SCREAM ANGEL

すずね

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STAGE1―5

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 打ち上げと反省会を兼ねた飲み会の為に、4人は近くの居酒屋に移動した。
 メンバーの前にはビールジョッキが、響生の前にはウーロン茶のジョッキが並ぶ。
「観客動員数50名突破。お疲れ様でした!」
 馨の声に、響生もウーロン茶の入ったジョッキを皆と合わせる。
 いつもだったらライブを振り返って良かった点などを積極的に発言する響生だったが、今日はコウの事が頭から離れず上の空だ。
 レインなんかより自分のほうがあの曲を活かせる……そんな考えが浮かんでメロディーを口ずさむ。
「……って考えていて。な、佳行?」
「うん。就活始まるからね。響生は?」
「え?」
 会話を聞き逃し、確認しようとした時、大皿に乗った刺身の盛り合わせが運ばれてきた。
「あちらのお客様からです」
 店員の声に顔を上げると、カウンター奥の方に、先ほど声を掛けてくれたファンの男の姿が見えた。
「あれー、万作さん、いいんですかー?」
 シンが大声で手を振ると、男が振り返って小さく手を振り返す。
「ご馳走様です」
 口々に言って頭を下げると、彼は嬉しそうに頷く。
「万作さんっていうんだ」
 響生は座席から身を乗り出し、もう一度彼に頭を下げる。
「万作さんはハンドルネームで本名は……なんだっけ、友達の連れだったんだけど、ハハ……忘れた」
「さっきも声をかけてくれました。あの方は初日から皆勤賞なんですよ。ありがたいです」
 だが、笑顔の響生とは反対に、馨は心配そうに表情を曇らせた。
「シンさん。あの人、普通の人ですよね」
 馨が声を潜めてテーブル中央に顔を寄せる。
「響生を見る目がガチ恋っぽくてヤバいんですけど」
 馨の心配は有難いが、ファンをそんな色眼鏡で見ないで欲しい。
「あーまあ、響生は可愛い枠だからなぁ。性別を超えて好きになっちゃうヤツだっているんじゃねーの?」
 可愛いと言われることを嫌がっていると知っていて、更に馬鹿にしたような「可愛い枠」という言葉を使う。
 ドラマーとしては申し分ないが、人間性はついて行けない。
「でもファンってそういうもんだろ。俺も若い頃は女のファンがガチで迫って来るからよく当時の彼女にキレられてたよ」
「モテ自慢ですか」
 冷たい視線の馨に、シンは締まりのない笑みを返す。
「いやいや、困ったって話だよぉ」
「それよりあの人、ストーカーになったりしないですよね。ほら、この店も、後をつけてきたんじゃないですか?」
「偶然だろ。仮についてきたからって何なの? 一緒の空間で飲みたいなんて、健気じゃね? 馨は過保護なんだよ。美人だから自意識過剰になるのも無理ないけどさ。でもまあ、響生が期待を持たせるようなことしなけりゃ大丈夫だよ。馨だって声かけてくるお姉さん達には営業スマイルで応えて、プライベートに干渉して来ようとするとバッサリ切るだろ? あれと一緒。それくらい弁えてるよな、響生」
 万作と呼ばれた男は、最初にできた熱心なファンだった。
 好ましく思っているファンを疑いたくはない。
 でも、好意のベクトルは人によって様々で、こちらが思う通りにならないことも、響生は知っている。
 過去の出来事を思い出して、更に気分が沈んだ。

 幼い頃の響生は今以上に可愛らしい容姿をしていた。
 白い肌に大きな黒目と長い睫毛が天使のようだと、誰もが溜息を吐くような美少年だった。
 趣味でバンド活動を続けていた両親も、自分達のライブでステージに上げて見せびらかすという親バカぶりを発揮していた。
 そんな響生だったから、保育園から小学校まで、女の子達の響生争奪戦に巻き込まれたことは数知れなかった。
 幸い、負けん気の強さと人懐こい性格から男の友達には事欠かなかったのだが、そんな響生にも中学校の卒業前に初恋が訪れた。
 男子が大人っぽくなっていく中で、いつまでも少女めいた容姿にコンプレックスを感じていた響生だったが、クラスでいつもペアになる小柄な女の子だけは、一緒に居ると自分が男子だと感じられて安心できた。
 一緒に過ごすことが増えたが、卒業で別の高校に進学することは知っていたので、勇気を出して告白をしたのだ。
「好きです。付き合ってください」
 良い返事をもらえると確信していた響生だが、期待は儚くも裏切られた。
「ごめんなさい。私、好きな人いるから付き合うのは無理だけど、響生君は姉妹みたいで話しやすいから好きだよ。高校は別れるけど友達でいよう」
 その後、どうやってその場を立ち去ったか覚えていないが、校舎を彷徨って昇降口にたどり着いた時、彼女が親友に告白している現場に遭遇してしまった。
 彼女が泣いて立ち去るのを見て、彼女もまた振られたのだと気付いた。
 何だか色々とショックで、だけど吹っ切れた気がして、親友の前にお道化て出て行ったのだ。
「なに告白されてるんだよー」
 親友は酷く狼狽し、「違うんだ! あいつは関係なくてっ」と響生の肩を掴んだ。
「俺が好きなのは響生で! あ……」
 思いつめた目で響生を見つめる。
「響生……ずっと、俺……」
「えっと……ごめん、俺、好きな人いるから」
 肩の手を振りほどき、先ほど自分が言われたセリフを投げつけて、その場から逃げ出した。
 後に共通の友人から、彼が、響生に好意を持つ女子を片っ端から自分に気を持たせ、時には付き合い、捨てることで、響生に近づく女子を阻んでいたのだと聞いた。
 告白された後、中途半端なまま逃げ出した罪悪感は、親友だった男への不信感へと変わったのだ。
 高校生になると、さすがに愛玩動物のように扱われることは無くなった。
 クラスで人気があるのは、面白い男子とスポーツが得意な男子だった。
 可愛いだけでチヤホヤされる年齢ではなくなったのだろう。
 音楽クラブでロック好きの先輩達と出会い、バンドを結成したことも転機となった。
 学校祭でお得意のスクリームボイスを披露してからは、「変な声で歌う人」という変わり者のレッテルを張られてしまったが、「可愛い」からと甘く見られたくない響生にとっては好都合だった。
 スクリームという武器を持つことで、男らしい自分を手に入れた。
 なのに、またあの頃のように周りから舐められてたまるか。
 響生は、もっと喉を鍛え、男らしさを追求することを心に決めた。
(頑張って何とかなることなら、俺は何だってやってやる)
 そうやって今の自分を作り上げてきたのだ。
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