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一章
トウヒモドキの葉を採取しよう
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拠点の北にあるトウヒモドキの倒木から枝の採取を終えて、暗闇のなか帰路についた俺たちを出迎える、まばゆい文明の光。
なんとか迷うことなく拠点に戻ってくることができたわけだ。
で、
『新しい技能を取得しました。(4)』
『技能スロットにセット可能な技能が5つを超えました。
技能のアシスト機能は、当該技能が技能スロットにセットされている場合のみ適用されます。
詳細については技能スロット選択ウィンドウのインフォメーションをご確認ください。』
脱出ポッドに近づくと、顔の横手に仮想ウィンドウが立ち上がる。
透過する黒いウィンドウに白い文字色で表記される、インフォメーションメッセージ。
夜闇のなかだと、仮想ウィンドウのテーマが自動的に切り替わるようだ。
……ちょっと綺麗だな。
「ん、技能、きた」
カノンの方にも、ウィンドウが立ち上がっている。
さて、【夜目】は取得できているかな?
「こっちもだ……おん? 4つもあるぞ」
「わたしも、3つ、ある」
ちょっと確認してみよう。
――――――――――
【 夜目 】new !!
【 聴力強化 】new !!
【 危機感知 】new !!
【 運搬 】new !!
――――――――――
今回の資源採取は、延べ1時間も掛かっていない。
それなのに、やたらぽこぽこと新規技能が生えてくる。
やっぱり今作から新規技能の取得の条件緩んでいるようだ。
なんだろう、やっぱりフルダイブになったことで、一部の経験が積みにくくなったことに対する緩和とかだろうか。
言われてみればたしかに、「夜間で一定時間活動する」だけで取得できそうな【夜目】ですら、ソロプレイヤーからしてみれば大層怖い思いをすることになりそうだしな。
視覚聴覚限定のダイブからフルダイブになったことによる影響は、さまざまな部分で大きい。
「アバターに経験させる」のと「自分が経験する」のではハードルの高さが違う。
『犬』の頃の条件のままだと、新規技能がなかなか出て来ずに苦戦するプレイヤーも続出しかねない。
前作ではなかなか取得しにくい技能等もあったものだが……
「……まさかこんなに簡単に【聴力強化】貰えるとはな」
「うん、こっちだと、おぼえるの、すっごく、簡単になってる、かも?」
「フルダイブで一部の経験を得るのが大変になったのと。
あとは……、どうせ5つまでしかセットできないし、ってところか」
「なんというか、さいしょから、いっぱい、選べるように?」
「うむ、方針を変えたのかもしれん」
技能は渡すだけ渡しておいて、あとは好きなの選んで習熟してくれってところかな。
とはいえ数百種類あった技能を最初から全部渡すとてんてこ舞いになってしまうから、日常の経験の中で徐々にアンロックされるようにしていこう、と。
もしそうなら、なかなかありがたい仕様変更だ。
ゲーム開始序盤から、プレイヤーの選択肢が多いのはいいことだと思う。
「しかし、緩くなった割にはまだ【伐採】とか来ないのな」
「さっきのあれ、伐採、かな?」
「……枝、毟ってただけだな」
確かにあれで伐採の技術が解禁されるのもおかしな話だ。
あれでは技術もなにもない。
道具を使って樹を切り倒す、ってのが今作での【伐採】のもっともらしい解禁条件かな。
「ま、今後の技能選びとか検証考察はおいといて。
ポッドに戻る前に、その辺のトウヒモドキから葉っぱ毟らせてもらおうぜ」
「んっ。そうしよっ」
カノンも自身の仮想ウィンドウを閉じる。
俺も空いているスロットに【夜目】を突っ込んで仮想ウィンドウを閉じる。
もろもろの仕様は後で確認するとしよう。
*────
さて、拠点付近に運んできたトウヒモドキの枝を下ろして。
目の前にあるのは、脱出ポッドの明かりに照らされる、一本の成木。
太さは一抱えほど。高さは……10m以上ありそうだが、てっぺんは夜闇に溶けて見えない。
枝は2mほどの高さからつき始めており、そこからはまばらに突き出している。
この枝一本から取れる葉っぱは、手のひら一掬いほど。
分析装置に手のひら一掬いほどの葉っぱを放り込んだ時の重さは、たしか……30gちょっとだった。
つまり30本ほどの枝を丸裸にすれば、今回の精油の目標量1kgに届くということになる。
「低いところにある枝から、少しずつ、もらう?」
「うん、それでもいいけど」
というかそちらの方が明らかに効率的だけど。
「今回は、この拠点の前に生えていらっしゃるトウヒモドキを、まるまる一本素材として頂くという感じで行こう。
だから……この樹の枝の葉を、全部剥ぐ」
丸裸にする。
のちに切り倒して家具にも使わせてもらう予定だ。
「えっ、でも……枝、たかくて、届かない、よ?」
カノンの言う通り、このトウヒモドキから突き出る枝の高さは、もっとも低くても2mほど。
一番低いものなら手を伸ばせば届くが、その一つ上となるともう届かない。
だから、
「のぼる」
「のぼるの?」
「のぼる」
登るのだ。
木登りするのだ。
登って、剥ぐのだ。
「いい機会だから【登攀】も狙う」
「木登りも、【登攀】なの? 登攀って、崖登りとか、じゃなくて?」
「カノンよ。『攀じ登る』と書いて登攀だ。
なにかに縋り付いて登るなら、それはもう登攀のはずだ」
「う、うん?」
理屈ではそのはずだ。
実際に前作でも、登攀のセット中は木登りが容易になってたし、『犬』の公式の見解では木登りは登攀の範疇に含まれるのだろう。
「さっきの倒木と違ってこっちは生木だから、道具なしで枝を払うのはたぶん無理だ。
だから革グローブで枝から葉だけを剥ぎ取る。
剥ぎ取った葉っぱは順次革袋に入れてくから、カノンは下で受け取ってくれ。
あ、真下は危ないんでちょっと離れててくれな」
作業自体は、俺一人でも問題なくできるだろう。
でもカノンに脱出ポッドの中で待っててくれと言っても、カノンのことだ、たぶん外で俺を待つというだろう。
なら、なにかしらの仕事をしてもらった方がいい。
「ん、わかった。……のぼれる? 大丈夫?」
「こんくらいならいけるいける」
木登りくらいなら「概ね人間準拠」な身体能力の範疇だ。
滝の飛沫で濡れる断崖絶壁を素手で登ることに比べれば容易い。
……比較対象がおかしいだけか。
苦い思い出に浸りながら、革袋を手に、トウヒモドキの一番低い枝の根元に手を掛ける。
体重を掛ければ、がっしりとした手ごたえ。
やはり生木は見た目よりも頼りになる。
俺の60kgぐらいの荷重には十分耐えてくれそうだ。
生木の頑丈さに期待して、身体を持ち上げる。
そうしてそのまま枝の根元に腰掛ける。
(……うん、安定してるな)
近くの枝を引き寄せ、丁寧に葉っぱを剥ぎ取らせてもらう。
剥ぎ取れば、仄かに香る爽やかな香り。
これがピネンか、それともリモネンか。
わからないが……いい香りだ。
衣服に纏わせる香りとしても悪くないだろう。
一本分、荒く剥ぐのに30秒から1分ほど。
サクサク行けそうだが、30本分となるとカノンを暇させてしまう。
この程度なら大して集中力のいる作業でもなし、少し雑談に付き合ってもらおう。
木の傍らで、こちらを見守ってくれているカノンに声を掛ける。
「カノンは【登攀】はいいのか?」
「えっ、と。あんまり、運動は、得意じゃない、から」
「そういや前作でもあんまりだったっけ。
でもほら、崖登れたら行けないとこにも行けるし、別にゆっくりでもいいんだぞ?」
【登攀】は、プレイヤーの行動範囲を増やしてくれる技能でもある。
崖上に咲く高嶺の花を調査・採取したくなったときとかにも出番がある。
グローブで葉っぱを漉し取りながら、会話を続ける。
「山の方とか行ったとき、俺だけ行ける場所があっても仕方ないしな。
無理にとは言わんが、どうだ?」
「ん、ちょっと、興味、でた」
「おっ、いいねカノン。新しい出逢いがあるかもよ?」
「とりの、たまごとか?」
カノンさん……?
冗談とかではなくマジで鳥卵をご所望なのか。
「こっちでも、面白い、卵とか、あるかも?」
「うん? ……あーっ。あったなぁ、そんなエピソード。
あの卵見つけたの。たしかモンターナ本人だったよな?」
「うん、あの、冒険家の人」
「自称だけどな……懐かしいな、モンターナ」
カノンが言っているのは、『犬』にいた有名プレイヤー・モンターナの卵のことだろう。
あるとき彼が見つけたのは、色とりどりの鉱物からなる「宝石の卵」。
惑星カレドの僻地に住まう、鉱物を主食にする極めて珍しい鳥の、極めて珍しい卵だった。
光を反射させると、まるで分光器のように虹のスペクトルを描き出す。
あれこそ自然の芸術、自然の神秘の結晶そのものだった。
あれは彼が趣味で発刊していた『犬』の博物雑誌にも載ったな。
モンターナの職業は自称「冒険家」。
秘境という秘境に単身で繰り出すミステリーハンターみたいな男だった。
人柱スレの住人でこそなかったが、早々からテレポバグを楽しんでいたし、未開域の切符も楽しんでいたな。
テレポバグや切符では基本的になにも持って帰って来られないが……彼にとっては、富や名声よりも、未開地で得る経験こそが、自らを冒険家足らしめるものだったのだろう。
何度か話したことがあるが、気の合う男だった。
彼もこの世界に来ているのだろうか。来てたらいいな。
「ああいうの、見つけてみたいよな。
大抵秘境とか僻地にあるだろうから大変そうだけど」
「ちょっと、登攀、欲しくなった、かも」
「いいじゃん。……あ、でも木登りで狙うのはおすすめしない。
慣れてないと木登り自体は危ないからな」
低めの丘陵の崖で狙うのが良いと思う。
高さ2、3mくらいの。
*────
「……っと、これでこの枝も終わりっと」
カノンとの雑談に興じながら、トウヒモドキを半分ほど登ったところで、革袋が3つ埋まった。
体感だが、既に1kgは採れているだろう。
これ以上高く登ると枝の耐荷重も心配だし、このあたりにしておこう。
「カノン、お待たせ! 今から降りるから注意してくれ!」
「んっ! だいじょう、ぶっ!」
5mほど下方からカノンの声が返ってくるのを確認して、するするとトウヒモドキから降りる。
広葉樹に比べれば面白みは少ないが、登りやすい木だった。
針葉樹は、なんというか、電柱を登っている気分になるよな……。
「けがとか、ない?」
「おう、カノンに初期装備一式をもらったおかげでな」
革グローブやブーツなしで採取はやりたくないな。
できんことはないだろうけど、手のひらや足裏は当然傷つくだろう。
インナースーツが保護してくれているのは手首足首までだ。
「んっ、よかった。じゃ、戻ろっか」
「おう、あとは装備一式作るだけ――」
『新しい技能を取得しました。(1)』
仮想端末さんもお疲れさまです。
じゃ、脱出ポッドの中に入ろうか。
なんとか迷うことなく拠点に戻ってくることができたわけだ。
で、
『新しい技能を取得しました。(4)』
『技能スロットにセット可能な技能が5つを超えました。
技能のアシスト機能は、当該技能が技能スロットにセットされている場合のみ適用されます。
詳細については技能スロット選択ウィンドウのインフォメーションをご確認ください。』
脱出ポッドに近づくと、顔の横手に仮想ウィンドウが立ち上がる。
透過する黒いウィンドウに白い文字色で表記される、インフォメーションメッセージ。
夜闇のなかだと、仮想ウィンドウのテーマが自動的に切り替わるようだ。
……ちょっと綺麗だな。
「ん、技能、きた」
カノンの方にも、ウィンドウが立ち上がっている。
さて、【夜目】は取得できているかな?
「こっちもだ……おん? 4つもあるぞ」
「わたしも、3つ、ある」
ちょっと確認してみよう。
――――――――――
【 夜目 】new !!
【 聴力強化 】new !!
【 危機感知 】new !!
【 運搬 】new !!
――――――――――
今回の資源採取は、延べ1時間も掛かっていない。
それなのに、やたらぽこぽこと新規技能が生えてくる。
やっぱり今作から新規技能の取得の条件緩んでいるようだ。
なんだろう、やっぱりフルダイブになったことで、一部の経験が積みにくくなったことに対する緩和とかだろうか。
言われてみればたしかに、「夜間で一定時間活動する」だけで取得できそうな【夜目】ですら、ソロプレイヤーからしてみれば大層怖い思いをすることになりそうだしな。
視覚聴覚限定のダイブからフルダイブになったことによる影響は、さまざまな部分で大きい。
「アバターに経験させる」のと「自分が経験する」のではハードルの高さが違う。
『犬』の頃の条件のままだと、新規技能がなかなか出て来ずに苦戦するプレイヤーも続出しかねない。
前作ではなかなか取得しにくい技能等もあったものだが……
「……まさかこんなに簡単に【聴力強化】貰えるとはな」
「うん、こっちだと、おぼえるの、すっごく、簡単になってる、かも?」
「フルダイブで一部の経験を得るのが大変になったのと。
あとは……、どうせ5つまでしかセットできないし、ってところか」
「なんというか、さいしょから、いっぱい、選べるように?」
「うむ、方針を変えたのかもしれん」
技能は渡すだけ渡しておいて、あとは好きなの選んで習熟してくれってところかな。
とはいえ数百種類あった技能を最初から全部渡すとてんてこ舞いになってしまうから、日常の経験の中で徐々にアンロックされるようにしていこう、と。
もしそうなら、なかなかありがたい仕様変更だ。
ゲーム開始序盤から、プレイヤーの選択肢が多いのはいいことだと思う。
「しかし、緩くなった割にはまだ【伐採】とか来ないのな」
「さっきのあれ、伐採、かな?」
「……枝、毟ってただけだな」
確かにあれで伐採の技術が解禁されるのもおかしな話だ。
あれでは技術もなにもない。
道具を使って樹を切り倒す、ってのが今作での【伐採】のもっともらしい解禁条件かな。
「ま、今後の技能選びとか検証考察はおいといて。
ポッドに戻る前に、その辺のトウヒモドキから葉っぱ毟らせてもらおうぜ」
「んっ。そうしよっ」
カノンも自身の仮想ウィンドウを閉じる。
俺も空いているスロットに【夜目】を突っ込んで仮想ウィンドウを閉じる。
もろもろの仕様は後で確認するとしよう。
*────
さて、拠点付近に運んできたトウヒモドキの枝を下ろして。
目の前にあるのは、脱出ポッドの明かりに照らされる、一本の成木。
太さは一抱えほど。高さは……10m以上ありそうだが、てっぺんは夜闇に溶けて見えない。
枝は2mほどの高さからつき始めており、そこからはまばらに突き出している。
この枝一本から取れる葉っぱは、手のひら一掬いほど。
分析装置に手のひら一掬いほどの葉っぱを放り込んだ時の重さは、たしか……30gちょっとだった。
つまり30本ほどの枝を丸裸にすれば、今回の精油の目標量1kgに届くということになる。
「低いところにある枝から、少しずつ、もらう?」
「うん、それでもいいけど」
というかそちらの方が明らかに効率的だけど。
「今回は、この拠点の前に生えていらっしゃるトウヒモドキを、まるまる一本素材として頂くという感じで行こう。
だから……この樹の枝の葉を、全部剥ぐ」
丸裸にする。
のちに切り倒して家具にも使わせてもらう予定だ。
「えっ、でも……枝、たかくて、届かない、よ?」
カノンの言う通り、このトウヒモドキから突き出る枝の高さは、もっとも低くても2mほど。
一番低いものなら手を伸ばせば届くが、その一つ上となるともう届かない。
だから、
「のぼる」
「のぼるの?」
「のぼる」
登るのだ。
木登りするのだ。
登って、剥ぐのだ。
「いい機会だから【登攀】も狙う」
「木登りも、【登攀】なの? 登攀って、崖登りとか、じゃなくて?」
「カノンよ。『攀じ登る』と書いて登攀だ。
なにかに縋り付いて登るなら、それはもう登攀のはずだ」
「う、うん?」
理屈ではそのはずだ。
実際に前作でも、登攀のセット中は木登りが容易になってたし、『犬』の公式の見解では木登りは登攀の範疇に含まれるのだろう。
「さっきの倒木と違ってこっちは生木だから、道具なしで枝を払うのはたぶん無理だ。
だから革グローブで枝から葉だけを剥ぎ取る。
剥ぎ取った葉っぱは順次革袋に入れてくから、カノンは下で受け取ってくれ。
あ、真下は危ないんでちょっと離れててくれな」
作業自体は、俺一人でも問題なくできるだろう。
でもカノンに脱出ポッドの中で待っててくれと言っても、カノンのことだ、たぶん外で俺を待つというだろう。
なら、なにかしらの仕事をしてもらった方がいい。
「ん、わかった。……のぼれる? 大丈夫?」
「こんくらいならいけるいける」
木登りくらいなら「概ね人間準拠」な身体能力の範疇だ。
滝の飛沫で濡れる断崖絶壁を素手で登ることに比べれば容易い。
……比較対象がおかしいだけか。
苦い思い出に浸りながら、革袋を手に、トウヒモドキの一番低い枝の根元に手を掛ける。
体重を掛ければ、がっしりとした手ごたえ。
やはり生木は見た目よりも頼りになる。
俺の60kgぐらいの荷重には十分耐えてくれそうだ。
生木の頑丈さに期待して、身体を持ち上げる。
そうしてそのまま枝の根元に腰掛ける。
(……うん、安定してるな)
近くの枝を引き寄せ、丁寧に葉っぱを剥ぎ取らせてもらう。
剥ぎ取れば、仄かに香る爽やかな香り。
これがピネンか、それともリモネンか。
わからないが……いい香りだ。
衣服に纏わせる香りとしても悪くないだろう。
一本分、荒く剥ぐのに30秒から1分ほど。
サクサク行けそうだが、30本分となるとカノンを暇させてしまう。
この程度なら大して集中力のいる作業でもなし、少し雑談に付き合ってもらおう。
木の傍らで、こちらを見守ってくれているカノンに声を掛ける。
「カノンは【登攀】はいいのか?」
「えっ、と。あんまり、運動は、得意じゃない、から」
「そういや前作でもあんまりだったっけ。
でもほら、崖登れたら行けないとこにも行けるし、別にゆっくりでもいいんだぞ?」
【登攀】は、プレイヤーの行動範囲を増やしてくれる技能でもある。
崖上に咲く高嶺の花を調査・採取したくなったときとかにも出番がある。
グローブで葉っぱを漉し取りながら、会話を続ける。
「山の方とか行ったとき、俺だけ行ける場所があっても仕方ないしな。
無理にとは言わんが、どうだ?」
「ん、ちょっと、興味、でた」
「おっ、いいねカノン。新しい出逢いがあるかもよ?」
「とりの、たまごとか?」
カノンさん……?
冗談とかではなくマジで鳥卵をご所望なのか。
「こっちでも、面白い、卵とか、あるかも?」
「うん? ……あーっ。あったなぁ、そんなエピソード。
あの卵見つけたの。たしかモンターナ本人だったよな?」
「うん、あの、冒険家の人」
「自称だけどな……懐かしいな、モンターナ」
カノンが言っているのは、『犬』にいた有名プレイヤー・モンターナの卵のことだろう。
あるとき彼が見つけたのは、色とりどりの鉱物からなる「宝石の卵」。
惑星カレドの僻地に住まう、鉱物を主食にする極めて珍しい鳥の、極めて珍しい卵だった。
光を反射させると、まるで分光器のように虹のスペクトルを描き出す。
あれこそ自然の芸術、自然の神秘の結晶そのものだった。
あれは彼が趣味で発刊していた『犬』の博物雑誌にも載ったな。
モンターナの職業は自称「冒険家」。
秘境という秘境に単身で繰り出すミステリーハンターみたいな男だった。
人柱スレの住人でこそなかったが、早々からテレポバグを楽しんでいたし、未開域の切符も楽しんでいたな。
テレポバグや切符では基本的になにも持って帰って来られないが……彼にとっては、富や名声よりも、未開地で得る経験こそが、自らを冒険家足らしめるものだったのだろう。
何度か話したことがあるが、気の合う男だった。
彼もこの世界に来ているのだろうか。来てたらいいな。
「ああいうの、見つけてみたいよな。
大抵秘境とか僻地にあるだろうから大変そうだけど」
「ちょっと、登攀、欲しくなった、かも」
「いいじゃん。……あ、でも木登りで狙うのはおすすめしない。
慣れてないと木登り自体は危ないからな」
低めの丘陵の崖で狙うのが良いと思う。
高さ2、3mくらいの。
*────
「……っと、これでこの枝も終わりっと」
カノンとの雑談に興じながら、トウヒモドキを半分ほど登ったところで、革袋が3つ埋まった。
体感だが、既に1kgは採れているだろう。
これ以上高く登ると枝の耐荷重も心配だし、このあたりにしておこう。
「カノン、お待たせ! 今から降りるから注意してくれ!」
「んっ! だいじょう、ぶっ!」
5mほど下方からカノンの声が返ってくるのを確認して、するするとトウヒモドキから降りる。
広葉樹に比べれば面白みは少ないが、登りやすい木だった。
針葉樹は、なんというか、電柱を登っている気分になるよな……。
「けがとか、ない?」
「おう、カノンに初期装備一式をもらったおかげでな」
革グローブやブーツなしで採取はやりたくないな。
できんことはないだろうけど、手のひらや足裏は当然傷つくだろう。
インナースーツが保護してくれているのは手首足首までだ。
「んっ、よかった。じゃ、戻ろっか」
「おう、あとは装備一式作るだけ――」
『新しい技能を取得しました。(1)』
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