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第2章 魔力要員として召喚されましたが解決したので自己研鑽に励みます

4 魔術学園特別講義③

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 模擬戦は2班、3班と続き、4班の女子は、離れた的に対する魔術攻撃で実力を見せてもらう。
 1人目、2人目ともに目に見えて攻撃力の高い火の魔術、炎を圧縮して飛ばす魔術を選択した。
 両者、撃ち抜くまでは行かずとも、黒く焦がす程度には精度を上げている。
 戦闘員には向かないが、初めての攻撃魔術にしては大したものだと驚く。
 的を変えて準備が整い、ブリーが的の前に立つ。
 長い詠唱の後に放ったのは、雷電を帯びた火の魔術だった。
 破壊されないよう補強されていたはずの的が、爆音と共に粉々に砕け散った。
「っしゃうらー」
 おかしな掛け声を発し、中腰で、拳を握った手を脇腹と前方に突き出している。
 満足そうなブリーだが、桁違いの攻撃力に、周囲は驚愕の表情で固まっている。
 魔術省の魔術師でも、ここまで破壊力のある者はいないだろう。
 兄の婚約者でなければ、第一騎士団か魔術省派遣の魔術師として共に戦いたいところだ。
 いや、彼女の事だから、誘えば喜んで同行するかもしれない。
 余計な事を言ってこれ以上兄の怒りを買いたくないので、レヴィは口を噤んだ。
 最期の玲史が中央に立ち、深呼吸をしている。
 癒しや治癒は既に高度なものまで無詠唱で行っている玲史だが、その他は比較的簡単な魔術でさえ上手く扱えずにいた。
 指先に炎を出せば火傷をするし、カップに出した水は「塩素」とやらの異臭がしている。
 元の世界でのイメージが邪魔をしているのだとか。
 無詠唱で魔術を行う場合は想像力と感覚の微調整が重要なので、この世界に召喚されてまだ1年に満たない玲史には、魔術に慣れる時間が足りないのだろう。
 深く息を吐き出した玲史が、両手を目の前に出して頭上から肩幅、そしてその手をゆっくり下におろして長方形を作りながら魔力を放出する。
 玲史の出した魔力が、水面のようにゆらゆらと不安定に揺れている。
 後ろに控えいたラウリが玲史の両肩に手を触れると、その波は徐々に平らになっていく。
 ラウリの監修の下、人ひとりが隠れる程度の障壁が完成した。
 長方形でやや内側に湾曲している障壁は、「防弾シールド」をイメージしているそうで、従来の障壁に比べて強靭なものだった。
 そこに、強度確認として部下が木剣で打ち込むが、弾力を持って返された。
 今後の課題は、強度はそのままで、周囲全てを覆うドーム状にすること、範囲を広げること、ラウリの補助がなくとも安定して障壁を作れるようにすることだ。
 集中して魔力を注ぎ続ける、玲史のこめかみから顎に汗が伝って流れる。
 不謹慎だが、真剣に取り組む横顔も美しい。
 恋人の勇姿に見惚れていると、背後から数名の足音が聞こえてきた。
「へえ、的が粉々だわ。まるで物語の中の破壊神ね。でも、接近戦ができなければ戦場では生き残れない。温室育ちの令嬢には、守られながらお得意の高魔力で押し切るのがせいぜいでしょうね」 
 赤い騎士服を身にまとい、金色の巻き毛を揺らした長身の美しい少女が、護衛を従えてレヴィの前に進み出た。
 彼女はフレイ・アンドルス。
 アンドルス公国第2公女で、王妃の祖国の縁者であった。
 外交団の一員としてしばらく前に来訪していたが、最近になってレヴィの周囲に頻繁に出没する。
「楽しそうなことをやっているから、急いで準備をしてきたけど、王国の令嬢方で私の相手になる者はなさそうね」
 長剣を振り上げて見せる。
 魔力無しが多い公国民の中で、ラグリス王国の貴族と同等の魔力があり、女性としては珍しく剣技も極めていると聞く。
 だからと言って、講義の邪魔をしていいという理由にはならない。
「部外者が立ち入ることは禁じているはずだが」
「王妃様の許可は得ていますわ」
 レヴィに対しても怯むことなく、好戦的な笑みを向けてくる。
「次期騎士団長と目される王子様なら、少しは楽しませてくださるかしら。レヴィ殿下、お手合わせ願います」
 フレイが、剣先をレヴィに突き付けてきた。
 気の強そうな瞳が真直ぐこちらを見据える。
「今は彼らの講義中だ」
「あら、そろそろ終了時間のはずだけど」
 こういった、強引に話を進める手合いは苦手だ。
 アンディに視線を向けるも、困った顔で肩を竦め、顔を横に振るだけだ。
 溜息を吐き、レヴィも剣を手に取った。
 仕方ないという諦めと共に、怒りが湧く。
 玲史を十分に褒めることができなかった。
 魔力操作を頑張った成果を見て欲しいと言っていた。
 障壁越しとは言え、荒事に慣れていない身で剣を向けられるのは怖いだろうに、勇気を振り絞り正面を見て魔力を注ぎ続けた玲史。
 あんなに頑張っていたというのに。
 そう思うと怒りが込み上げ、つい意地の悪い攻撃になってしまう。
 フレイの動きは素早く、身のこなしも軽やかではあるが残念ながらそれだけだ。
 手元を狙って弾けば、あっけなく剣を取り落とした。
 身体強化が全くなっていない。
「レヴィ殿下! 驚きましたわ。魔術頼りの剣士なのかと思っていたけど、貴方お強いのね。久しぶりに骨のある殿方と剣を交えることができて楽しかったわ」
 まるで接戦だったような言い様だが、レヴィにとっては軽く稽古をつけてやったという認識だった。
 彼女程度の実力であれば、3人一緒に掛かってきても同じ結果を出すことができたと断言できよう。
 フレイは浮かれた様子で、レヴィの隣にピタリと並び立つ。
 鬱陶しくはあったが、追い払うのも面倒なので、そのまま受講生個別に改善点と課題を与える。
 最期に、皆が一番苦戦している身体強化を、日々修練するよう伝えて講義を終了した。
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