SCREAM ANGEL

すずね

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BACKSTAGE

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「あんた、バカか? 元気ないの、見て分かるよね。なに追い打ちかけてんの! 少しは反省しろ!」
 サクがキレながら怒鳴り、響生を追って出て行った。
 反省はしないタイプだが、さっきの言い方は確かに不味かったと、自分でも分かる。
 だが、ステージ上から見えた響生の姿に苛立ち、抑えきれずに思ったことを言ってしまったのだ。

 コウは昔、幼い響生のステージを見たことがある。
 知人に声をかけられて、気分転換に観に来たのがここのライブハウスでの彼らのステージだった。
 あれはコウにとって運命のライブだった。
 ボーカルとギタリストの息子なのだろう。
 オペラをロックにアレンジした装飾音の多い曲を、美しいボーイソプラノでフシを回しながら歌っていた。
 両親に温かい目で見守られ、他のメンバーも楽しそうに演奏していた。
 他人のコウも、仲間に入れてもらったような幸せな気持ちになったことを覚えている。
 やさぐれた心が解れて、また音楽を頑張ろうと思い直すきっかけになったのだ。
 頭のおかしい男だと思うかもしれないが、その少年に心を奪われ、それからずっと心の支えとして持ち続けてきた。
 あの時の天使が、青年になってコウの前に現れたのだ。
 憧れのような、推しのような、恋しているような。
 手元に引き寄せたいような、触れてはいけない神聖なもののような。
 どう受け止めたら良いか分からなくて、ずっと戸惑っていた。
 本人を前にすると言葉が出ないのは仕方のないことだろう。

 少し前に、食事に誘ったが断られた。
 普段であれば誘いを断られたくらい気にしない質だが、今回はいつまでも根に持っている。
 マリリンに言われた「振られた」という言葉にいつまでも囚われている。
(俺には水しか寄越さないし、飯も断りやがった。なのに、あんなつまんない男にベタベタ触られて愛想笑いを浮かべ、挙句にキスされて泣きそうな顔してた。あいつには危機感というものはないのか? そして、今日のライブの痛々しさよ。へたくそなデス声なんてやめて、昔みたいなハイトーンボイスにコロラトゥーラで歌えばいいのに)
 響生に会ってからというもの、作る楽曲は昔の響生のイメージの曲ばかりだった。

 痛そうなデスボイスはどうかと思うが、バンド自体は悪くない。
 メロデスなどというマイナーなジャンルで、よくあれだけのファンを持っているものだ。
 楽曲もメンバーのバランスも、若者らしい棘や青臭さが、コウにはない勢いがあってワクワクさせられる。
 響生の、この一瞬に命を燃やし尽くすような情熱的な歌唱も、胸が締め付けられて堪らない。
 そんな素晴らしいバンドから響生を引き抜く気は毛頭ない……と言うのは建前で、エゴイストであることを自覚しているコウとしては、子供達のバンドなどすぐに解散して、あっちと演ったり、こっちと演ったりするのだから、何れスカウトするつもりだ。
 だが、その前に喉を潰したら取り返しがつかないことになる。
 無理をしてほしくないという愛ある言葉だったのだが、言い方が悪かった。
 響生は泣きそうな顔になって出て行き、サクには怒られた。
 自業自得ではあるが、理不尽に思うコウであった。
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