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第五十話 「中国の「背負い剣」の扱い方」

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 松浦静山著「甲子夜話」

 巻六十七、九「負剣の用法」より


 私(静山)の家来に趣味で絵を描くものがいる。
 ある日、その男が私に向かって聞いた。

 「唐(中国)の絵に、剣を背負っている者が描かれていますが、これは一体どういうことなのでしょうか・・・」

 私(静山)は答えた。

 唐(中国)の方法は知らなくても、背負い剣の使い方がある事は知っておくべきであろう。
 その使い方は、剣のつかを背負う者の右肩に出し、剣先の方を背中の左側に向けるのである。

 下げ緒を交差して、一端は右肩へ、もう一端は左脇より出して身に着けるのだ。

 そうして、馬上の主人につき従う時は必ず馬の左側を歩くのだ。
 主人が咄嗟に剣を必要とする時は、従者は右足踏み出して、左足を開き、腰をかがめて腹に力を込める。
 そして右肩を前に着き出すと、馬上の主人は剣が抜きやすくなるのだ。

 また徒歩で、自分で剣を使う際にも、その姿勢は馬上の主人に剣を使わせるときと変わらないが、左手で剣の鞘を押し上げ、右手を肩まで上げて剣の柄を握って一気に引き抜くと、「抜き打ち」(刀の鞘を払って即座に攻撃すること)が出来るのだ。

 そうすると、我々日本人が腰の刀を抜き打ちにするのとなんら変わらないということだ。
 これは絵画の中だけではなく、実際の話なので武士は熟知しておくべきであろう。

 私(静山)がそう説明してやると、聞いたものは大変喜んだ。

 その場に居合わせた一人が、加えてこんな話をした。

 伝え聞く話では朝鮮征伐の際、向こうの兵隊は我々の「抜き打ち」という事を知らず、日本人が腰に刀を差しているのを見て、我々がまず刀の鞘を払い、それから上段に構え直して攻撃してくるものを勘違いして、武士が迫ってくると背負った剣を抜こうと、右手を剣の柄にかけるそうです。
 その時、日本の武士は腰から刀を抜き打ちにして、一瞬に敵の右肘あたりを斬り付け、一度に何人も斃せたという話です・・・。

 ゲーム「ゼルダの伝説」や漫画「ベルゼルク」でもお馴染みの「背負い剣」の用法でした。

 日本の刀(打刀)の場合は、刃を上にしてきます(太刀は下向き)、これは鞘を払ってワンアクションで攻撃出来る大変優れたもので、実際、居合の達人の動きを見ると、目にも止まらない抜刀と一瞬の斬撃が芸術的です。

 背負い剣は、映画やゲームで見る際にはカッコいいですが、なかなか扱いは難しそうです。
 というか、向こう(特にヨーロッパ)の用法としては、剣は戦う前に抜き身で持っているのが常識なのかもしれません・・・。

 



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