上 下
24 / 100

第二十四話 「将軍の器の大きさ」 ~甲子夜話より~

しおりを挟む
 

 松浦清(静山)著「甲子夜話かっしやわ

 巻一、「四十」より


 徳川吉宗公の御代の時、どういう過ちが、将軍が召し上がる御膳の御食器の中に「はさみ虫」という虫が入っているのが見つかった。

 人々は大いに驚いて、御膳所台所頭をはじめ責任者は真っ青になって皆その処分を待った。
 周囲の者達は、あの者達は切腹になるだろう・・・と噂し合った。

 しかしまずは上意を仰ごう、ということになり、畏れながら吉宗公に責任者達の処分を仰ぐと、吉宗公は、

 「膳に入っていた虫はまだ捨てずにあるか」

 とお聞きになった。

 お側の者が「もちろん保管しております」と答えた。

 吉宗公は「では、その虫を責任者達に食わせてみよ」と仰せになった。

 責任者たちは、既に命はないものと覚悟していたので、嫌がるはずもなく喜んでその虫を食った。

 「あの者達に別条はないか・・・・」

 再び、吉宗公がお聞きになったので、お側の者が「とくに別条はございません」と答えると、吉宗公は言った。

 「・・・その虫に毒はなかったのだ、余もこうして無事であるぞ」

 吉宗公のこの一言で、この事件はあっけなく片が付いた。

 台所の責任者たちには全くお咎めなく、今まで通りお役を勤めた。
 彼らは涙を流して吉宗公に感謝したという、その時の彼らの気持ちはいかばかりであったろうか・・・。


 このエッセイでは初出の「甲子夜話かっしやわ」からでした。

 さすが、吉宗公、器が大きい・・・というお話でした。

 この甲子夜話は、肥前国(佐賀・長崎県)平戸藩の第九代藩主、松浦清(静山)が20年に渡って書き記したものです。
 短い話が多いのですが、根岸鎮衛の随筆「耳嚢」同様、様々な話題が掲載されており、資料的価値も非常に高いものです。
 非常に面白いです!

 活字に直したものが平凡社東洋文庫より出版されています。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

二人の花嫁

糺ノ杜 胡瓜堂
歴史・時代
 江戸時代、下級武士の家柄から驚異の出世を遂げて、勘定奉行・南町奉行まで昇り詰めた秀才、根岸鎮衛(ねぎしやすもり)が30年余にわたって書き記した随筆「耳嚢」  その「巻之七」に二部構成で掲載されている短いお話を、軽く小説風にした二幕構成の超短編小説です。  第一幕が「女の一心群を出し事」  第二幕が「了簡をもつて悪名を除幸ひある事」 が元ネタとなっています。  江戸の大店の道楽息子、伊之助が長崎で妻をつくり、彼女を捨てて江戸へと戻ってくるところから始まるお話。  おめでたいハッピーエンドなお話です。

【画像あり】大空武左衛門 ~江戸時代の優しい巨人~

糺ノ杜 胡瓜堂
エッセイ・ノンフィクション
 曲亭馬琴が編纂した、江戸時代の珍談、奇談の類から様々な事件の記録等を集めた書  「兎園小説 余録」  その中から、身長2メートルを超える巨人「大空武左衛門」についての記録をご紹介します。  文政十(1827)年五月、熊本藩、細川候の参勤交代のお供として江戸に入った武左衛門は、キャラクターグッズや錦絵が出回る「超有名人」として一大ブームを巻き起こしたようです。  当時の人々にとっては、まさに空を突く「巨人」だったのでしょう・・・・。  非常に短い原典の現代語への翻訳です。

女性は知らない男子トイレの話2

黒いテレキャス
エッセイ・ノンフィクション
男子トイレで一部男どもがやらかしてる、いかがなモノか?と思われる事について

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

「真・大岡政談」 ~甲子夜話にみる真実の大岡越前守~

糺ノ杜 胡瓜堂
歴史・時代
 名奉行として名高い「大岡越前守」(大岡 忠相 1677~1752)  そのお裁きは「大岡政談」「大岡裁き」として有名で、落語や講談、テレビドラマ、吉川英治氏の小説なども有名ですが、実は実際に大岡忠相本人が関わったお裁きは殆ど無く、他の名奉行と呼ばれた人達のお裁きだったり、有名な「子争い」の逸話などは旧約聖書のソロモン王の裁きが原話だとか・・・。    「名奉行」として多分に偶像化、理想化された存在の大岡越前守ですが、当然その実際の人物像も、庶民の気持ちをよく理解している大変聡明な人だったのでしょう。  だからこそ庶民は、彼に正義を実現してくれる理想のキャラクターを求めたのだと思います。  肥前国平戸藩の第九代藩主・松浦静山(1760~1841)が20年余に渡って書き記した随筆「甲子夜話」には、そんな大岡忠助の「真実」の人となりが分かる逸話が掲載されていますので、ご紹介したいと思います。  非常に短い読み切りの三話構成となります。

カクヨムでアカウント抹消されました。

たかつき
エッセイ・ノンフィクション
カクヨムでアカウント抹消された話。

【超短編読み切り】「正直お豊の幸福」

糺ノ杜 胡瓜堂
歴史・時代
     江戸時代、下級武士の出身から驚異の出世を遂げて、勘定奉行・南町奉行まで昇り詰めた秀才、根岸鎮衛(ねぎしやすもり)が30年余にわたって書き記した随筆「耳嚢」  その「巻之二」に掲載されているお話を原話として、軽く小説風にした読み切りの超短編小説です。  「正直に加護ある事 附 豪家其気性の事」というお話が元ネタとなっています。  当時「けころ(蹴転)」と呼ばれた最下級の娼婦が、その正直さゆえに幸せになるお話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...