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第1章 魔力要員として召喚されましたが暇なので王子様を癒します
19 社交界はスローライフじゃないらしい
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喧騒を背に、バルコニーの手すりに寄りかかって熱い息を吐く。
柔らかなライトに照らされた庭園を見るともなしに見ていたら、背後に人の気配がした。
酔いで呆けた顔に微笑を貼り付けて振り向いたら、数名の男達に囲まれていた。
玲史よりも頭一つ高い男達の壁は威圧感があり、気のせいでなければ殺気を帯びている。
「何か、御用でしょうか」
すっかり酔いは冷め、声が震えそうになるのを堪えてゆっくりと話す。
侮蔑の眼差しで見下ろす男達は五人。そのうちの一人が一歩進み出る。玲史は咄嗟に下がったが、背中には手すりが当り、逃げ場はない。
帯剣はしていないが、髪が長いので魔力持ちだ。魔術で何かされても、治癒しか取得していない玲史には、何の抵抗も出来ない。
「御用があるのはお前の方ではないのか?」
よく見れば、若い男だ。魔術省の若手魔術師だろうか。
緊張で浅くなりそうな息を、ゆっくりと吐き出した。
「恐れ入りますが、覚えがございません。どういったご用件でしょうか」
玲史の言葉に、男の額に血管が浮く。ダンッと音を立てて、更に一歩踏み出し、怒りの眼差しで見下ろす。
「レヴィ殿下の婚約者、ヴァナディス・フロスティ公爵令嬢に断りもなく殿下の周りをウロチョロして、挙句にエスコートまでさせるとは、無礼では済まされぬ数々の所業、覚えがないとは言わせんぞ」
婚約者という言葉に驚く余裕もなく、男の怒声に身を竦ませた。
その時、パチン、と音がして、男達の壁が割れる。
「まあ、それでは私がレヴィ様に、蔑ろにされてるみたいに聞こえるわ」
バッと音をさせて、羽飾りのついた扇を顔の近くで開いた令嬢が玲史の前に進み出た。
「それに、レヴィ様の 僕は私の僕、怯えさせてはダメよ」
焦げ茶色の髪に水色の瞳の令嬢は、再び扇を閉じて冷ややかな目を向け、その先を玲史の顎に当てる。
「ねえ? ナヴィ卿」
レヴィの婚約者なら二十歳前後のはずだが、男の恫喝よりも静かな迫力がある。
落ち着けと自分に言い聞かせるが、頭が真っ白になって何も考えられない。
畏怖さえ感じさせる眼差しに射貫かれ、王子達の側を離れたことを後悔した。
今日は朝から、王城のパーティーに参加するため、レヴィの私室の控えの間に呼ばれていた。
開催は夕方なのになぜ朝から呼ばれたのか疑問に思っていたら、王城の侍女が集結し、ヘアブラッシングやらフェイスマッサージやら、玲史のなんちゃってエステとは違うプロのエステを施された。
フリルのついた白いブラウスの上に、光沢のある黒いスーツを着せてもらう。騎士団の制服のような飾りがついたデザインで、袖や襟には金色と水色で細かい刺繍がされている。
侍女が、黒く艶やかな髪を器用に編み込んで、大振りな髪飾りで留めた。
「ナヴィ様、漆黒の髪に、王太子様がご準備くださった髪飾りがとてもお似合いです」
鏡の中の玲史は、金地に水色水晶が埋め込まれた髪飾りで片側の髪を留め、耳の上からは同じ意匠の飾りをぶら下げていた。眉を整えて、唇には蜂蜜の味がするジェルをつける。
「化粧をしなくても、お手入れだけで、本当に美しゅうございます」
侍女に褒められ、嬉しさよりも、むず痒いような恥ずかしさを覚える。この顔は、玲史が幼い頃の写真に写っている母にそっくりなのだ。
今回は労いの宴と違って、貴族や上級官僚も参加する社交パーティーなので、それらしく着飾る必要があった。
「レイジーは俺の隣で、その美しい『お辞儀』を見せてくれればいい」
レヴィはそんなことを言っていたが、第二王子と行動を共にしている以上、派閥争いに無関係でいられるわけがない。
気になってセティに尋ねてみれば、当然、社交界では常に足の引っ張り合いが行われているとのこと。
「王太子過激派と第二王子過激派が、本人達が望んでいない喧嘩を吹っ掛けるから、こっちは火消しが大変でね。それに、落ち着いてきたけど召喚失敗派ってのも、まだしつこく残ってる。ナヴィ卿は気にせず、堂々としていてね。貴方の功績の素晴らしさは、誰にも文句は言わせないから」
もちろん、召喚の責任については、玲史と王族は一蓮托生なので、功績について謙遜しすぎるのも失礼だと思っている。こんな格好をして王子の隣にいる以上、はったりでも黒真珠? になりきって、乗り切るしかないと腹を括った。
今回のパーティーは、魔力が安定して魔道具が正常に動き出し、瘴気の調査も始まったから、皆さん安心してくださいという国王からのメッセージを、社交界で正しく理解し広めてもらうという趣旨だと聞いた。
時事ネタなどを話しながら相手の性格を探り、自分を売り込み、そこから仕事につなげていく。昔は、そんな接待スキルが必要とされる会合も多かった。最近はそういった機会はすっかり無くなったが、人当たりの良い玲史だったから、当時は重宝されたものだ。
(王子達は俺を過保護にしているけど、そういうの嫌いじゃないんだよね)
支度を済ませた頃、レヴィが玲史を訪ねてきた。
現れたレヴィは、濃紺の騎士団の制服だが、装飾がいつもよりも仰々しい。
「これは、第一騎士団指揮官の正式な制服だ。これでは戦えないからな、通常の制服は略式で作らせた」
確かに、先陣切って戦う指揮官に、勲章や飾りは邪魔になることだろう。
レヴィは玲史の背に手を添えて部屋を出る。
「決して俺の側を離れるな」
そう言って、玲史の肩を引き寄せた。
大広間に到着すると、王族専用の扉が開けられ、二人が入場する。中央でレヴィが胸に手を当てて膝を折り、隣で玲史がお辞儀をすると、会場からどよめきが聞こえてきた。
(こっちの人って、日本のお辞儀が好きだよなぁ)
一段高い場所から見渡すと、華やかに着飾った正装の紳士淑女が、様々な感情を持った視線でこちらを見ている。
そこに、セティ、王と王妃達が順番に入場して、開会が宣言された。
王の挨拶はいつもながら簡潔で、その後を宰相が引き継ぐ。
皆の手にグラスが行き渡った頃、レヴィと共に壇上から下りて上級貴族から順に挨拶に回る。
目の前にいたのは、レヴィによく似た色合いの男性だった。
「叔父上、お久しぶりです」
嬉しそうに握手を交わしたのは、母である側妃の弟だと紹介された。
「レヴィ殿下とナヴィ卿のお姿が、まるで天上人を描いた絵画のようですわ」
彼の夫人の言葉に、周囲の者達が賛同する。
「殿下の、濃紺の軍服に淡い金の髪と水色の瞳は、始祖王の如く神々しく、ナヴィ卿の漆黒の髪と瞳は、奇跡の宝物、黒真珠そのものですな」
「異世界人は皆美しいのですか? 殿下の隣に並んでも見劣りしない振舞い。特に黒姫様と同じ異国の礼がなんとも美しい」
賛辞の言葉は、謙遜せずに堂々とした態度で受け取った。むず痒い気もするが、そこは我慢である。
「魔力が桁違いと聞きました。充填だけでなく、レヴィ殿下に特別な癒し術をしているのしょう?」
「それで殿下は休みなく討伐に? 団長に叱られて、通常の任務に戻されたと聞きましたぞ。困ったお人だ」
温かい笑いが沸く。レヴィは、昔から顔なじみの者達を前に、照れくさそうにしている。
次に向かったのは、同じ派閥ではあるが召喚した玲史を失敗だと吹聴している輩だ。
「これは、レヴィ殿下、このような会にお招きいただきありがとうございます」
焦げ茶色の長い髪を、後ろで一つに束ねているから、この壮年の男性も魔力持ちだ。挨拶からずっと、レヴィだけを見て話している。玲史を存在しない者として扱っているようなので、半歩下がって静かに微笑を浮かべる。
「レヴィ殿下の権威にしがみ付いた平民の魔術師め」
下がった途端、嘲りを含んだ声が聞こえてきた。
「魔力はあっても、治癒魔術しか使えないそうだ」
「レヴィ殿下を上回る魔力なのに? 宝の持ち腐れだな」
背後から、玲史の耳にしか入らないような囁き声が聞こえてきた。
「貧相な顔と体つきで着飾った姿が、何と浅ましいことか。か細くて女のようだな」
「知らんのか? あの細腰でレヴィ殿下の寵愛を得ているのだよ」
「まあ、汚らわしい」
本人だけに聞こえるような音量での陰口とは、精神攻撃のスキルが高い。これが社交界の足の引っ張り合いなのかと、根性の悪さに感心する。
更に離れた一団へ向かえば、あからさまな嘲笑の眼差しに晒された。
「まるで男娼ね」
「媚びへつらう平民を侍らして、嘆かわしい」
第二王子が近付いて来ているのにもかかわらず、陰口は止まらない。
名を出さなければ不敬罪にならないのか、王太子が擁護してくれると思っているのか、浅はか過ぎて笑いが出そうだ。
レヴィが超然としているから、玲史も気にせず笑みを浮かべてやり過ごす。
「レヴィ殿下、益々素晴らしい功績を重ねられましたな。さすが武の一門、ヴィーザイル侯爵家を後ろ盾に持たれているお方、家臣の鏡でございますな。我々も頼もしい限りですぞ」
(いや、この人まだ王子だから。あんたと同じ家臣扱いしないでくれるかな。牽制しなくても、セティ殿下を出し抜いて王に、とか思いもしてないから)
自分が貶されるのは構わないが、レヴィが悪く言われるのは我慢がならない。言い返してやりたいところだが、炎上するのは望むところではないので、口は出さずに様子を見守る。
そこにセティが割り込み、玲史とレヴィの肩に手を置いた。
「話がはずんでいる時に悪いね。二人を貸していただけるかな」
そう言って、その場から連れ出した。
「急ぎの用が?」
「そんなものないさ」
レヴィの問いに答え、セティが向かったのは、魔術省省長を囲んで談笑している一団だった。
「疲れただろう。ナヴィ卿は、そろそろ頬が引き攣る頃じゃないか? 喉を潤して休憩するといいよ」
セティの言葉に省長のヘイデンと副省長のグロイが、嬉しそうに手招きをしている。
言われてみれば、口角と頬骨が痛い。
「セティ殿下、魔素安定と瘴気調査の開始については、概ね反論はないようです。強硬派は、良くても悪くても、どうせネタを見つければ諍いを起こそうとするでしょうからな」
「本当に、困ったことだよ」
二人の話を聞きながら、給仕に渡された薄い金色の飲み物を一気に飲み干す。スパークリングワインだろうか。よく冷えていて美味しい。
駆けつけ三杯、小さなグラスを受け取って飲んだところで、ちょうど良いタイミングでセティから口元に差し出された野菜のピンチョスを、反射的にパクリと食べた。もう片方の手に持っているピンチョスは、自分で食べている。
(反射的に食べちゃったけど、パーティーであーんって、この王子も自由だなぁ)
「もう一つ食べる?」
同じものを差し出すセティに、口を押さえながら答えようとしたら、レヴィに腕を引かれた。
「レイジー、こちらも」
チーズとトマトが刺さったピンチョスを差し出されたので、手に取ろうとしたら避けられ、口の前に出す。
飲み込んで口を開けたら、満足そうに食べさせてくれた。
謎行動に戸惑いつつ、今度はボルドー色のグラスが来たので、受け取って一口飲んだら、それは深みのある赤ワインだった。
フィヨルギー家も王家も、とにかく食事が美味しい。家庭科の先生、黒姫様に感謝である。
「ナヴィ卿、よく似合っているね」
セティの言葉に、アルコールで更に血色の良くなった顔に満面の笑みを浮かべる。
「改めて、セティ殿下、素敵な衣装とアクセサリーをありがとうございました。これって、セティ殿下の髪と瞳の色ですよね。これからも大切に使わせていただきます」
「貴方、それ天然? 悪い人だね」
セティが、笑いながらレヴィにちらりと目線を移す。
何のことか分からずレヴィを見れば、いつの間にか不機嫌な顔になってる。
「言ってくれれば俺が用意したのに」
拗ねる弟を、兄が微笑ましそうに見ていた。後見人なのに蚊帳の外だったのが気に入らないらしい。
「レイジー、次は俺が作るから、そうしたら俺の衣装と装飾具をつけてくれ」
「あ、えっと、ありがとうございます。でも、もったいないんで大丈夫ですよ」
「だめだ。俺の魔力を使った、魔道具の装飾具を作らせるから、それを毎日身に着けてほしい」
話が変わってきてるが、そんなに言うならお言葉に甘えて作ってもらおう。
「レヴィ殿下! ナヴィ卿のことが大好きだからって、ベタベタしすぎだ。しつこくすると嫌われるぞ。少しは休ませてあげなさい」
大声で窘めながら歩いてきたのは、レヴィの祖父、第一騎士団団長である。
「騎士団の三団長が揃う事は滅多にないのだ。レヴィ殿下も来なさい」
大声で言われ、赤くなるレヴィの腕を引いて連れて行く。
「しかし、お爺様、レイジーを一人にするわけには……」
「私はこちらにいますから大丈夫ですよ」
心の中で「接待頑張って!」と手を振りながら見送った。
「今日はブリー様はいらしてないのですか?」
「お母上に連れられて、女同士の争いに臨んでるよ。社交界は貴族の戦場だからね」
そこでふと、玲史は疑問を持つ。王太子には婚約者がいて、しかもまだ15歳だった。ならば、第二王子にも年頃の婚約者がいるのではないかと。ここに来て三か月ほどだが、婚約者の話は聞いたことがない。気になりだしたら、どういうわけだか、胸の辺りがモヤッとする。
「セティ殿下、レヴィ殿下の婚約者って……」
尋ねようとしたが、ちょうどその時、宰相がセティの側に歩み寄り、真剣な顔で耳打ちしている。そのまま小声で話し始めたのを見て、声を掛けるのをやめた。後でレヴィに聞けばいいことだ。
手持ち無沙汰に、給仕の運ぶ果実酒をもらって飲んだら、意外と度数が高い。
セティに声を掛け、酔い覚ましに、開け放たれたバルコニーに向かった。
そこで、この男の壁と婚約者の令嬢に囲まれたのだ。
ヴァナディスは、美しい顔に優雅だがどこか酷薄な微笑みを浮かべ、玲史の顎に当てた扇の先を上げる。つられて玲史の顔も上を向かされる。
「私の夫となるレヴィ様が、お前に世話をかけているようね。これからも励みなさい」
扇を下ろし、反対の手で玲史の上着の襟に触れる。
「これは褒美です。お前が役割を遂げることの、助けとなることでしょう」
それは、水色の宝飾ピンだった。宝石が光り、チリチリとしたものが体を纏った感じがして、慌てて外そうとしたが、襟に縫い付けられている刺繍に同化して外れない。
褒美だなどと言っていたが、胡散臭い物を付けられて迷惑だ。部屋に戻ったら、侍女に外してもらおう。
婚約者集団が去って行くのを見て、緊張の糸が切れた玲史はその場に座り込む。
彼女に何も言えなかった。婚約者の威圧に完全に呑まれた。
「レイジー、こんな所にいたのか。探したぞ」
レヴィの声に顔を上げる。
心配そうに覗き込み、差し出した手を取って、立ち上がる。
「飲み過ぎてしまい、休んでいました」
「今のは……」
振り返るレヴィの腕を引く。
婚約者の存在は気になるが、今はその話をしたくなかった。レヴィの口から、彼女のことを聞きたくない。
「レヴィ殿下、来てくれてありがとうございます」
レヴィが来てくれて嬉しい。酔いの残る顔で微笑んだら、レヴィの顔にも赤みが差す。
「心配をかけるな」
ぶっきらぼうに言っているが優しさが伝わる。
レヴィは、背ではなく腰に触れて抱き寄せた。玲史はそのままレヴィにもたれかかる。
(あー、俺、酔ってるな……)
いつの間にかレヴィの両腕に抱き込まれ、無意識で玲史も広い背中に腕を伸ばす。
互いの服の装飾品がぶつかるのも気にせず、強く抱き合う。
癒しハグでもないのに、こんな風に抱き合ったのは、討伐の夜以来だ。
レヴィが愛おし気に髪を撫でるのに任せ、頬を首筋にすり寄せたら、金具が鼻に当たった。
「痛っ」
「どうした?」
レヴィが抱擁を解く。玲史が鼻を撫でているのを見て、状況を把握したようだ。
赤くなった鼻筋を、レヴィもそっと撫でる。
「早く部屋で続……癒し術を」
レヴィの甘えた笑みに、胸が痛くなった。
一瞬浮かんだ、ドロドロとした重たくて苦しい何かに蓋をして、自分の心に理由を付ける。
この人は玲史の大事な王子様。王国も王子も、自分が守るのだ。これは玲史だけに出来ることだ。
ふと、ゲンドルの言葉を思い出す。
国が決めた相手を娶り、子を生す。婚約者に会った今、その言葉が現実味を帯びて、玲史の胸に刺さる。
自分は大丈夫。恋じゃないから。これは甥を見ていた時と同じ、成長を見守る大人からの愛情なのだ。
レヴィに腰を抱かれ、バルコニーを出る。一見、酔った玲史をレヴィが、後見人として介抱しているようにも見える。だが、二人に近しい者であれば、互いに独占欲で縛り合っているのが分かってしまうくらい、甘い空気に包まれていた。
「殿下、独り占めは良くないな。そろそろ俺にも黒真珠と交友を深めさせてくれないか?」
お道化た声を掛けたのはゲンドルだった。
「先生は、いつも魔術省で交友を深めているでしょう」
レヴィは剣呑な眼差しを師に向ける。
「美しく着飾ったレイジは、また別物なんだけどね。今回は引き下がりましょう。俺達はいつも、交友を深めているからな。レイジ?」
意味深な笑みを投げて、去っていく。レヴィが、強引に腰を引き寄せた。
(変な煽り方しないでほしいなぁ。なんか不機嫌になってるし)
すぐ近くにある顔を見上げたら、熱を帯びた眼差しで見つめられる。何か言いかけて、でも言葉にはせずに再び歩き始めた。
視線の先には、男の壁を侍らせたヴァナディスがいる。話しながら視線だけをこちらに向けた彼女に、挑戦的な笑みを見せると、彼女の笑顔は引き攣り、怒りに燃えた瞳で睨み返してきた。
そんなことで優越感を覚える自分は、ここに来て性格が悪くなったかもしれない。
玲史は自嘲気味に笑った。
柔らかなライトに照らされた庭園を見るともなしに見ていたら、背後に人の気配がした。
酔いで呆けた顔に微笑を貼り付けて振り向いたら、数名の男達に囲まれていた。
玲史よりも頭一つ高い男達の壁は威圧感があり、気のせいでなければ殺気を帯びている。
「何か、御用でしょうか」
すっかり酔いは冷め、声が震えそうになるのを堪えてゆっくりと話す。
侮蔑の眼差しで見下ろす男達は五人。そのうちの一人が一歩進み出る。玲史は咄嗟に下がったが、背中には手すりが当り、逃げ場はない。
帯剣はしていないが、髪が長いので魔力持ちだ。魔術で何かされても、治癒しか取得していない玲史には、何の抵抗も出来ない。
「御用があるのはお前の方ではないのか?」
よく見れば、若い男だ。魔術省の若手魔術師だろうか。
緊張で浅くなりそうな息を、ゆっくりと吐き出した。
「恐れ入りますが、覚えがございません。どういったご用件でしょうか」
玲史の言葉に、男の額に血管が浮く。ダンッと音を立てて、更に一歩踏み出し、怒りの眼差しで見下ろす。
「レヴィ殿下の婚約者、ヴァナディス・フロスティ公爵令嬢に断りもなく殿下の周りをウロチョロして、挙句にエスコートまでさせるとは、無礼では済まされぬ数々の所業、覚えがないとは言わせんぞ」
婚約者という言葉に驚く余裕もなく、男の怒声に身を竦ませた。
その時、パチン、と音がして、男達の壁が割れる。
「まあ、それでは私がレヴィ様に、蔑ろにされてるみたいに聞こえるわ」
バッと音をさせて、羽飾りのついた扇を顔の近くで開いた令嬢が玲史の前に進み出た。
「それに、レヴィ様の 僕は私の僕、怯えさせてはダメよ」
焦げ茶色の髪に水色の瞳の令嬢は、再び扇を閉じて冷ややかな目を向け、その先を玲史の顎に当てる。
「ねえ? ナヴィ卿」
レヴィの婚約者なら二十歳前後のはずだが、男の恫喝よりも静かな迫力がある。
落ち着けと自分に言い聞かせるが、頭が真っ白になって何も考えられない。
畏怖さえ感じさせる眼差しに射貫かれ、王子達の側を離れたことを後悔した。
今日は朝から、王城のパーティーに参加するため、レヴィの私室の控えの間に呼ばれていた。
開催は夕方なのになぜ朝から呼ばれたのか疑問に思っていたら、王城の侍女が集結し、ヘアブラッシングやらフェイスマッサージやら、玲史のなんちゃってエステとは違うプロのエステを施された。
フリルのついた白いブラウスの上に、光沢のある黒いスーツを着せてもらう。騎士団の制服のような飾りがついたデザインで、袖や襟には金色と水色で細かい刺繍がされている。
侍女が、黒く艶やかな髪を器用に編み込んで、大振りな髪飾りで留めた。
「ナヴィ様、漆黒の髪に、王太子様がご準備くださった髪飾りがとてもお似合いです」
鏡の中の玲史は、金地に水色水晶が埋め込まれた髪飾りで片側の髪を留め、耳の上からは同じ意匠の飾りをぶら下げていた。眉を整えて、唇には蜂蜜の味がするジェルをつける。
「化粧をしなくても、お手入れだけで、本当に美しゅうございます」
侍女に褒められ、嬉しさよりも、むず痒いような恥ずかしさを覚える。この顔は、玲史が幼い頃の写真に写っている母にそっくりなのだ。
今回は労いの宴と違って、貴族や上級官僚も参加する社交パーティーなので、それらしく着飾る必要があった。
「レイジーは俺の隣で、その美しい『お辞儀』を見せてくれればいい」
レヴィはそんなことを言っていたが、第二王子と行動を共にしている以上、派閥争いに無関係でいられるわけがない。
気になってセティに尋ねてみれば、当然、社交界では常に足の引っ張り合いが行われているとのこと。
「王太子過激派と第二王子過激派が、本人達が望んでいない喧嘩を吹っ掛けるから、こっちは火消しが大変でね。それに、落ち着いてきたけど召喚失敗派ってのも、まだしつこく残ってる。ナヴィ卿は気にせず、堂々としていてね。貴方の功績の素晴らしさは、誰にも文句は言わせないから」
もちろん、召喚の責任については、玲史と王族は一蓮托生なので、功績について謙遜しすぎるのも失礼だと思っている。こんな格好をして王子の隣にいる以上、はったりでも黒真珠? になりきって、乗り切るしかないと腹を括った。
今回のパーティーは、魔力が安定して魔道具が正常に動き出し、瘴気の調査も始まったから、皆さん安心してくださいという国王からのメッセージを、社交界で正しく理解し広めてもらうという趣旨だと聞いた。
時事ネタなどを話しながら相手の性格を探り、自分を売り込み、そこから仕事につなげていく。昔は、そんな接待スキルが必要とされる会合も多かった。最近はそういった機会はすっかり無くなったが、人当たりの良い玲史だったから、当時は重宝されたものだ。
(王子達は俺を過保護にしているけど、そういうの嫌いじゃないんだよね)
支度を済ませた頃、レヴィが玲史を訪ねてきた。
現れたレヴィは、濃紺の騎士団の制服だが、装飾がいつもよりも仰々しい。
「これは、第一騎士団指揮官の正式な制服だ。これでは戦えないからな、通常の制服は略式で作らせた」
確かに、先陣切って戦う指揮官に、勲章や飾りは邪魔になることだろう。
レヴィは玲史の背に手を添えて部屋を出る。
「決して俺の側を離れるな」
そう言って、玲史の肩を引き寄せた。
大広間に到着すると、王族専用の扉が開けられ、二人が入場する。中央でレヴィが胸に手を当てて膝を折り、隣で玲史がお辞儀をすると、会場からどよめきが聞こえてきた。
(こっちの人って、日本のお辞儀が好きだよなぁ)
一段高い場所から見渡すと、華やかに着飾った正装の紳士淑女が、様々な感情を持った視線でこちらを見ている。
そこに、セティ、王と王妃達が順番に入場して、開会が宣言された。
王の挨拶はいつもながら簡潔で、その後を宰相が引き継ぐ。
皆の手にグラスが行き渡った頃、レヴィと共に壇上から下りて上級貴族から順に挨拶に回る。
目の前にいたのは、レヴィによく似た色合いの男性だった。
「叔父上、お久しぶりです」
嬉しそうに握手を交わしたのは、母である側妃の弟だと紹介された。
「レヴィ殿下とナヴィ卿のお姿が、まるで天上人を描いた絵画のようですわ」
彼の夫人の言葉に、周囲の者達が賛同する。
「殿下の、濃紺の軍服に淡い金の髪と水色の瞳は、始祖王の如く神々しく、ナヴィ卿の漆黒の髪と瞳は、奇跡の宝物、黒真珠そのものですな」
「異世界人は皆美しいのですか? 殿下の隣に並んでも見劣りしない振舞い。特に黒姫様と同じ異国の礼がなんとも美しい」
賛辞の言葉は、謙遜せずに堂々とした態度で受け取った。むず痒い気もするが、そこは我慢である。
「魔力が桁違いと聞きました。充填だけでなく、レヴィ殿下に特別な癒し術をしているのしょう?」
「それで殿下は休みなく討伐に? 団長に叱られて、通常の任務に戻されたと聞きましたぞ。困ったお人だ」
温かい笑いが沸く。レヴィは、昔から顔なじみの者達を前に、照れくさそうにしている。
次に向かったのは、同じ派閥ではあるが召喚した玲史を失敗だと吹聴している輩だ。
「これは、レヴィ殿下、このような会にお招きいただきありがとうございます」
焦げ茶色の長い髪を、後ろで一つに束ねているから、この壮年の男性も魔力持ちだ。挨拶からずっと、レヴィだけを見て話している。玲史を存在しない者として扱っているようなので、半歩下がって静かに微笑を浮かべる。
「レヴィ殿下の権威にしがみ付いた平民の魔術師め」
下がった途端、嘲りを含んだ声が聞こえてきた。
「魔力はあっても、治癒魔術しか使えないそうだ」
「レヴィ殿下を上回る魔力なのに? 宝の持ち腐れだな」
背後から、玲史の耳にしか入らないような囁き声が聞こえてきた。
「貧相な顔と体つきで着飾った姿が、何と浅ましいことか。か細くて女のようだな」
「知らんのか? あの細腰でレヴィ殿下の寵愛を得ているのだよ」
「まあ、汚らわしい」
本人だけに聞こえるような音量での陰口とは、精神攻撃のスキルが高い。これが社交界の足の引っ張り合いなのかと、根性の悪さに感心する。
更に離れた一団へ向かえば、あからさまな嘲笑の眼差しに晒された。
「まるで男娼ね」
「媚びへつらう平民を侍らして、嘆かわしい」
第二王子が近付いて来ているのにもかかわらず、陰口は止まらない。
名を出さなければ不敬罪にならないのか、王太子が擁護してくれると思っているのか、浅はか過ぎて笑いが出そうだ。
レヴィが超然としているから、玲史も気にせず笑みを浮かべてやり過ごす。
「レヴィ殿下、益々素晴らしい功績を重ねられましたな。さすが武の一門、ヴィーザイル侯爵家を後ろ盾に持たれているお方、家臣の鏡でございますな。我々も頼もしい限りですぞ」
(いや、この人まだ王子だから。あんたと同じ家臣扱いしないでくれるかな。牽制しなくても、セティ殿下を出し抜いて王に、とか思いもしてないから)
自分が貶されるのは構わないが、レヴィが悪く言われるのは我慢がならない。言い返してやりたいところだが、炎上するのは望むところではないので、口は出さずに様子を見守る。
そこにセティが割り込み、玲史とレヴィの肩に手を置いた。
「話がはずんでいる時に悪いね。二人を貸していただけるかな」
そう言って、その場から連れ出した。
「急ぎの用が?」
「そんなものないさ」
レヴィの問いに答え、セティが向かったのは、魔術省省長を囲んで談笑している一団だった。
「疲れただろう。ナヴィ卿は、そろそろ頬が引き攣る頃じゃないか? 喉を潤して休憩するといいよ」
セティの言葉に省長のヘイデンと副省長のグロイが、嬉しそうに手招きをしている。
言われてみれば、口角と頬骨が痛い。
「セティ殿下、魔素安定と瘴気調査の開始については、概ね反論はないようです。強硬派は、良くても悪くても、どうせネタを見つければ諍いを起こそうとするでしょうからな」
「本当に、困ったことだよ」
二人の話を聞きながら、給仕に渡された薄い金色の飲み物を一気に飲み干す。スパークリングワインだろうか。よく冷えていて美味しい。
駆けつけ三杯、小さなグラスを受け取って飲んだところで、ちょうど良いタイミングでセティから口元に差し出された野菜のピンチョスを、反射的にパクリと食べた。もう片方の手に持っているピンチョスは、自分で食べている。
(反射的に食べちゃったけど、パーティーであーんって、この王子も自由だなぁ)
「もう一つ食べる?」
同じものを差し出すセティに、口を押さえながら答えようとしたら、レヴィに腕を引かれた。
「レイジー、こちらも」
チーズとトマトが刺さったピンチョスを差し出されたので、手に取ろうとしたら避けられ、口の前に出す。
飲み込んで口を開けたら、満足そうに食べさせてくれた。
謎行動に戸惑いつつ、今度はボルドー色のグラスが来たので、受け取って一口飲んだら、それは深みのある赤ワインだった。
フィヨルギー家も王家も、とにかく食事が美味しい。家庭科の先生、黒姫様に感謝である。
「ナヴィ卿、よく似合っているね」
セティの言葉に、アルコールで更に血色の良くなった顔に満面の笑みを浮かべる。
「改めて、セティ殿下、素敵な衣装とアクセサリーをありがとうございました。これって、セティ殿下の髪と瞳の色ですよね。これからも大切に使わせていただきます」
「貴方、それ天然? 悪い人だね」
セティが、笑いながらレヴィにちらりと目線を移す。
何のことか分からずレヴィを見れば、いつの間にか不機嫌な顔になってる。
「言ってくれれば俺が用意したのに」
拗ねる弟を、兄が微笑ましそうに見ていた。後見人なのに蚊帳の外だったのが気に入らないらしい。
「レイジー、次は俺が作るから、そうしたら俺の衣装と装飾具をつけてくれ」
「あ、えっと、ありがとうございます。でも、もったいないんで大丈夫ですよ」
「だめだ。俺の魔力を使った、魔道具の装飾具を作らせるから、それを毎日身に着けてほしい」
話が変わってきてるが、そんなに言うならお言葉に甘えて作ってもらおう。
「レヴィ殿下! ナヴィ卿のことが大好きだからって、ベタベタしすぎだ。しつこくすると嫌われるぞ。少しは休ませてあげなさい」
大声で窘めながら歩いてきたのは、レヴィの祖父、第一騎士団団長である。
「騎士団の三団長が揃う事は滅多にないのだ。レヴィ殿下も来なさい」
大声で言われ、赤くなるレヴィの腕を引いて連れて行く。
「しかし、お爺様、レイジーを一人にするわけには……」
「私はこちらにいますから大丈夫ですよ」
心の中で「接待頑張って!」と手を振りながら見送った。
「今日はブリー様はいらしてないのですか?」
「お母上に連れられて、女同士の争いに臨んでるよ。社交界は貴族の戦場だからね」
そこでふと、玲史は疑問を持つ。王太子には婚約者がいて、しかもまだ15歳だった。ならば、第二王子にも年頃の婚約者がいるのではないかと。ここに来て三か月ほどだが、婚約者の話は聞いたことがない。気になりだしたら、どういうわけだか、胸の辺りがモヤッとする。
「セティ殿下、レヴィ殿下の婚約者って……」
尋ねようとしたが、ちょうどその時、宰相がセティの側に歩み寄り、真剣な顔で耳打ちしている。そのまま小声で話し始めたのを見て、声を掛けるのをやめた。後でレヴィに聞けばいいことだ。
手持ち無沙汰に、給仕の運ぶ果実酒をもらって飲んだら、意外と度数が高い。
セティに声を掛け、酔い覚ましに、開け放たれたバルコニーに向かった。
そこで、この男の壁と婚約者の令嬢に囲まれたのだ。
ヴァナディスは、美しい顔に優雅だがどこか酷薄な微笑みを浮かべ、玲史の顎に当てた扇の先を上げる。つられて玲史の顔も上を向かされる。
「私の夫となるレヴィ様が、お前に世話をかけているようね。これからも励みなさい」
扇を下ろし、反対の手で玲史の上着の襟に触れる。
「これは褒美です。お前が役割を遂げることの、助けとなることでしょう」
それは、水色の宝飾ピンだった。宝石が光り、チリチリとしたものが体を纏った感じがして、慌てて外そうとしたが、襟に縫い付けられている刺繍に同化して外れない。
褒美だなどと言っていたが、胡散臭い物を付けられて迷惑だ。部屋に戻ったら、侍女に外してもらおう。
婚約者集団が去って行くのを見て、緊張の糸が切れた玲史はその場に座り込む。
彼女に何も言えなかった。婚約者の威圧に完全に呑まれた。
「レイジー、こんな所にいたのか。探したぞ」
レヴィの声に顔を上げる。
心配そうに覗き込み、差し出した手を取って、立ち上がる。
「飲み過ぎてしまい、休んでいました」
「今のは……」
振り返るレヴィの腕を引く。
婚約者の存在は気になるが、今はその話をしたくなかった。レヴィの口から、彼女のことを聞きたくない。
「レヴィ殿下、来てくれてありがとうございます」
レヴィが来てくれて嬉しい。酔いの残る顔で微笑んだら、レヴィの顔にも赤みが差す。
「心配をかけるな」
ぶっきらぼうに言っているが優しさが伝わる。
レヴィは、背ではなく腰に触れて抱き寄せた。玲史はそのままレヴィにもたれかかる。
(あー、俺、酔ってるな……)
いつの間にかレヴィの両腕に抱き込まれ、無意識で玲史も広い背中に腕を伸ばす。
互いの服の装飾品がぶつかるのも気にせず、強く抱き合う。
癒しハグでもないのに、こんな風に抱き合ったのは、討伐の夜以来だ。
レヴィが愛おし気に髪を撫でるのに任せ、頬を首筋にすり寄せたら、金具が鼻に当たった。
「痛っ」
「どうした?」
レヴィが抱擁を解く。玲史が鼻を撫でているのを見て、状況を把握したようだ。
赤くなった鼻筋を、レヴィもそっと撫でる。
「早く部屋で続……癒し術を」
レヴィの甘えた笑みに、胸が痛くなった。
一瞬浮かんだ、ドロドロとした重たくて苦しい何かに蓋をして、自分の心に理由を付ける。
この人は玲史の大事な王子様。王国も王子も、自分が守るのだ。これは玲史だけに出来ることだ。
ふと、ゲンドルの言葉を思い出す。
国が決めた相手を娶り、子を生す。婚約者に会った今、その言葉が現実味を帯びて、玲史の胸に刺さる。
自分は大丈夫。恋じゃないから。これは甥を見ていた時と同じ、成長を見守る大人からの愛情なのだ。
レヴィに腰を抱かれ、バルコニーを出る。一見、酔った玲史をレヴィが、後見人として介抱しているようにも見える。だが、二人に近しい者であれば、互いに独占欲で縛り合っているのが分かってしまうくらい、甘い空気に包まれていた。
「殿下、独り占めは良くないな。そろそろ俺にも黒真珠と交友を深めさせてくれないか?」
お道化た声を掛けたのはゲンドルだった。
「先生は、いつも魔術省で交友を深めているでしょう」
レヴィは剣呑な眼差しを師に向ける。
「美しく着飾ったレイジは、また別物なんだけどね。今回は引き下がりましょう。俺達はいつも、交友を深めているからな。レイジ?」
意味深な笑みを投げて、去っていく。レヴィが、強引に腰を引き寄せた。
(変な煽り方しないでほしいなぁ。なんか不機嫌になってるし)
すぐ近くにある顔を見上げたら、熱を帯びた眼差しで見つめられる。何か言いかけて、でも言葉にはせずに再び歩き始めた。
視線の先には、男の壁を侍らせたヴァナディスがいる。話しながら視線だけをこちらに向けた彼女に、挑戦的な笑みを見せると、彼女の笑顔は引き攣り、怒りに燃えた瞳で睨み返してきた。
そんなことで優越感を覚える自分は、ここに来て性格が悪くなったかもしれない。
玲史は自嘲気味に笑った。
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