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STAGE1―3
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「……っ」
一瞬で響生の脳天を撃ち抜き、全身に震えが走った。
いきなりギターソロから始まったその音色は、攻撃的なのになぜか妖艶で甘い。
不快感ギリギリ手前の周波数で、ツィゴイネルワイゼンを彷彿とさせるような旋律を奏でる。
そこに心拍さえシンクロしてコントロールされそうな重いドラムとベースがミディアムテンポで加わった。
尾骶骨から脊髄を伝って突き上げる性衝動に似た熱に、鳥肌が止まらない。
響生は引き寄せられるようにフロア中央に向かって進み出ていた。
1曲目はボーカルが入らないインストゥルメンタルだった。
何気なく弾いているが、弦を押さえる指やピッキングは絶え間なく細かい動きを続けており、響生でも技術の高さが分かる。
だからと言って速弾き一辺倒ではなく、感情豊かに歌うような音色は胸に迫る。
(やばい、かっこいい、きもちいい、なにこれ、やばい、やばいっ)
痛いくらいに胸が高鳴り、無意識で拳を振り上げていた。
プログレッシブメタルやテクニカルロックなどに分類される、高度な技術を要する楽曲だが、アマチュアバンドとは思えない完成度と安定感だった。
ドラムを叩いているのは、初対面からフレンドリーなあの青年だった。
ハーフパンツ一枚だけという衣装で細身だが筋肉質な上半身を晒し、一曲目から激しいドラムソロを見せつける。
速さやテクニックだけではないグルーブに身を任せれば、飽きることなくいつまでも聞いていたいと思わせた。
そこに、イントロと同じフレーズで入るベース。
(はうっ……完璧)
ベーシストの女性はエナメルのトップスにショートパンツという大胆な衣装に身を包んでおり、揺れる大きな胸につい目がいってしまいがちだが、重いドラムに被せるフィンガーピッキングの音色は力強く存在感がある。
ドラムの横で楽譜を捲りながらキーボードを弾いているのは、彼女と談笑していた男性だった。
銀縁眼鏡にシルバーヘアの彼は、ステージ上を見守る様な視線を向けながら、淡々と弾いている。
そして響生の視線は中央に戻る。
センターでギターを弾く男の存在感。その一挙一動にくぎ付けになってしまう。
真剣にギターを弾いている時の、やや眉を顰めた顔は美形だが不機嫌そうだ。
そんな彼が、顔を上げてファンにギターピックを投げて、微かな笑顔を見せる。
ほんの少し口角が上がっただけで、大人の色気的なものがだだ漏れた。
思わず響生も口を開けて見つめてしまう。
ピックが投げられた辺りから悲鳴が聞こえ、暫くざわついている。
(え、え、俺も欲しい)
思わず手を伸ばすが、気付いてもらえない。
見掛け倒しで終わるなよ、などと上から目線で思った数分前の自分が恥ずかしい。
響生は一瞬でファンになってしまった。
彼らのステージを一観客として普通に楽しんでいる。
「初めまして、エンジェルスフラップです。次の曲、行きます」
「いや、話せるんかい!」
ギタリストのMCに、響生の口から独り言が零れる。
イントネーションも声もおかしなところはなく、寧ろ低くて甘いではないか。
(声までイケメンって、卑怯だぞー)
長く技巧的な1曲目に対して、2曲目は覚えやすいキャッチーなメロディーのロックだった。
ここで初めて、ギタリストがマイクに向かって歌い始めた。
(え、うそ! 下手……や、下手じゃないけどさ……いい声なのに)
音は外していないが、せっかく良いメロディーなのに、声質を活かしきれていない。
佳行が作曲した際に、自ら入れてくれる仮歌とそう変わらないレベルだった。
その後、ジャズの要素を取り入れたようなインスト、続けて明るい感じのバラードはベーシストがボーカルを取り、最後にギターとキーボードの掛け合いがテクニカルなインストで終わった。
初めましてと言っていたのだから初ライブなのだろう。
ボーカルは別として、楽曲も演奏もパフォーマンスも完成度が高い。
何より、ギタリストのプレイには最初から最後まで目が離せなかった。
演奏を終えても、響生の胸の高鳴りは収まらない。
楽屋に戻り余韻に浸っていると、ステージを終えたギタリストの男が、ギターを片手に楽屋に戻って来た。
咄嗟に、ミネラルウォーター掴み駆け寄る。
「お疲れ様です。オープニング曲のギター聞いた瞬間痺れました。良かったらこれ」
無表情の男は、一瞬の間を置いて口を開いた。
「……ああ……どうも」
響生は笑顔を返し、話しかけたい気持ちを押さえて背を向けた。
好きな人に鬱陶しいと思われたくはない。
急ぎ足でフロアから出て、会計待ちのメンバー達と合流した。
精算を待つ間もエンジェルスフラップの曲が頭から離れない。
響生は、体を揺らしながら、覚えたてのメロディを口ずさむ。
(やっぱり好きだ。あんなカラオケみたいなボーカルじゃ納得できない。俺が歌ったほうが……)
熱に浮かされたように、さっきのステージを脳内で反芻していた。
「ねえ、馨さん。エンジェルスフラップって何者?」
「エンジェルスフラップ、略してエンフラだって。ギタリストのコウはプロで、他のメンバーは初参加で無名。コウは、メジャーからステージミュージシャンに転向して、先月まではソロシンガーのサポートメンバーとしてアジア各国を回っていた、らしい」
そう答えて、携帯の画面をこちらに向けた。
「やっぱり、プロだったかぁ」
響生は納得して、自分も同じサイトを検索した。
一瞬で響生の脳天を撃ち抜き、全身に震えが走った。
いきなりギターソロから始まったその音色は、攻撃的なのになぜか妖艶で甘い。
不快感ギリギリ手前の周波数で、ツィゴイネルワイゼンを彷彿とさせるような旋律を奏でる。
そこに心拍さえシンクロしてコントロールされそうな重いドラムとベースがミディアムテンポで加わった。
尾骶骨から脊髄を伝って突き上げる性衝動に似た熱に、鳥肌が止まらない。
響生は引き寄せられるようにフロア中央に向かって進み出ていた。
1曲目はボーカルが入らないインストゥルメンタルだった。
何気なく弾いているが、弦を押さえる指やピッキングは絶え間なく細かい動きを続けており、響生でも技術の高さが分かる。
だからと言って速弾き一辺倒ではなく、感情豊かに歌うような音色は胸に迫る。
(やばい、かっこいい、きもちいい、なにこれ、やばい、やばいっ)
痛いくらいに胸が高鳴り、無意識で拳を振り上げていた。
プログレッシブメタルやテクニカルロックなどに分類される、高度な技術を要する楽曲だが、アマチュアバンドとは思えない完成度と安定感だった。
ドラムを叩いているのは、初対面からフレンドリーなあの青年だった。
ハーフパンツ一枚だけという衣装で細身だが筋肉質な上半身を晒し、一曲目から激しいドラムソロを見せつける。
速さやテクニックだけではないグルーブに身を任せれば、飽きることなくいつまでも聞いていたいと思わせた。
そこに、イントロと同じフレーズで入るベース。
(はうっ……完璧)
ベーシストの女性はエナメルのトップスにショートパンツという大胆な衣装に身を包んでおり、揺れる大きな胸につい目がいってしまいがちだが、重いドラムに被せるフィンガーピッキングの音色は力強く存在感がある。
ドラムの横で楽譜を捲りながらキーボードを弾いているのは、彼女と談笑していた男性だった。
銀縁眼鏡にシルバーヘアの彼は、ステージ上を見守る様な視線を向けながら、淡々と弾いている。
そして響生の視線は中央に戻る。
センターでギターを弾く男の存在感。その一挙一動にくぎ付けになってしまう。
真剣にギターを弾いている時の、やや眉を顰めた顔は美形だが不機嫌そうだ。
そんな彼が、顔を上げてファンにギターピックを投げて、微かな笑顔を見せる。
ほんの少し口角が上がっただけで、大人の色気的なものがだだ漏れた。
思わず響生も口を開けて見つめてしまう。
ピックが投げられた辺りから悲鳴が聞こえ、暫くざわついている。
(え、え、俺も欲しい)
思わず手を伸ばすが、気付いてもらえない。
見掛け倒しで終わるなよ、などと上から目線で思った数分前の自分が恥ずかしい。
響生は一瞬でファンになってしまった。
彼らのステージを一観客として普通に楽しんでいる。
「初めまして、エンジェルスフラップです。次の曲、行きます」
「いや、話せるんかい!」
ギタリストのMCに、響生の口から独り言が零れる。
イントネーションも声もおかしなところはなく、寧ろ低くて甘いではないか。
(声までイケメンって、卑怯だぞー)
長く技巧的な1曲目に対して、2曲目は覚えやすいキャッチーなメロディーのロックだった。
ここで初めて、ギタリストがマイクに向かって歌い始めた。
(え、うそ! 下手……や、下手じゃないけどさ……いい声なのに)
音は外していないが、せっかく良いメロディーなのに、声質を活かしきれていない。
佳行が作曲した際に、自ら入れてくれる仮歌とそう変わらないレベルだった。
その後、ジャズの要素を取り入れたようなインスト、続けて明るい感じのバラードはベーシストがボーカルを取り、最後にギターとキーボードの掛け合いがテクニカルなインストで終わった。
初めましてと言っていたのだから初ライブなのだろう。
ボーカルは別として、楽曲も演奏もパフォーマンスも完成度が高い。
何より、ギタリストのプレイには最初から最後まで目が離せなかった。
演奏を終えても、響生の胸の高鳴りは収まらない。
楽屋に戻り余韻に浸っていると、ステージを終えたギタリストの男が、ギターを片手に楽屋に戻って来た。
咄嗟に、ミネラルウォーター掴み駆け寄る。
「お疲れ様です。オープニング曲のギター聞いた瞬間痺れました。良かったらこれ」
無表情の男は、一瞬の間を置いて口を開いた。
「……ああ……どうも」
響生は笑顔を返し、話しかけたい気持ちを押さえて背を向けた。
好きな人に鬱陶しいと思われたくはない。
急ぎ足でフロアから出て、会計待ちのメンバー達と合流した。
精算を待つ間もエンジェルスフラップの曲が頭から離れない。
響生は、体を揺らしながら、覚えたてのメロディを口ずさむ。
(やっぱり好きだ。あんなカラオケみたいなボーカルじゃ納得できない。俺が歌ったほうが……)
熱に浮かされたように、さっきのステージを脳内で反芻していた。
「ねえ、馨さん。エンジェルスフラップって何者?」
「エンジェルスフラップ、略してエンフラだって。ギタリストのコウはプロで、他のメンバーは初参加で無名。コウは、メジャーからステージミュージシャンに転向して、先月まではソロシンガーのサポートメンバーとしてアジア各国を回っていた、らしい」
そう答えて、携帯の画面をこちらに向けた。
「やっぱり、プロだったかぁ」
響生は納得して、自分も同じサイトを検索した。
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