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本編
俺は無能力者だ
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「 俺は、勝ちを確信していた。
追いかけてきた男一人を倒し、今、もう一人の男と対峙しているのだが、この男。無能力者なのだ。そして、俺は能力者。無能力者と能力者。どちらが勝つか。どちらが強いかなんて目に見えてる。見た感じ、戦闘経験も少なそう。
つまり、この男が勝つなんてことは十中八九ない。だが、この目の前に立っている男は動揺するわけでもなく、淡々と俺と話をしている。俺はそれが一番不思議だった。目の前に自分の命を狙っている者が立っているのに対し、何故こんなにも冷静でいられるのか。不思議で仕方がなかった。
話を続けていくうちに、この男は戦う意思を示してきた。勝敗なんて戦わずしてもわかっている。さらに言うと、こいつはナイフを鞘にしまっている。ナイフを握っていたら、少し面倒くさかったが、素手で無能力者が能力者と戦うなんて無謀にもほどがある。だが、今にも戦闘が始まろうとしたとき、異変は起きる。
一回だ。たった一回の瞬きの間に目の前に立っていた者は変わっていた。男から女に変わっていた。髪も長くなっており、一人称も「俺」から「私」に変わっていた。そして、この少女を俺は知っていた。そうだ。この男がボコボコにされていた動画で出てきた、男たちをボコボコにしていた少女だった。
「誰だ?お前は」
「誰?君なら知っているんじゃないか?」
少女は微笑しながら言う。俺はその笑みに少しばかり恐怖を覚える。
「まあ、私の正体なんて今はどうでもいいでしょ。で、やるの?やらないの?」
「ちっ、やるに決まってんだろっ…!」
俺は全力で彼女との距離を詰めていく。動画で見た彼女の実力は並大抵なんてものじゃない。最強と名乗っても別におかしくはないくらいだった。だったら、本気で戦うしか、勝つ方法はない。そう思ったのだが、
「……あ、れ…?」
また瞬きをした瞬間、彼女が視界から消えたかと思うと、俺の視界は一瞬にして黒く染まる。そして、首筋に衝撃が走ったかと思うと、頬に固い感触が伝わってきた。
何でだ?なんで俺は地面に倒れて……。
そんな疑問を浮かべる俺に対し、冷酷な声が向けられる。
「そんな程度か。口だけっていうのはお前みたいな奴のことを言うんだな」
今度は男の声。あの時の女の声じゃない。
「誰だ、お前は……?」
俺の率直な疑問。そんな俺の問いかけに対し、男は、
「俺か?お前が散々無能力者って叫んでた男だよ。だが、今、そんなことはどうでもいい。俺の言うことに従え」
「ふざけるな…、なんでお前なんかに…」
そんな俺の首に冷たい感触を感じた。
「今、お前の首にあてがっている物が何なのか分かるだろ?分かるなら、抵抗は無意味だと理解できるはずだ」
そう言いながら、男は続ける。
「お前は、足技を主体とする能力者に負けた。警察に問われたらそう言え」
「何故だ?お前は正直言ってそこに寝ている男の実力とは歴然の差があるはずだ。なのにどうして自分の実力をひた隠す」
「理由なんてお前には関係ないだろ。ただ、世界にはそういう奴もいるっていうことだ。お前は素直に従っていればいいんだよ。もし、お前が俺のことを証言するならば、お前はそこで終わる。肝に銘じておけ」
「ああ、分かった」
そう言った後、俺は完全に気を失うのだった。
「ふう」
地面に寝そべり、完全に気を失っている男を見て、俺は息をつく。少しばかりやりすぎてしまった感はあるがここは目をつぶっておくことにしよう。そう思い、俺は静かにこの場を離れるのだった。
追いかけてきた男一人を倒し、今、もう一人の男と対峙しているのだが、この男。無能力者なのだ。そして、俺は能力者。無能力者と能力者。どちらが勝つか。どちらが強いかなんて目に見えてる。見た感じ、戦闘経験も少なそう。
つまり、この男が勝つなんてことは十中八九ない。だが、この目の前に立っている男は動揺するわけでもなく、淡々と俺と話をしている。俺はそれが一番不思議だった。目の前に自分の命を狙っている者が立っているのに対し、何故こんなにも冷静でいられるのか。不思議で仕方がなかった。
話を続けていくうちに、この男は戦う意思を示してきた。勝敗なんて戦わずしてもわかっている。さらに言うと、こいつはナイフを鞘にしまっている。ナイフを握っていたら、少し面倒くさかったが、素手で無能力者が能力者と戦うなんて無謀にもほどがある。だが、今にも戦闘が始まろうとしたとき、異変は起きる。
一回だ。たった一回の瞬きの間に目の前に立っていた者は変わっていた。男から女に変わっていた。髪も長くなっており、一人称も「俺」から「私」に変わっていた。そして、この少女を俺は知っていた。そうだ。この男がボコボコにされていた動画で出てきた、男たちをボコボコにしていた少女だった。
「誰だ?お前は」
「誰?君なら知っているんじゃないか?」
少女は微笑しながら言う。俺はその笑みに少しばかり恐怖を覚える。
「まあ、私の正体なんて今はどうでもいいでしょ。で、やるの?やらないの?」
「ちっ、やるに決まってんだろっ…!」
俺は全力で彼女との距離を詰めていく。動画で見た彼女の実力は並大抵なんてものじゃない。最強と名乗っても別におかしくはないくらいだった。だったら、本気で戦うしか、勝つ方法はない。そう思ったのだが、
「……あ、れ…?」
また瞬きをした瞬間、彼女が視界から消えたかと思うと、俺の視界は一瞬にして黒く染まる。そして、首筋に衝撃が走ったかと思うと、頬に固い感触が伝わってきた。
何でだ?なんで俺は地面に倒れて……。
そんな疑問を浮かべる俺に対し、冷酷な声が向けられる。
「そんな程度か。口だけっていうのはお前みたいな奴のことを言うんだな」
今度は男の声。あの時の女の声じゃない。
「誰だ、お前は……?」
俺の率直な疑問。そんな俺の問いかけに対し、男は、
「俺か?お前が散々無能力者って叫んでた男だよ。だが、今、そんなことはどうでもいい。俺の言うことに従え」
「ふざけるな…、なんでお前なんかに…」
そんな俺の首に冷たい感触を感じた。
「今、お前の首にあてがっている物が何なのか分かるだろ?分かるなら、抵抗は無意味だと理解できるはずだ」
そう言いながら、男は続ける。
「お前は、足技を主体とする能力者に負けた。警察に問われたらそう言え」
「何故だ?お前は正直言ってそこに寝ている男の実力とは歴然の差があるはずだ。なのにどうして自分の実力をひた隠す」
「理由なんてお前には関係ないだろ。ただ、世界にはそういう奴もいるっていうことだ。お前は素直に従っていればいいんだよ。もし、お前が俺のことを証言するならば、お前はそこで終わる。肝に銘じておけ」
「ああ、分かった」
そう言った後、俺は完全に気を失うのだった。
「ふう」
地面に寝そべり、完全に気を失っている男を見て、俺は息をつく。少しばかりやりすぎてしまった感はあるがここは目をつぶっておくことにしよう。そう思い、俺は静かにこの場を離れるのだった。
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