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第七十二幕「路地裏のハプニング・ショー」~港町マルトーの夜~
しおりを挟む「・・・・アラミスっ・・・じ、じゃなくてカミーロっ!なにこの汚い部屋はっ!この薄汚れた不潔なベッド・・・見ているだけで身体が痒くなりそうっ!」
「・・・・も、申し訳ございません・・・一応僕達はお金に困窮している・・・って筋書きなので一晩15ギュネールの宿にしたものですから・・・」
「・・・・そんなトコまで筋書きを守らなくていいのっ!2千でも2万でも、いくらでも出すから、もっとマシな宿にしないさよっ!」
「・・・・アレクシア様っ・・・じゃなくて「ロザリーナ」さんっ、少しの辛抱ですから・・・・」
卑猥な落書きもある、壁紙が所々剥がれている粗末な壁、洗ってはいるのだろうが、あちこちが茶色く変色しているシーツに、中に藁が詰まっているベッド。
何もかもが、王宮とは別世界である。
王宮での何不自由ない暮らしから一転、下層市民の生活を体験するアレクシア・・・。
「ロザリーナ・・・さんっ・・・市場で買ってきてパイと果物です、今夜の夕食はこれで・・・」
港町らしいシーフードベースのパイ・・・王宮では食べたことのない代物だ。
しかし、焼きたてのそれは、王宮の豪華な食事にも負けない香ばしい香りを漂わせている。
・・・・ゴクッ・・・・今は、ロザリーナとなっている女王アレクシアの喉が思わず鳴る。
「・・・ま、まあ・・・いいわ、これしかないなら食べてあげるわ・・・」
二人は、座りの悪いガタガタと揺れる小さなテーブルに差し向かいで、夕食にありつく。
・・・・えっ?こ、これ、すっごく美味しいっ!・・・・こんな美味しいもの・・・初めて!今度、王宮のシェフにも作らせてみましょうかしらっ!
まだホカホカのパイを頬張ると、中からは海老やジューシーな魚の切り身が溢れ出てくる。
港町だけに、素材の鮮度は上々だ・・・アレクシアは、安宿の汚い部屋の不快感も忘れてパイにかぶりつく。
「・・・・アレクシア様・・・じ、じゃなくて、ロザリーナさんっ・・・今夜はこの町唯一の繁華街、ルカンの酒場が賑わい出す時刻に・・・・そ、そのっ・・・ショーに出ましょう・・・」
・・・ああっ、そうだったわねっ・・・これから私は、まるで娼婦のように路上でセッ〇スを披露するのねっ・・・。
パイを食べ終わって、この地方の特産、赤くて甘い木の実ロベスコを丸かじりしながら、アレクシアは現実に引き戻される・・・。
今日は、港に貿易船が着いたらしい、またこの港町を根城にしている漁船群も豊漁に湧いたようだ。
この辺境の港町マルトー・・・その唯一の繁華街ルカンは、船乗りや仲買人、貿易商、それらを相手に商売をする物売りや屋台、大道芸人、そして春を売る女達で賑わいを見せていた。
・・・ほろ酔い加減の男達、女達の嬌声・・・ルカンの繁華街は様々な人と音で溢れかえる。
「・・・・アレク・・・ロザリーナさん、この辺りはいかがでしょう?」
厚い敷物と、金を入れてもらうための陶器のボウルを一人で抱えて、今は「カミーロ」と言う名になっているアラミスがアレクシアに囁く。
「そんなのどこだっていいわっ!ヤルことは変わらないんだからっ!」
そこは少し薄暗い、裏通りの奥まった、そう広くもない場所だった。
酒場が立ち並んでおり人通りは多い・・・アラミスは場所を決めると、これもヴァネッサが用意した、くたびれて所々破れのある厚い織物の敷物を敷いて、大きな声を上げる。
「・・・皆さん、これから素晴らしいショーをご覧にいれます!ちょっと他では観られないスゴいものですよっ!お代は気持ちで!さあ、まずはご覧あれ!」
ストリップ劇場の呼び込みのような恥ずかしい口上・・・・ロシュニア王国陸軍近衛師団准尉アラミス・ユペールは、恥ずかしさを必死に押し殺し、敵陣に吶喊するつもりで大声を張り上げる。
・・・・全ては、女王陛下アレクシアへの忠義の為!・・・アラミスは再度大声で、道行く男達を呼び止める。
既にほろ酔い気分の男達や、一夜の刹那的な快楽のお相手・・町の娼婦を物色している好色者もいる・・・。
「さあ、他では絶対に見られない最高のショーですよ!」
「・・・・おい、なんだあの小僧は?」
「・・・ふんっ、大道芸だろ?剣を飲むとか、美女が曲芸を見せるとか・・・もうそんな子供騙しは見飽きたぜ」
「・・・・それより、はやくいいネ~チヤンを見つけようぜ!ココの娼婦は上玉が多いって話だぜ?美人は早いもの勝ちだ!出港したら当分は女抜きだぞっ!今夜は戦だっ!」
「おい、にいちゃん・・・隣のご婦人はエラいベッピンのようだが、一体何を見せてくれるのかね?」
・・・・チラホラと物好きが集まってくる。
アラミスの下手糞な素人口上に釣られてきたのではない、彼等は大声で人を呼び込んでいる若い男の隣にいる人物に惹かれて集まってきているのだ・・・・。
・・・・そう、アラミスの隣で、ちょっと不貞腐れ気味で突っ立っているのは、30代半ばの金髪の美女「ロザーリーナ」である。
この辺りの田舎の港町ではとてもお目にかかることができないような雪のように白い肌、流れるような長く美しい金色の髪!ムッチリと張った大きな尻と、果実のような丸々とした乳房は男達が涎を流すほどの妖艶さである。
ドミノマスクで顔半分を隠してはいるが、その整った輪郭、林檎のように赤い頬は、この港町に屯する娼婦や踊り子達とは比べ物にならない美貌である!
日々水仕事や労働に追われる平民の女性は、花のようにその美しさの衰えも早い、王宮育ちのアレクシアの磨き抜かれた美しさにはとても太刀打ちできないのである。
「・・・・おい、あの小僧の隣にいる女・・・・スゲェいい女だな・・・」
「ああ、いい乳してるぜっ!・・・これから何をおっ始めるのかね?おい、俺たちも見に行こうぜ!」
「・・・・なんだなんだ?どエライ美人がいるぞっ!これから何か芸でもするんだろう・・・」
あっという間に20人近くが、路地裏のどん詰まりのそう広くもない空間に集まる。
・・・そこは、大通りからは隠れている割に人通りも多い・・・「パフニング・ショー」を開催するにはおあつらえ向きのポジションだった・・・。
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