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第八十一話 「お殿様の怪談」(後編) ~狐の妖術~
しおりを挟む松浦静山著「甲子夜話続篇」
巻三十四、一六「海賊橋某候邸の妖怪 幷 千住の死婦」より
また、最近の事だという。
千住の小塚原刑場(処刑場)の人里離れた所から、夜が更けると小児の泣き声が聞こえるという。
辺りの人々がその声を聞きつけ付近を捜索すると、それは三、四歳くらいの小児の泣き声のようである。
人々が怪しみつつ付近を捜すと、草むらの中で一人の子供が泣いており、その側には女性が一人倒れていた。
火を灯してよく見ると、二十代後半か、三十代になろうかという年頃の女で、既に死んでいた。
大変に美しく、身なりも卑しくない女性で、頭には銀の簪を挿していた。
彼女の側には風呂敷包があり、中身を改めると、縮緬の小袖と鼈甲の高価な櫛が入っていた。
泣いていた小児に住所等を聞いてみたが、小児は分からないという。
詮方なく、近所の人達で尋ね人の張り紙を出して、その二人の身元を詮索することにしたという。
ある人が言うには、これは野狐が美男に化けて、女性をたぶらかして犯したものではないかということだ。
狐は、「採補(捕)」の術を使って、女性を誘い出し姦淫するので、女性は精気を吸い尽くされて死んでしまうのだという。
この死んだ女性も、狐にやられたものであろうか・・・・。
江戸時代は、狐は神の眷属として崇められ、また恐れられていました。
人間に化けて将棋を指しに来るファンキーな狐もいれば、この話のように人に害をなす狐もいて、様々な話が伝えられています。
特に、南町奉行を勤めた根岸鎮衛さんの書いた随筆「耳嚢」には、狐にまつわる話が大変多く、その内容もバラエティに富んでいます。
一方の「お殿様」松浦静山の記した「甲子夜話」の方には、怪談めいた話は多くはないのですが、この話などは珍しく本格的「怪談」という気がします。
同じ「化ける」動物でも、狸は「マヌケ」、猫は「普段は猫被っているけど邪悪」、そして狐は「人に福を授けたり害を加えたり色々・・・」というキャラ分けのようです。
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