上 下
2 / 51
本編

俺は無能力者

しおりを挟む
 「ちっ、待て!」
街の繫華街の路地裏で俺のそんな声が響き渡る。俺は路地裏のゴミや、パイプをよけながら、目の前を走る男にひたすら走る。
「くっ、来るな!殺すぞ!」
男は逃げられないと悟ったのか、振り向くと、ナイフをこちらに向け、脅してくる。
「っ……」
俺は急ブレーキ。男と距離を置く。そして、相手の出方を伺っていると、男の後ろから青髪の青年が男を拘束する。
「チックショー。離せ!」
男は必死にもがくが、青髪の青年はものともせず、言った。
「何突っ立ってんだ。無能力者」

 ここは、学校だ。ただの学校じゃない。世界の治安を守る警察になるための教育を受けるための学校だ。先程の男は、能力で強盗をしたため、近くのこの学校に指令が来た。学校にも、かなりの頻度で命令が来ることがある。
 「あ~あ」
俺は大きく伸びをしながら、『Fクラス』と書かれた教室へと入っていく。
 この学校は、能力や、戦闘技術などでランク分けされている。A~Fクラスまであるため、俺は一番下のクラスに所属しているということだ。
「お前、何もやってないのに、疲れたような顔すんなよな。その顔をしたいのはこっちだ」
と、同じクラスに所属する、汗衫かざみ祥太しょうたが言う。
「仕方ないだろ。俺はお前とは違って能力者じゃない。無能力者なんだ。お前たちにとってはイージーかもしれないが、俺にとってはハードなんだよ。そこを考えてくれ」
「フン。そんなことでよくこの学校に入れたな。元々、ここは能力者が入るようにできた学校なんだ。つまり、入学試験では能力者が優遇される。なのに、お前は無能力者なのにも関わらず、入学できた。初めて聞いた時には驚いたよ。それと同時に、どのくらいの実力なのかも気になった。だが、蓋を開けてみれば、これだ。戦う事は愚か、その他でも能力者との実力はかけ離れている。お前は一体何なんだ」
こう言われるのも初めてじゃない。
この学校は、Aクラスに所属して、一年間功績を残さなければ卒業できない。だから、俺は、今既に上へと進んだ奴らにも言われた。だから俺は、いつも決まってこう答える。
「俺は、警察になれるという、将来が保障された制度に目がくらんだ、ただの無能力者だ」
、と。

「あ~あ」
今日の授業が終わり、大きく伸びをする。
「ったく、こっちの気にもなってみろってんだよ」
そう言いながら、繁華街を歩く。
夜の繁華街は、会社帰りの大人たちや、学生たちで賑わっている。
俺は、近くにあった自販機で缶コーヒーを買うと、飲みながら歩き出す。
夜の繁華街というのは歩くだけでも気持ちを高揚させてくれる。自ら参加しなくてもいいという点では最高の気分転換と言えるだろう。などと、勝手な分析をしていた時だった。
「ん?」
少し先の路地裏の入口付近で何やらもみ合いになっているようだった。
少し近づき、様子を見る。
どうやら、俺と同じくらいの少女が、見るからに能力者という立場を権力に使っていそうな人たちに絡まれているようだ。
このまま見逃してもいいが、何もしないというのは流石に気が引ける。という事で俺は行動を開始する。そのまま歩き続け、俺は肩を複数人いた中の一人にぶつけた。まあまあの勢いで。
「んだ?お前、喧嘩売ってんのか?」
予想通り、すぐに絡んできた。だが、やはり疑問に思う。どうして弱者という者は自分が強者だと勘違いしてしまうのだろうか。
「いや、別にそんなつもりは…」
少し逃げ腰の対応。その間に、俺は少女に逃げろと、視線を送る。少女はゆっくりと首肯したかと思うと、瞬間、駆け出した。
「ちょ、おい、待て!」
この場にいた全員が少女に視線が送られる。この隙に俺もこの場をおさらばする予定だった。そう。予定だった。
「あんたは逃がさないよ」
男に腕をつかまれる。おうおう、面倒くさい方向に流れてきたぞ。
「あんたのせいで逃がしちまったんだ。その責任、もちろん取ってくれるよね?」
ちっ。やっぱり関わらない方が得策だったか。今更ながら後悔した。だが、もう後の祭り。
俺は、嘆息すると、男たちを睨み付けながら言った。
「後悔するなよ?」
そう、俺の名は、椿つばきれい。ただの、無能力者だ……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

【R18】散らされて

月島れいわ
恋愛
風邪を引いて寝ていた夜。 いきなり黒い袋を頭に被せられ四肢を拘束された。 抵抗する間もなく躰を開かされた鞠花。 絶望の果てに待っていたのは更なる絶望だった……

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

処理中です...