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第1章 魔力要員として召喚されましたが暇なので王子様を癒します

18 癒しハグはレヴィ以外禁止

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 帰宅したアンディが、真っ先に玲史に駆け寄り抱き付いて来た。
 背中をポンポンと叩いてやるが、張り付いて項の匂いを嗅いでいて離れない。
 後から入って来るレヴィの姿が見えたので、アンディの腕を引きはがして追い払い、玲史から出迎えて背伸びをしながら抱きしめた。
 玲史の腕の下から、レヴィがおずおずと腕を伸ばして腰を抱く。
 体が密着したところで、全身から癒しの魔力を送る。
「俺以外にはしないでほしい」
 そんな可愛いことを言われ、ハグによる全身からの癒し、勝手に癒しハグと呼んでいるが、それはレヴィ限定で行っている。
「レヴィ殿下、右足の脛をどうしました?」
 続けているうちに、不調な部分に発生する魔力の滞りがわかるようになっていた。
「木剣を蹴り上げた。痛みはあったが、我慢できないものではない」
 身体強化をしていて痛いならヒビくらいは入っているだろう。玲史は跪いて、右脛に治癒を施す。
「レヴィ殿下は、本当に無茶ばかりですね。また二人相手に訓練したんでしょう」
「いや、今日は三人だ。レイジーがいるから、訓練での多少の無理は問題ない」
 重傷を負った日からというもの、玲史を名前で呼ぶようになり、アンディと競ってストレートに甘えてくるようになった。
 また、出会った頃の態度を悔いているのか、玲史に対する過保護に磨きがかかり、今では姫扱いをされている。

 瀕死の重傷を負った後、騎士団の団長に過重労働を指摘されたレヴィは、今までの過密スケジュールを変更して、通常のローテーションで討伐の指揮を執ることになった。
 指摘されるまで、騎士団を数名ごとに分けて行われていた討伐全てに参加していた。いくら癒しの術で万全だからと言ってそれはやり過ぎである。スローライフなこの世界で、ここの王子兄弟だけは、どうやらワーカホリックのようだ。
 そんなわけで、少しだけ暇になったレヴィと、今日は久しぶりに二人で魔石充填に来ている。
「レイジーの魔力は美しいな」
 二人並んで魔力を充填しながら、ゆらゆらと中心の虹色に混ざり合っていく玲史の魔力を見て、レヴィが呟く。
「私も、初めて殿下の魔力を見た時に美しくて見惚れたのを覚えています」
「そうか……」
 レヴィは、その時の事を思い出したのか、瞳に陰りを見せる。
 レヴィの魔力に僅かな揺らぎを感じた時、中心の虹色の向こう側に、魔法陣のようなものが一瞬見えた。目を凝らしたが、二人の魔力の流れに紛れて、水に溶いた絵の具のように混ざり合って消えてしまった。
 目の錯覚なのか、始祖王の王妃と筆頭魔術師が祭った霊廟なのだから、当然魔法陣くらいは施されているのか。
 レヴィに確認しようと彼を見たら、酷く青い顔をしている。
「レヴィ殿下、瘴気障害ですか?」
「ああ、そのようだ。貴方の癒しを受けているのに、どうしてだろう、今日は久しぶりにキツいな」
「ハグで癒してから戻りましょう」
 玲史は、レヴィを強く抱きしめて、背中を撫でながら魔力で癒す。
 耳元で、安堵の長い溜息が聞こえてくる。少し落ち着いてきたようだ。
「俺も触れていいだろうか」
「落ち着くのなら、いくらでもどうぞ」
 許しを得たレヴィは、両腕を玲史の腕の下から抜いて背中を抱く。
 片手で髪を撫で、頬を寄せる。スーッという鼻息が聞こえた。
「頭の匂い、嗅がないでください」 
「頭ではない、項だ。アンディがいつも嗅いでいて不思議だったが、確かに甘い香りがする」 
 加齢臭では、と不安になったが、甘いのなら違うだろう。
 レヴィは、玲史の髪をかき上げて、項に鼻と唇を当てる。首の後ろの方にチクリと痛みを感じたら、項を強く吸われていた。
 髪をかき混ぜながら、額や頬にも唇を摺り寄せる。
 腰の辺りがスース―すると思ったら、ズボンからシャツを引き出し、服の中に手を入れて背中を直に撫でている。
 撫でまわし過ぎだと注意したいところだが、レヴィが触れ合いを望むなら拒みたくない。
 変な気分になってしまいそうだが、これは癒しだ。性的なものではない。そう自分に言い聞かせる。 
「癒しは中毒性があるのか? もっと欲しくなる」
 溜息交じりのレヴィの声が、耳に甘く響く。
(大事な王子様と国を守るためだ、こんなことで欲情している場合じゃない)
 玲史は気合を入れ直し、癒しハグに集中した。
 その時、魔石の間の空気が揺れ、ドアが、軋む音を立てながら開いた。
 二人が視線だけを向けると、そこには金髪に緑の瞳の人形のようなお姫様が、驚いた表情で立っていた。
 王太子の婚約者、ブリーだった。
「え、レヴィ×玲?」
 一瞬、暗号めいた呪文を発し、だがすぐに、令嬢らしい澄ました顔で「ごきげんよう」と膝を折る。
 レヴィが、服の乱れを直して抱擁を解いたので、玲史も癒しを終えた。
「久しいな、ブリー。我々は充填を終えたところだ。先に失礼する」
 顔色が良くなったレヴィは、玲史の背に手を添えて扉へと向かう。玲史も挨拶をして、レヴィに促されるままに魔石の間を出た。
 年が明けてこの国の成人、15歳になった少女は、隣国の王女を母に持つ魔力無しの王太子にとって高魔力で最強の婚約者だ。大人しく控え目で人見知りな深窓の令嬢だったが、最近は時に挙動不審を心配されている。
「ブリー様も、高魔力なんですよね。癒しの術を利用していただきたいですね」
「召喚後、倒れてから様子がおかしいと聞く。早く回復すると良いな……だが、レイジーの癒しハグはダメだぞ」
「分かってますって」
 耳を赤くして憮然と言うレヴィの独占欲が可愛くて、玲史の頬に笑みが浮かんだ。
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