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第十三話 「鱣魚(うなぎ)は眼気の良薬たる事」~大盗賊が語った眼をよくする方法~

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 根岸鎮衛やすもり著 「耳嚢みみぶくろ」巻之七


 「鱣魚うなぎは眼気の良薬たる事」より


 宝暦の初めに日本左衛門という盗賊が、その時の火付盗賊改、徳山五兵衛に捕らえられお仕置きになった。
 その吟味の際に与力の何某とか言う人が、日本左衛門は暗闇でも目がよく見えるという噂を聞いて試してみた。

 吟味所の明かりを消して真っ暗にし、日本左衛門を引き出して、壁に掛けてある手錠や捕り縄の数を尋ねると、日本左衛門は全て間違いなく言い当てたという。
 もしや昼間に見ていて数を知っていたのではと思い、その辺にあった訴状を渡して読ませてみたところ、これも灯りの下で読むほどではないが、とどこおりなく読んだということだ。

 与力は不思議に思って「おまえは何か薬などを飲んでいて暗闇でもそんなに物が見えるのか?」と日本左衛門に聞いてみると彼はこう答えた。

 ・・・若い頃に、人から鰻を沢山食べると眼が良くなると聞きました。

 ただしその食べ方は、例えば一日から八日までは鰻を食べて、その後はなにか願い事をするときに、ある物を断つのと同じように鰻を食べるのを止めるのです。

 最初に神に祈願して七日程食べるのが良いと言うことでございます。
 鰻の首の部分は食べません、首を除いて尻尾の部分まで食べるのです。
 もっとも肝は食べずに捨てます、鰻の肝は眼の薬などと言いますが、あれは嘘っぱちです。
 尾の部分は総じて力の集まる所ですから、ここを残さず食べるのでございます。

 日本左衛門からそう聞いた与力が鰻をよく食べるように心掛けると視力が人より良くなったという。


 この日本左衛門という盗賊、歌舞伎の「白波五人男」の「日本駄右衛門」のモデルとなった人とか。
 曲亭馬琴の「兎園小説 余録」には、この日本左衛門の人相書が記されています。

 背の高さ 五尺八寸五分ほど(177cm)
 年齢 二十九歳(みかけは三十一歳程に見える)
 鼻筋が通り月代さかやきは濃く、顔に一寸五分(約5cm)程の傷がある。
 目は細く面長で、首を常に右に傾ける癖がある。

 脇差は二尺五寸(76cm)鍔は無地、覆輪に金福人模様、柄鮫つかざめ真鍮筋金あり、小柄こづか魚子ななこ(細かい粒模様)と生物色々、こうがい赤銅しゃくどう無地、切羽とハバキは金、鞘は黒塗りで鞘尻に少々銀あり。
 (小柄、笄は刀の鞘に収まる小刀と整髪道具)

 日本左衛門は、延享四(1747)年、市中引き回しの上獄門となりました。
 なお、二尺五寸は長さの分類でいうと「刀」なのですが、武士ではない日本左衛門の持ち物なので「脇差」と書かれているようです。

 日本左衛門は背も高く、なかなかの美男子だったようです・・・。

 もっとも、鰻を毎日食べるなんて、今ではもう超金持ちでしか出来ない芸当ですね。
 明治から昭和初期にかけて活躍した小説家、岡本綺堂の「半七捕物帳」でも、半七がよく鰻を食べています。
 ・・・ちょっと羨ましい気がします・・・。
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