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プロローグ
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街の中心にある領主の館。おそらく多くの人間がその昔に、働き生活してたであろう建物の一部屋で、俺は朝日によって目覚める。
新しい種族との出会いから、騙し合い、殺し合う。この世界に降り立ってから2ヶ月の間は、非日常の連続だった。その生活は、この代理戦争の勝者を決定するまで、この先も非日常は続いていく。しかし、そんな生活の中でも、唯一変わることのない日差しに感謝しながら、俺は体を起こしベッドから降りる。
「おはようなんだよぉ、今日もいい朝だね!」
「ああ、おはよう、ペネ。今日も羽が輝いてるな」
「えぇ?そう~?」
俺の傍らでふよふよと浮かぶ、幼女の姿をした女神ペネ。彼女にとって羽を誉められることは、女性にとって髪を褒められるのと、同じように嬉しい事らしい。今も、心だけでなく表情までニマニマしている。その様子を微笑ましく横目で見ながら、俺は靴を履いて自室を出る。
自室から出た俺は、広い館の中を靴でコツコツと音を鳴らしながら、大広間を目指す。4人で生活しているこの館は、ワンフロアにおける端から端の部屋まで、徒歩5分は掛かるのではないかと思うほど広い。それ故に、「仮拠点にどうだろうか」と最初は選んだものの、途中で防衛しやすい建物に移ろうと考えていた。しかし、
「えー、いいじゃん豪華で!なんでわざわざ狭い所になんて引っ越そうとするのよぉ!」
「ここの展望台から見える景色、気に入ってんだけどなぁ」
「引っ越しても物資の運搬が面倒ですし、防衛に関しても私の権能でどうにかなるでしょう」
3人の反対にあって、結局仮ではなく本拠点となってしまった。本当を言えば、3人の反対意見など無視することは難しくなかった。しかし、そうしなかったのは、いつの間にか4人でいるこの空間に、慣れてしまったからなのかも知れない。俺もぬるくなったものだ。
廊下と大広間を隔てる、全長3メートルはありそうな扉の前に着くと、両手で押し開ける。ギギギッと音を立てる扉の先には、今行動を共にしている3人の姿があった。
「よう、ユウト。今日も眠たそうなツラしてるな」
「そういうお前は、今日に限らず眠たそうだな」
ツノを生やし鬼の姿をした男、キルグ。その傍らには、その姿に相応しい鈍重な金棒が置かれている。権能はシンプルな身体強化。その権能の本質は元の身体能力を倍化させることにあるため、素のステータスが高いほど凶悪と化す。
「ユウキぃ~!おはようのハグをしてあげるわ!」
「お前は俺に触れるな!」
「えぇ~ん、ひどくな~い?なんでそんなこと言うのよぉ~」
「昨日しれっと俺に権能使おうとした事を忘れたのか、油断も隙もない奴め」
黒い尻尾とツノ、そして羽を生やしたサキュバスの女、メル。種族的には、男であれば誰でもいいはずなのに、なぜかキルグには興味を示さず、俺に執着してくる。権能は、接触した相手の意識・思考を混濁させる。接触するまでは無能に近いが、接触できればどんなに屈強な戦士でも抵抗する事は出来ない。
「朝からイチャイチャするのはやめて、さっさと朝食を食べてください」
「あらぁ?あなた、もしかして妬いてるのぉ~?」
「なに馬鹿な事を言ってるんですか。ユウキさんもしっかりしてください」
「俺悪くないだろ、どう見ても被害者だよな?」
手にフライパンを持ち、鋭利な発言とは裏腹に可愛らしいエプロンをつけているのは、バニーマンという種族のエマ。ウサギを思わせる長い耳を持ち、全身にうっすらと白い毛をもつ彼女の権能は、素材から自在に道具を生成できる。戦闘も索敵もできないが、それ以外ならこれ以上ないほど万能な能力。
「今日の朝食はトーストにベーコンエッグか」
「”今日も”、だけどな」
「そう言うなよ、少しは新鮮な気持ちで朝食を食べたいんだ」
「手早く簡単に作れるんです、文句を言うなら食べないでください」
そして俺は、特に身体的な特徴を持たない普通の地球人。特に毛深いと言うわけでもないのだが、3人から見る俺は、猿に相当する外見に見えるらしい。まぁ、類人猿の進化だから、あながち間違いではないが。
そして、俺の権能は自分並びに相手の心に干渉すること。一定の距離内の相手の心を読み、恐怖・興奮・闘争心といった感情を強めたり弱めたりすることができる。戦闘能力こそないが、諜報能力から工作能力まで支援に特化した能力だ。
俺に抱きつこうとしてくるメルを追い払うと、俺は席に着く。既にキルグとメルは朝食を食べ終えたらしく、俺はエマと一緒に用意された朝食を食べる。この4人が揃ってから、今日も変わらない朝だ。
この3人と過ごす日々は、非日常の中でも居心地が良かった。もし、この先3人と殺し合うことになったとしても、この日常への感謝を忘れないだろうと、思える程度には。
新しい種族との出会いから、騙し合い、殺し合う。この世界に降り立ってから2ヶ月の間は、非日常の連続だった。その生活は、この代理戦争の勝者を決定するまで、この先も非日常は続いていく。しかし、そんな生活の中でも、唯一変わることのない日差しに感謝しながら、俺は体を起こしベッドから降りる。
「おはようなんだよぉ、今日もいい朝だね!」
「ああ、おはよう、ペネ。今日も羽が輝いてるな」
「えぇ?そう~?」
俺の傍らでふよふよと浮かぶ、幼女の姿をした女神ペネ。彼女にとって羽を誉められることは、女性にとって髪を褒められるのと、同じように嬉しい事らしい。今も、心だけでなく表情までニマニマしている。その様子を微笑ましく横目で見ながら、俺は靴を履いて自室を出る。
自室から出た俺は、広い館の中を靴でコツコツと音を鳴らしながら、大広間を目指す。4人で生活しているこの館は、ワンフロアにおける端から端の部屋まで、徒歩5分は掛かるのではないかと思うほど広い。それ故に、「仮拠点にどうだろうか」と最初は選んだものの、途中で防衛しやすい建物に移ろうと考えていた。しかし、
「えー、いいじゃん豪華で!なんでわざわざ狭い所になんて引っ越そうとするのよぉ!」
「ここの展望台から見える景色、気に入ってんだけどなぁ」
「引っ越しても物資の運搬が面倒ですし、防衛に関しても私の権能でどうにかなるでしょう」
3人の反対にあって、結局仮ではなく本拠点となってしまった。本当を言えば、3人の反対意見など無視することは難しくなかった。しかし、そうしなかったのは、いつの間にか4人でいるこの空間に、慣れてしまったからなのかも知れない。俺もぬるくなったものだ。
廊下と大広間を隔てる、全長3メートルはありそうな扉の前に着くと、両手で押し開ける。ギギギッと音を立てる扉の先には、今行動を共にしている3人の姿があった。
「よう、ユウト。今日も眠たそうなツラしてるな」
「そういうお前は、今日に限らず眠たそうだな」
ツノを生やし鬼の姿をした男、キルグ。その傍らには、その姿に相応しい鈍重な金棒が置かれている。権能はシンプルな身体強化。その権能の本質は元の身体能力を倍化させることにあるため、素のステータスが高いほど凶悪と化す。
「ユウキぃ~!おはようのハグをしてあげるわ!」
「お前は俺に触れるな!」
「えぇ~ん、ひどくな~い?なんでそんなこと言うのよぉ~」
「昨日しれっと俺に権能使おうとした事を忘れたのか、油断も隙もない奴め」
黒い尻尾とツノ、そして羽を生やしたサキュバスの女、メル。種族的には、男であれば誰でもいいはずなのに、なぜかキルグには興味を示さず、俺に執着してくる。権能は、接触した相手の意識・思考を混濁させる。接触するまでは無能に近いが、接触できればどんなに屈強な戦士でも抵抗する事は出来ない。
「朝からイチャイチャするのはやめて、さっさと朝食を食べてください」
「あらぁ?あなた、もしかして妬いてるのぉ~?」
「なに馬鹿な事を言ってるんですか。ユウキさんもしっかりしてください」
「俺悪くないだろ、どう見ても被害者だよな?」
手にフライパンを持ち、鋭利な発言とは裏腹に可愛らしいエプロンをつけているのは、バニーマンという種族のエマ。ウサギを思わせる長い耳を持ち、全身にうっすらと白い毛をもつ彼女の権能は、素材から自在に道具を生成できる。戦闘も索敵もできないが、それ以外ならこれ以上ないほど万能な能力。
「今日の朝食はトーストにベーコンエッグか」
「”今日も”、だけどな」
「そう言うなよ、少しは新鮮な気持ちで朝食を食べたいんだ」
「手早く簡単に作れるんです、文句を言うなら食べないでください」
そして俺は、特に身体的な特徴を持たない普通の地球人。特に毛深いと言うわけでもないのだが、3人から見る俺は、猿に相当する外見に見えるらしい。まぁ、類人猿の進化だから、あながち間違いではないが。
そして、俺の権能は自分並びに相手の心に干渉すること。一定の距離内の相手の心を読み、恐怖・興奮・闘争心といった感情を強めたり弱めたりすることができる。戦闘能力こそないが、諜報能力から工作能力まで支援に特化した能力だ。
俺に抱きつこうとしてくるメルを追い払うと、俺は席に着く。既にキルグとメルは朝食を食べ終えたらしく、俺はエマと一緒に用意された朝食を食べる。この4人が揃ってから、今日も変わらない朝だ。
この3人と過ごす日々は、非日常の中でも居心地が良かった。もし、この先3人と殺し合うことになったとしても、この日常への感謝を忘れないだろうと、思える程度には。
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