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第九十九話 「強気之者召仕へ物を申付し事」
しおりを挟む根岸鎮衛著「耳嚢」 巻之二より
「強気之者召仕へ物を申付し事」
私(鎮衛)の知り合いに、御譜代の与力を勤めている猪飼五平という者がいる。
彼の親も五平といい、享保の頃まで勤めていたという。
非常に豪胆な性格の者で、据え斬り(罪人の死体を使った刀の試し切り)を好み、諸候で罪人などが出て彼に頼むと喜んで試し切りを引き受けたという。
ある時、五平が中間(武士に仕える奉公人)を一人探していたところ、ちょうど年の若い立派な者が来たので、五平も気に入り彼の望み通りの給金を与え雇うことにした。
五平の家は小身なので使用人も少ないため、ある時五平は中間に「米を搗いてくれ」と頼んだ。
すると、その中間が言った。
「私は草履取りとして雇われた者ですので、その儀ならばどこへでもお供いたしますが、米搗きはどうかご勘弁を・・・」
五平はそれを聞いて、
「ああ、それはもっともな事だ・・・確かに草履取りとして雇ったのだから契約以外の事を命じるのは俺の間違いだった」
そう言って突然下帯だけになり、下帯に脇差を差して米を搗く臼の周りを回って自分で米を搗き始めた。
「さあ、草履を持って俺の供をせよ!」
そう言って、臼の周りをグルグルと回りながら米を搗く・・・・。
「どうしたのだ?・・・・俺が米を搗くので、お前は供として後をついて参れ!」
草履取りもそれには困り果てて、「わ、私が米をお搗きいたしますので・・・」と以後は米搗きの仕事もするようになったという。
「中間」というのは、武家に仕える奉公人で、金銭契約で雇われている人達です。
武士ではないので刀は差せませんが、代わりに木刀を差していました。
武家の主従とは言いながら契約社員のようなものなので、あちこちの武家を渡り歩く「渡り中間」と呼ばれる人達もいたようです。
そのような渡り中間には賭場に出入りするような素性の良くない者もいたとか。
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