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第六十六話 「お殿様謹製!・・・お笑い集!」(その五)
しおりを挟む松浦静山著「甲子夜話続篇」
巻十七、一「落咄百節」より
私(静山)が若い頃は、世俗の落咄(笑い話)は短いほど称賛されたものだ。
今流行っている落咄は長ったらしいものが多い、ここにもまた世の移り変わりを感じる。
よって、私(静山)の記憶している昔の落咄を紹介しよう。
●「寝床浄瑠璃」
素人で大変に浄瑠璃が好きな大店の主人がいた。
己惚れて、近所の人達を無理矢理集めて下手な浄瑠璃を語って悦に入っていた。
しかし、糠味噌が腐る程の下手な浄瑠璃のため、付き合いで仕方なく顔を出していた近所の人達も段々と減ってゆく・・・。
夜になって観客は段々と減っていき、とうとう家の小僧一人になった。
延々と浄瑠璃を語っていた主人が、部屋に一人残った小僧に向かって言った。
「お前はまだ子供なのに見上げたものだ、浄瑠璃の良さが分かるとは・・・そんなに私の浄瑠璃が好きかえ?」
「いえ、ご主人様が座っているそこは私の寝る場所なのでございます・・・」
・・・これは、落語「寝床浄瑠璃」の原話です。
東京ではあまり演らないようですが、上方落語ではまだ演じられるようです。
私が尊敬する故・桂枝雀さんの寝床浄瑠璃は本当に面白いです。
一度聴いてみて頂きたいと思います・・・・。
●「土左衛門」
お侍様が納涼に墨田川沿いを歩いていると、川の中に浮かんでいる人のような形のものが目についた。
お侍は草履取りに言った。
「・・・あれは人のようにも見えるが・・・川を泳いでいる者なのだろうか、ちょっと見てまいれ」
草履取りが走って行って、川をプカプカと漂っているものを見てくる。
「・・・・見てまいりました、人でございました」
「・・・それでどうじゃ、やっぱり土左衛門だったか?」
「いえ、名前までは聞いてまいりませんでした・・・」
・・・「土左衛門」というのは、水死者の異名。
アメリカでは、身元不明の女性の遺体のことを「ジェーン・ドゥ」(Jane Doe)というらしいですが、そんな感じのものです。
(映画「ジェーン・ドゥの解剖」は私が最も好きなホラー映画です)
土左衛門というのは、実は享保の頃に実在したお相撲さんの名前で「成瀬川土左衛門」という人だとか。
このお相撲さん、色白でプクプクとした肥満体で、その姿が溺死体のようだったことから、水死者の事を土左衛門と呼ぶようになったということです。
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