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第三十幕 「屈辱のヴァージンロード」~女王と少年の初夜~
しおりを挟む野ウサギの丸焼き、タワーのような巨大なプディング、様々な色や形の珍しい果実・・・・王宮の晩餐会には見劣りするものの、贅を尽くした美味しそうな料理の並ぶ、郊外のさる貴族の屋敷の半地下になっているプレイルーム。
60人程度は収容出来そうなその大広間では、ドミノマスクで顔を覆った正装の老若男女が、がやがやとお喋りに夢中だ。
デップリと肥えた中年紳士、腰回りをコルセットで締めた流行りのドレスで美しく着飾った婦人に、溌剌とした若い貴族の青年・・・どの洋服も高価なシルクの生地に贅を尽くした刺繍の入ったもので、彼らが裕福な貴族であることが一目で判る。
皆、今夜の秘密倶楽部の趣旨は知っているのだろう・・・賑やかな中にも、どこか淫蕩な雰囲気が漂っている大広間は、ムンムンとした熱気に包まれていた。
広間の片隅で、いかにも好色そうなよく太った中年女性が、体格の良い若い貴族の男にしなだれかかり、しきりに秋波を送っている・・・女性としてはこの後、あわよくばこの男性に欲求不満の熟れた肉体をなんとかして欲しいという下心なのだろう。
・・・・若い青年貴族のいささか迷惑そうな表情がどこか滑稽だ。
かと思えば、ガツガツと牧場の豚のように、ローストした鶏の腿を頬張っている妙齢の貴族の御婦人もいる・・・秘密倶楽部は、人間のありとあらゆる欲を満たしてくれる彼らの桃源郷なのだ。
・・・・今夜の倶楽部のホストとなった名門・ローデル家の好色そうな老紳士が、皆を制してよく通る声で今夜の出し物を紹介する。
「お集まりの紳士淑女の皆さま、今夜はよくお越しくださいました、美酒や美味しい料理にも飽きて来た頃だとお見受けしますが、いよいよお待ちかねの今夜の出し物の始まりです!」
ドミノマスクで顔を隠した貴族たちが、いっせいに上品な拍手を送る。
「さて、昼間のサロンでは、エブリーヌ女史のモルティエサロンが大人気!・・・この中にもご出席された方がおいでかと思いますが、先週の女史のサロンでの議論は、「愛と肉欲」だったとか・・・ハハハッ、お高くとまっている人気絶頂のエブリーヌ女史ではありますが、なんとも間の抜けた議論ではありませんか!」
倶楽部の出席者達から笑いと拍手が起きる。
最近、都会では、「サロン」という上流階級の男女が集う、一種の社交場が流行しているのだ。
その中でも、洗練された言葉遣いと知的な会話で今や時の人となっているのがエブリーヌ女史という女性なのである。
彼女を信奉する者達も多い一方「才女気取り」「高級遊女」と、揶揄する者も多い・・・今夜のホスト、ローデル家の当主は反エブリーヌ派なのであろう。
「あの才女気取りが、美辞麗句を並べた議論をひねくり回すまでもありません!当倶楽部では、「愛と肉欲」・・・そのものずばりを皆様にお見せするとしましょう!」
・・・その意味を察しているのだろう、紳士の間からは歓声が、淑女の間からは艶めかしい感嘆の吐息が漏れる。
「・・・・今夜の当倶楽部の出し物を、あの鼻っ柱の強いエブリーヌ女史にも是非、ご覧に入れたかったのですが、私としたことが・・・・招待状を出し忘れたもので」
再び沸き起こる笑い声。
「さあ!ご紹介しましょう!・・・今夜の主役!ジャクリーヌ夫人と、彼女の召使い、ロランくんの登場です!皆さん盛大なる拍手を!」
広間のドアが開き、スケスケの膝まである長いショールと、太腿までのストッキングにハイヒールというお揃いのいで立ちの男女が登場する。
・・・・女性は30代半ばくらいだろうか、とびきり白い美しい肌と、胸と腰回りにムッチリと肉の乗った熟れた女性美が男達の目を惹く。
顔は、大きめのドミノマスクでしっかりと隠され、長い金髪は丁寧に編み込まれ、頭部で銀細工の髪飾りで纏められている。
「・・・・おおっ!」
観客の男達から感嘆の声が上がり、ドミノマスクの中から、数百の視線がこの美しい熟女を早くも視姦し始める。
ジャクリーヌ婦人・・・そう紹介された彼女の手を取って側に寄り添っているのは、彼女よりも背の低い、随分と若そうな少年だった。
親子ほども有りそうな年齢差と身長差!主人と下僕!・・・そのスキャンダラスなシチュエーションが早くも観客達の劣情を掻き立てる。
召使いのロラン・・・と紹介された彼も主人と同じ薄いショールに、やはり主人とお揃いの腿まであるストッキングを履いている。
・・・美しい金髪と華奢な体つきに似合う女物のストッキング・・・まるで少女のようだ。
履物まで主人とお揃いのその少年が慣れないハイヒールを履いて、ヨタヨタと主人の後を付いてくるのが観客達の微笑を誘う。
・・・・赤いカーペットが敷かれたヴァージンロードの上を、ドミノマスクの貴族たちの好奇の目に晒され、まるで新郎と新婦のように手を取って進む二人。
・・・もうお分かりであろう・・・親子ほども年齢の違うこの二人は、ロシュニア王国の女王・アレクシアと、ロシュニア王国陸軍近衛師団、准尉・アラミス・ユペールの世を忍ぶ仮の姿なのである。
・・・・ああっ・・・もうっ、死んでしまいたいっ・・・こんな屈辱をっ・・・どうして私がっ・・・。
アレクシアは、大きめのドミノマスクで隠した顔を、羞恥と嫌悪で歪ませる。
ロシュニア王国の女王であるアレクシアは、ショールを肩から掛けただけの、乳房も陰毛も透けて見える恥ずかしい恰好で、好色な貴族達の前に引き出されたのだ。
観客達もドミノマスクで顔を隠しているので判らないが、もしかしたらアレクシアが王宮で見知っている者達かも知れない・・・そう思うと、まだ場末のいかがわしい劇場で平民相手のセッ〇スショーをしていた方がマシだったような気もしてくる。
・・・・しかし、彼女のそんな後悔は遅きに失しているのだ。
アレクシアは処刑台に向かう心境で、好色な好奇の目に晒されながら、慣れないハイヒールで遅れがちなアラミス・・・今日の彼は「ロラン」なのだが・・・の手を取って、ヴァージンロードの上を歩いてゆく。
・・・・これから初夜を迎える新郎と新婦・・・といった舞台設定なのだろうか。
・・・・その終着点には、大きな台の上に祭壇のように置かれた寝椅子があった。
観客が手を伸ばせば触れられるほどの低い位置にある寝椅子・・・そこが今夜、衆人環視の中で二人が性器を結合させ、あられもない痴態を見せる肉欲の舞台となるのだ・・・。
アレクシアとアラミスのセッ〇スショーの舞台となった「パライソス・ドゥ・エール」の地下劇場とは全く異なる、演者と観客を隔てるものが何もない今夜の舞台に、アレクシアは何とも言えない恐怖と嫌悪を感じる。
・・・二人がトロトロに溶けて一つになる男女の愛の結合部にも、観客達が触ろうと思えば触れそうな今夜の舞台・・・。
大勢の正装した貴族達の中で、二人だけが素っ裸で家畜のように性器を結合させて獣の快楽を求めあう・・・そんな屈辱にアレクシアは耐えられない気がしたのだった・・・。
・・・そう、まるで家畜の種付け・・・・今夜の二人は正装の男女の中に二匹だけ混じった哀れな家畜に堕ちるのである。
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