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秘蔵の皿
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上野(こうずけ)国の武士の家に、代々伝わる秘蔵の皿があった。
二十枚組となっている家宝で「もしこの皿を割る者があれば一命をとるべし」と代々言い伝えられている物であった。
ある日、一人の女中がその皿を一枚割ってしまった。
主人に知れたらその女中が手打ちになるものと、使用人達が嘆き悲しんでいると、裏からこの家で使われている米搗き男が出て来た。
米搗き男は、割れてしまった皿を見て言った。
「いや、心配無用、我が家には代々伝わる秘薬があって、割れた陶器を綺麗に継いで跡も残さず元通りに出来るのだ、残った皿も全部ここに持ってきてくれ・・・・」
使用人達が喜んで割れた皿と、残った十九枚の皿を米搗き男の前に持ってくると、男は二十枚を重ねてつくづくと見る振りをして、いきなり持っていた米搗きの杵を振り下ろして全ての皿を粉々に割ってしまった。
「ああっ、おまえさん、何をするんです!」
使用人たちが真っ青になって叫ぶと、男はからからと笑って言った。
「一枚割るのも、二十枚割るのも同じ一命を取られるなら、この皿は全て俺が割ったと主人には伝えてくれ、皿などはいつかは割れる時がくるものだ、それならばこの皿で二十人の命が取られるより、俺一人が命を取られた方が世の為になるというものだ」
男はその場に腰を下ろし、少しもたじろかずに続ける。
「皿を継ぐ秘薬があるといったな・・・あれは嘘だ、こうするために全部の皿を持ってきてもらったのだ、さあ、主人が帰ってきたら早くそう伝えてくれ」
主人が帰ってきてその話を聞き、激怒するどころかその勇気と義侠心に大変感心し、城主に願い出てその米搗き男を武士の身分に取り立ててもらったという。
二十枚組となっている家宝で「もしこの皿を割る者があれば一命をとるべし」と代々言い伝えられている物であった。
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主人に知れたらその女中が手打ちになるものと、使用人達が嘆き悲しんでいると、裏からこの家で使われている米搗き男が出て来た。
米搗き男は、割れてしまった皿を見て言った。
「いや、心配無用、我が家には代々伝わる秘薬があって、割れた陶器を綺麗に継いで跡も残さず元通りに出来るのだ、残った皿も全部ここに持ってきてくれ・・・・」
使用人達が喜んで割れた皿と、残った十九枚の皿を米搗き男の前に持ってくると、男は二十枚を重ねてつくづくと見る振りをして、いきなり持っていた米搗きの杵を振り下ろして全ての皿を粉々に割ってしまった。
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