雲母虫漫筆 ~江戸のあれこれ~

糺ノ杜 胡瓜堂

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第四十二話 「お相撲さんのプライド」

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 松浦静山著「甲子夜話」

 巻九、一四「戯場にて角力取喧嘩の事」より

 壬午(みずのえうま)三月、葺屋町の芝居小屋で角力すもう取りが芝居を見物していた際、なにかつまらないことから芝居小屋の者と喧嘩となり、角力取り達が二十一人集まって芝居小屋での大乱闘となった。
 角力取り達は芝居小屋の柵を引き折り、散々に暴れまわったので、見物していた客達は慌てて逃げ出し、その際に怪我をする者も大勢出た。

 事が済んで、角力取り六人が町奉行所に自ら出頭してきた。

 騒ぎの中心となった六人の者達に加え、喧嘩に加わった他の者達も全員牢屋に入ることになり、ほどなくして裁許(判決)が下った。
 首謀者は百たたき(叩き)のうえ江戸への立ち入り禁止、十三人は五十敲(叩き)の上、町内立ち入り禁止と決まった。

 角力取り達は牢内で集まって話し合った。

 「たたきの刑は大変痛いと聞く、普通の人間がこの刑を受けて苦痛のあまり泣き叫ぶと、お役人様は手加減して下さるということだ、しかし俺達は角力取りだ、どんなに鞭を打たれても絶対に醜態は見せるな」

 皆でそう誓い合った。

 敲(叩き)の刑が始まったが、角力取り達は誰一人として悲鳴を上げず、皮膚が破れて血が流れても全員が誓いを守って最後まで音を上げなかったという。

 さすが、角力取りの志は常人とは違うものだ・・・と人々は感心したということだ。




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