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第2章 魔力要員として召喚されましたが解決したので自己研鑽に励みます

3 魔術学園特別講義②

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 ゲンドルとラウリの講義により受講生の魔力操作が上達し始めた頃、レヴィが担当する戦闘実技がスタートした。
 第一騎士団の部下を引き連れてレヴィが訓練場に到着すると、事前に伝えられていた通り、適性のない者も含め受講生全員が集まっていた。
 後ろに控える騎士団の者達は、国内トップクラスの高魔力者の訓練に立ち会えることを楽しみにしており、未来の団員候補をどうやって好みのスタイルに育てるか、今から盛り上がっている。
 レヴィはというと、玲史の専属講師として手取り足取り一対一で教える権利を得たのだと喜んでいたのは最初だけ、ふたを開ければ16名もの受講者を指導しなくてはならないのだと知り、講義初日を迎えても落胆を隠しきれない。
 しかも、兄王子の指示で、王城の空き部屋を改装して全員入寮させてしまったため、今までのように床を共にすることもままならなくなってしまった。
 王族が住まう塔に一般人が立ち入ることはできないが、玲史であれば王族と同等の扱いであり、護衛も顏なじみなので、行き来することを咎められることはない。寧ろ大歓迎、護衛も侍女も心待ちにしているほどだ。
 だが、慎ましい玲史は、用事が無ければ自ら来てくれることはない。
 溢れる愛しさを抑えることができないレヴィは、玲史の履修表を入手して、休日の度に呼びつけては抱きつぶしている。
 突発の休講もすぐに伝達が入るよう、学園にも根回し済みだ。
 気の毒だとは思うが、彼の自由時間は全てレヴィが独占している。
 玲史からの愛は信じている。大切にしたいのに、ふとした瞬間に訪れる焦燥感を消し去りたくて、結局は自らの欲を押し付けることを止められずにいた。
 今この時も玲史は目の前にいるというのに、抱き寄せて口付けることもできない。
 気を取り直して愛しい人に視線を送ると、簡素な衣服に身を包んでいても清廉で麗しいオーラが輝き漏れてしまう黒髪の天使が、優し気な笑みをこちらに向けた。
(やはり俺の天使は美しく愛らしい)
 無意識で微笑み返すレヴィに、受講生だけでなく、騎士団の部下の間にも、静かなどよめきが走る。
 張りつめた空気が一瞬だけ緩むが、レヴィが視線を戻すと、再びその場は緊張感に包まれた。
「これより、戦闘実技を行う。グループごとに整列」
 事前に分けていた、剣術・身体強化・魔力操作の熟練度に合わせた4つの班ごとに並ばせる。
 全てにおいて高い技術を持つ者を1班として、3班までは身体強化下での対戦訓練を中心に、武術経験のない玲史とブリー、女子2名は4班として、的を使った訓練を予定している。
「先ずは、私と指導教官による戦闘の実演を行う。アンディ、前へ」
 後ろで待機していた第一騎士団の中から、アンディが進み出た。
「第一騎士団、指導教官のアンドレアス・フィヨルギーだ。普段の訓練では身体強化を行い、木剣または刃を潰した剣で対戦を行う。実践では主に魔獣と戦う為、身体強化だけでなく剣に魔力を乗せて攻撃するが、対人で行うと命に係わる場合があるので、魔力による攻撃は的を用いて行う。では、模擬戦を行う」
 待機していた部下の一人が、レヴィとアンディに長剣を渡し、受講生に下がるよう誘導する。
「始め!」の合図とともに二人は一歩踏み出し、剣を交えた。
 レヴィが素早い動きで突き出す剣を、アンディは表情も変えずに軽々と受ける。
 受けた剣を払い、今度はレヴィの側面から振り抜いた。
 攻守を繰り返しながら、いつもの訓練同様、身体強化の状態で全力で戦う。
 迫力のある対戦を羨望の眼差しで見る受講生の間から、瞳を輝かせてこちらを見つめる恋人の姿を見つけ、レヴィの全身に熱い闘志が漲る。
 レヴィを生かすも殺すも、玲史の存在次第なのだとつくづく実感する。
「よそ見とは、余裕だな」
 アンディが振り下ろす剣を、横に流して弾き返す。
「お前を、相手に、よそ見をする余裕など、あるわけないだろう。自然と、目に入って来るだけだ」
 身体強化をしていても骨に響く重い剣を受けながら、隙を見つけて攻め込むが、それはことごとく打ち返された。
 アンディは、また剣の腕を上げたようだ。打ち合うごとに、剣が鋭く、重くなる。
 拮抗していた戦いの幕を下ろしたのは「止め!」という部下の声だった。
 勝敗が決まらない場合は、適当な所で終了するように指示を出しておいた。
(この男、どこまで強くなるつもりなのだ。このまま続けていたら力押しされていたかもしれない)
 深く息を吐くレヴィに対し、アンディは「次期団長殿はやはりお強い」などと、息も乱さずおどけている。
「1班から、実力を見るための模擬戦を行う。治癒魔術師が待機しているから手加減は必要ないぞ」
 真っ先に進み出たのは、玲史とブリーに次ぐ魔力量で武術も上級のビルキィとスタファンだった。
 身体強化の詠唱を行い、「始め」の合図とともに闘争心も顕に剣を打ち付けた。
 スタファンは、得意の双剣ではないが確実に急所を狙って打ち込んでおり、これまで実践を重ねてきたことが見て取れた。
 対するビルキィは、多少押され気味だが剣筋は美しく鋭い。地元で素晴らしい師の下で鍛錬を重ねてきたのだろう。
 ここまでは、騎士団でも即戦力として使える程の戦いぶりだ。
 だが、時間の経過とともに、実戦経験の乏しい者は集中力が散漫になり、疲労も相まって焦りが出るものだ。
 加えてこの二人は、相手を叩きのめすことに固執するあまり冷静さを失っている。
 無駄な動きが多くなれば、雑な攻撃ばかりでもう見る価値はない。
 決着がつきそうもないので、審判に「止め」の合図を出させた。
 だが、二人は止めることなく感情に任せて無様に剣を振り回している。
 レヴィは審判を下がらせ、長剣で二人の木剣を弾いた。
「命令を聞けない者は退講させるぞ」
 勢いで二人は倒れ込む。
「っ申し訳ございません」「すみません……」
 レヴィの言葉に謝罪をしたものの、木剣を手放した後も互いに視線で威嚇し合っている。
 騎士団で血気盛んな者を見慣れているので、この程度なら可愛いものだとレヴィは思う。
 寧ろ、こういった者達のほうが向上心が高く、真剣に鍛錬に打ち込むものだ。
 だが、日頃から玲史を軽視しているらしいという情報をつかんでいるので、その点だけは看過できない。
(なるほど、この調子で俺の天使に迷惑をかけているのだな)
 この二人は近いうちに一度、折っておくべきだと確信した。
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