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もう一度、「守りたい」と誓うために…
Epilogue これから綴る物語
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あれから月日は流れるように経ち、俺は卒業となった。今は卒業式も終わり、解散となった直後だ。俺は一流とまではいかないが、中々にいい大学へと入学する。
あの時、夏織の担当医に言われた朗報。それは、夏織の病気が手術で治る可能性があったことだ。勿論簡単なことじゃない。成功する確率は二けたにも満たない。そんな一か八かの手術だった。圧倒的に生き残る可能性は低い。それでも彼女は生きることを諦めなかった。直ぐに手術をすることを決め、彼女は一発逆転をかけた。
夏織がベットの上で俺の手を握りながら、手術室へ向かう情景は昨日のように思い出せる。
「今頃、何してるのかな?」
雲一つない澄んだ空を見上げながら、俺は無意識にそう呟く。口には出してみたものの、夏織が今どこで何しているかなど、簡単に予想できる。
「さて、帰りますか」
廊下には既に多くの生徒が玄関へと向かっていた。俺はその流れに身を任せる。
玄関では各々が感情を分かち合っていた。友人と抱き合うやつ。恋人と一緒に帰るやつ。感動を抑えきれず、玄関で友人と泣いているやつなど様々だ。だが、俺にはそのような存在は残念ながらいないため、長居は無用と判断し、俺は靴を履き替えようとした時だった。
「永遠北さん」
突然後ろから、担任に声をかけられた。
「はい」
「まずは卒業おめでとう」
「いえ、ありがとうございます。それで、何か?」
担任が俺に話しかけてくることなんて、今までなかったはずだ。それなのに今になって何の用だと思考を巡らせていると、簡単な答えを担任が口にする。
「やはり、二年生の時より明るくなりましたね。何かありましたか?」
なんだそんなことか。俺は少し遠くを見ながら言った。
「そうですか。別にこれと言ってありませんでしたが、自分の生きる理由が見つかった。そんな気がします」
「そうですか」
担任はそれ以上踏み込むことはなく、
「頑張ってくださいね」
と言って、去っていった。
「明るく…か」
やはり傍からみたらそんな風に見えるのか。と、先程の会話を思い返しながら、俺は靴を履き替え、玄関を出た。
校門を潜り、俺は一人歩く。だが、俺は途中で立ち止まり、微笑した。
「ったく、家で待ってろって言ったろ?」
俺が声を掛けた彼女は、何のことやらととぼけた表情を見せる。
「いつまでそこに立っているつもりだ。行くぞ、夏織」
夏織は手術に成功し、俺と今を生きている。こうやって笑顔で。
俺は夏織のお陰で成長することが出来た。絶望に叩き落された俺がここまで幸せを感じられるなんて、あの時は想像も付かなかっただろう。夏織には言葉じゃ言い表せないほど助けられた。だが、俺は何もせず日々を過ごすわけじゃない。誓ったんだ。もう一度、守りたいと。だから、これから綴る俺の人生という物語は、「守りたいと誓う」物語じゃない。そう、これから綴るんだ。
「もう二度と『失わない』と決めた」物語を……。
あの時、夏織の担当医に言われた朗報。それは、夏織の病気が手術で治る可能性があったことだ。勿論簡単なことじゃない。成功する確率は二けたにも満たない。そんな一か八かの手術だった。圧倒的に生き残る可能性は低い。それでも彼女は生きることを諦めなかった。直ぐに手術をすることを決め、彼女は一発逆転をかけた。
夏織がベットの上で俺の手を握りながら、手術室へ向かう情景は昨日のように思い出せる。
「今頃、何してるのかな?」
雲一つない澄んだ空を見上げながら、俺は無意識にそう呟く。口には出してみたものの、夏織が今どこで何しているかなど、簡単に予想できる。
「さて、帰りますか」
廊下には既に多くの生徒が玄関へと向かっていた。俺はその流れに身を任せる。
玄関では各々が感情を分かち合っていた。友人と抱き合うやつ。恋人と一緒に帰るやつ。感動を抑えきれず、玄関で友人と泣いているやつなど様々だ。だが、俺にはそのような存在は残念ながらいないため、長居は無用と判断し、俺は靴を履き替えようとした時だった。
「永遠北さん」
突然後ろから、担任に声をかけられた。
「はい」
「まずは卒業おめでとう」
「いえ、ありがとうございます。それで、何か?」
担任が俺に話しかけてくることなんて、今までなかったはずだ。それなのに今になって何の用だと思考を巡らせていると、簡単な答えを担任が口にする。
「やはり、二年生の時より明るくなりましたね。何かありましたか?」
なんだそんなことか。俺は少し遠くを見ながら言った。
「そうですか。別にこれと言ってありませんでしたが、自分の生きる理由が見つかった。そんな気がします」
「そうですか」
担任はそれ以上踏み込むことはなく、
「頑張ってくださいね」
と言って、去っていった。
「明るく…か」
やはり傍からみたらそんな風に見えるのか。と、先程の会話を思い返しながら、俺は靴を履き替え、玄関を出た。
校門を潜り、俺は一人歩く。だが、俺は途中で立ち止まり、微笑した。
「ったく、家で待ってろって言ったろ?」
俺が声を掛けた彼女は、何のことやらととぼけた表情を見せる。
「いつまでそこに立っているつもりだ。行くぞ、夏織」
夏織は手術に成功し、俺と今を生きている。こうやって笑顔で。
俺は夏織のお陰で成長することが出来た。絶望に叩き落された俺がここまで幸せを感じられるなんて、あの時は想像も付かなかっただろう。夏織には言葉じゃ言い表せないほど助けられた。だが、俺は何もせず日々を過ごすわけじゃない。誓ったんだ。もう一度、守りたいと。だから、これから綴る俺の人生という物語は、「守りたいと誓う」物語じゃない。そう、これから綴るんだ。
「もう二度と『失わない』と決めた」物語を……。
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