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第七十八話 「不義に不義の禍ある事」

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 根岸鎮衛著「耳嚢」 巻之一


 「不義に不義のわざわいある事」より


 よほど昔の事だという、谷中付近の寺に一人の住職がいたが、この住職は大変な堕落坊主で、遊郭に入り浸り女郎に馴染みを作り、その女郎を請け出したそうである。

 しかし、さすがに女を寺に置いておくわけにもいかず一計を案じた住職は、女を自分の姪である・・・という事にして、近所の豆腐屋夫婦の家に預けておくことにした。

 「これは拙僧の姪なのですが、他に世話をする者もおらず拙僧を頼って出て来た者でございます、お寺に女人を置いておくのも色々と問題となるので、とうかこちらの二階にでも預かって頂きたいのですが・・・・」

 信心深く親切な豆腐屋夫婦は、特に疑うことなく女を預かることにした。


 しばらく経ったある日の事、歳の頃三十ばかりの男が豆腐屋を尋ねて来た。

 「私は、あのお寺の住職の甥でございます、この度在所より江戸に出てきました。妹はあらかじめ住職に頼んで、ご当家に預かって頂いているとのこと・・・大変かたじけなく存じます」

 そう言って丁寧に礼をして、謝礼の金を差し出した。

 「・・・実は、妹もやっと落ち着く先が決まりまして、今日は連れて帰りたいと思い参ったのです・・・・」

 それを聞いて豆腐屋夫婦も喜ぶ。

 「それは大変良かった・・・しかし、今日はご住職もお留守ですので、今夜ご住職に断ってから連れていかれては・・・・」

 しかし、男は急いでいる様子で、

 「いえいえそれには及びません、私は兄でございますし、住職にもあらかじめ話していることでございます、住職が帰ってきたらさぞお喜びになると思います、後日またお礼に上がると申し伝えておいてください・・・」

 そう言って豆腐屋へは何度も丁寧に礼を言って、女を連れて行ってしまった。


 その日の午後、用事から帰ってきた住職に豆腐屋が今日あった事を話す。

 ・・・えっ・・・・連れて行ってしまったと・・・。

 住職は大いに驚いて、その男と請け出した女郎が最初から一味だったと気づいて、内心怒ったが、自分も女犯の罪を犯しているので表沙汰にはすることは出来ない。

 豆腐屋へは、

 「・・・・そうですか、それは喜ばしい事でした、いや、色々お世話をかけて申し訳ございませんでした」

 そう言って、作り笑いを浮かべるしかなかった・・・。


 女郎が事前に情夫と組んで、金持ちの旦那などに身請けをしてもらい、その後情夫が上手い事やって女郎を奪う、っていう話の筋はこの話以外にも色々あるようです。

 まあ、女犯の僧侶もバレたら日本橋で晒しのうえ遠島ですから・・・・これは泣き寝入りしかないですね。


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