んでおきたいのよ」
 一番警戒している西園寺のチームは初戦でボーナスチャンスを成功させ、五試合が終わった時点で 9ポイントと現在トップを独走している。それを追うのが、俺たちのチーム含む、現在まで全勝の5ポイントのチームたち。
 ここで俺たちがボーナスチャンスを成功させれば5ポイントプラスの10ポイント。その後の西園寺たちの試合も奴らは勝利と仮定すると、初日で並ぶことになる。
「まあ、お前の考えには従うつもりだが、『西園寺のチームがチャンスを使ったから』という理由なら、俺は反対するぞ」
 そうなると、この試験で奴らに振り回されることになる。そうなった場合に待ち受ける結果は敗北。俺たちのチームが奴らに利用され、大事なところでポイントを落とす。そんなの目に見えている。だからこそ、そのような理由ならば、俺は反対する。
「流石にそんな理由じゃないわよ。だけど、西園寺のにはプレッシャーはかけておきたいのよ。だから、一枚はここで切らせてもらう。いいわね」
「別に、舞原がいいなら、私はいいわよ」
「俺も異論はないが、ミサ、お前のその言葉の裏を取ると、俺の提案は絶対に飲まないって言っているように聞こえるが?」
「当たり前じゃない。あんたの考えなんか、舞原の足元にも及ばないわ。言うだけ無駄よ」
「…………泣いていいか?」
 最近、かなり酷い扱いを受けている。特にミサから。
 そろそろ犯罪でも犯してでも俺の弱みを握ってきそうだ。特にミサから。
 もう、俺はいじめられていると言ってもいいのではないか。特にミサから。
 それに、今日の一試合の俺の実力を見た生徒たちは皆、口々にこう言ったらしい。
 「ドーピングだ」と。
 もう俺の精神にはヒビがいくつも入ったよ。失礼な生徒たちばっかりな学校だ。
 まあ、それはそうとして……。
「で、あと何分後なんだ?」
「いや? もう時間よ。用意しなきゃ」
「次からはもう少し早く相談してくれ」
 楽観的なのはお前じゃないか? という言葉は飲み込んでおいた。

 俺たちはステージに立つや否や、チャンスを使い、相手のチームは一人のメンバーを選び始める。ちなみに相手はD・Eクラスの生徒で固めたチームだ。そして、長考の末、相手が選んだメンバーは、
「予想はしていたけど、まさか初日とはね。よろしく頼むよ、零」
 出てきたのは汗衫だった。
 これは珍しい。てっきり、俺は西園寺を連れて来ると思っていたのだが、予想が外れた。まさか汗衫とは…………。
「……汗衫の相手は任せるわよ……」
「ああ、お前は他の奴を頼む」
 静かに耳打ちしたところで教師の声がかかる。
「それでは、双方準備が整ったと判断し、試合開始」
 瞬間、汗衫が動いた。――んだろう。何せ残像もよく見えず、汗衫が消えていたのだから、まあよく分からなかったのは相手も同じ。何故なら、俺も動いているから。
 轟音が響き、汗衫が繰り出した膝蹴りを右拳で真正面から受け止める。
「また強化してきたか、相変わらず暇だな」
「お前こそ、今まで力を隠してきたくせに」
 汗衫の能力は、『脚力を倍増させる能力』。脚に使う力は倍増されるという能力だ。一見、そんなにも強力とは言えないと感じる。だが、これが間違いだ。
 この能力の強さは根本的なところにある。この能力は脚力を“倍増”させる能力。そう、“倍増”なのだ。西園寺の『身体能力を五倍にする能力』のように詳しい数字がない。つまり、鍛えれば鍛えるほど、倍増される力は増幅する。
 理論的に無限に強くすることが可能なのだ。
 そんな奴に真正面で戦おうなど、意味が無いことだ。
 俺以外は。
 俺は、汗衫から距離を取る。やれやれ、流石に真正面はやり過ぎたか。
「いって~。流石にしびれるな」
 手をプラプラと振るう。
「それはこっちのセリフだ」
 同じく汗衫も膝が痛むらしい。
「ただ、楽しいな」
 汗衫らしい言葉が飛んでくる。
 たった一撃。一瞬の攻防。
 されど、その一撃で俺たちは互いに警戒しあう。
 刹那、今度は俺から動いた。勢いよく地を踏み抜き、直線的な軌道で汗衫との距離を一気に縮める。だが、それをよけられない奴ではない。
 簡単によけると、すぐさま反撃を繰り出す。
 足を大きく振り上げ、大きく振り下ろす。
「あっぶな……!」
 鋭いかかと落としを間一髪でよけ、俺は左からのフェイントを交えて、右フックを打ち込む。
「……くっ……」
 会心の一撃とはいかないが、命中したその攻撃に、汗衫は思わず苦悶の声を漏らした。
 だが、これで手を休めるほど、俺は甘くない。
 すぐさま、左拳のアッパーを振りぬくが危険を察知した汗衫は回避行動をとり、よけて見せる。
「やるな。さすがというべきか……」
「それもこっちのセリフだ。実力は隠しているとは思ってはいたが、まさかここまでとはね……」
 疲労で言えば、一撃を貰った汗衫の方がたまっているが、その差はないに等しい。まだまだ油断はできない。まあ、はなからするつもりはないが。
 俺は一度深呼吸をすると、もう一度、汗衫へと地を蹴る。今度は回り込むようにして、背後を狙う。だが、汗衫も完璧なタイミングで回し蹴りで合わせてきた。俺は咄嗟に予定変更。勢いはそのままに反撃を狙いつつ、警戒しながら転げるように蹴りを交わすと、こちらからも、地面すれすれの蹴りで、相手のバランスを崩す。汗衫は落ち着いて対応し、飛び上がってそれをよけると、そのままかかと落としを繰り出す。
「まっず……!」
 またも転げるように躱し、反撃は未だに出来ていない。
 ここで手を休めては、再度攻められる。早急に結論付け、かかと落としの後隙に汗衫の懐へと潜り込むように動くと、手刀を横薙にふうる。当たらないのは分かっている。それでも俺は攻撃を繰り返す。
「さっきから、打撃ばかりだなっ……!」
「おっ……!」
 手刀を完全によけた汗衫は俺の胸倉をつかむと、地面に打ち付けるように投げ飛ばす。仰向けに倒れた俺だが、追撃を仕掛けようと俺の顔を覗き込んだ瞬間、俺は容赦なく右ストレートをその顔面に叩き込む。
 後ろに大きくよろめき、またとない隙が生まれる。それを俺は逃さない。すぐさま起き上がると、渾身のボディーブローを腹部に叩き込み、汗衫は地面に突っ伏した。既に腕時計には赤いランプが点滅している。
「ふう……」
 実に危なかった。力を調整しているとはいえ、ここまで追い詰められると流石に俺も焦る。今回は何とかなったが、全てがそううまくいくとは限らない。いつか敗北することだって勿論あり得る。だからこそ、その可能性をどこまで縮められるかがポイントだ。
 周りを見ると、舞原は既にチームメンバーを倒し終わっていた。こちらもかなりの強者だな。さすがだ。
「やっと終わったのかしら? この試合は貴方待ちよ」
「ミサ、本当は?」
 俺はどや顔で文句を言ってきた舞原ではなく、ミサに真実を問う。
「ついさっき、一分前ぐらい」
「誤差だな」
 ともかくとして、一応ボーナスポイントとして、5ポイントは手に入れた。これで俺たちの現在のポイントは計10ポイント。今日は残り一試合なのだが、この相手が厄介なのだ。
「次が正念場ね。ここで負けることは許されないわ」
 次で負ければ、一ポイント失われ、9ポイント。西園寺のチームに並ぶということは不可能になり、優勝は遠のく。勝つ以外方法はない。
 俺たちは連続的に試合を行うため、すぐさま隣のステージへ。既に相手チームは待っていた。
「で、あんたたちがうちらの相手ってわけね」
「まあ、関係ないけど」
 今回の相手、Dクラスの双子の姉と弟の槙田まきたりんれん。どちらも同じような能力を持つ者だ。
「双方揃ったようなので、試合開始」
 教師の声が響く。戦いの時間は待ってくれない。まだ試合を終えてから三分も経ってない。だが始まってしまっては後には戻れない。既に賽は投げられた。後はそれに身を投じるだけで十分だ。
 数分間、睨み合いが続く。互いに様子をうかがうが、別にもらえる情報は少ないはずだ。つまりは時間の無駄。
 俺は静かに地を踏みぬき、一瞬にして二人との距離をゼロにする。そして、流れるままにボディーブローを放った。だが、更に次の瞬間には俺の体は宙に浮いていた。
 宙に浮いていた?
「…………! マジかよ!」
 理解するのに数十秒を有するほどの一瞬の出来事。その時間があだとなったのか、受け身が遅れ、この試験では初めて、全身に走る痛みと出会う。
 俺はすぐさま状況整理。きっと、今の一瞬で俺の拳を捌き、かつ、俺を綺麗に投げ飛ばす動作を同時に行ったということなのだろう。純粋な能力だけでなく、素の身体能力の高さが窺える。
「マジか……。ここまで綺麗に投げられるとは夢にも見なかったな」
 俺は二人を一瞥する。当の本人は無表情のまま立ち尽くしている。
 俺は再度息を整える。
 体に疲労がないといえば嘘になる。先程の汗衫との一戦で確実に疲労は溜まっていることだろう。ただ今はそれを感じないだけだ。きっと動きには多少の制限が付く。演じられるのは最高で互角までだと断定した方が良さそうだ。
 疲れるが、やるしかない。ちょうど楽しくなってきたし、溜まっているであろう疲労も体を温めていた際に溜まったものと認識すれば何も問題はない。条件は大丈夫。傍観者たちも一度は俺の実力を見ているわけであるから、そんなには驚きはしないだろう。
 俺は首をコキコキと鳴らしながら、誰にも聞こえないような声量で呟いた。
「一皮むきますか。そして、」

「後悔するなよ?」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

処理中です...