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第三十七話 「会津須波の宮、首番と云ふばけ物の事」

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 「諸国百物語」 編集者不詳:延宝五年(1677年)開板


 「会津須波すわの宮、首番しゅのばんと云ふばけ物の事」より


 奥州は会津の須波すわという神社に首番しゅのばんという恐ろしい化け物が出るという。

 ある夕暮れに、年頃二十五、六歳の若侍が一人、須波の宮の前を通ったが、常々化け物が出るという噂を聞いていたので恐ろしく思っていたところ、彼より少し年上とみえる侍が一人来たのが見えた。

 恐ろしいと思っていたところに良い道連れが出来たと、彼はその侍に声をかけ、一緒に歩きながら話し出す。

 「この須波の宮には首番しゅのばんという有名な化け物が出るという話ですが、貴方は聞いたことがありますか?」

 聞かれた侍が突然、

 「その化け物はこういうものか?」

 というと、俄かに顔が変わって、目は皿のように大きく、額に角が一本生え、顔は朱のように赤くなり、髪は針金のように、口は耳まで裂けてガチガチと歯を鳴らす音は、雷のようだった。
 
 若侍は、それを見て気を失い、そのまま半時あまり気絶していたが、ようやく意識を取り戻し辺りを見ると、そこはまだ須波の宮の前だった。

 ようよう歩いて、ある家に入り、水を一杯貰おうとすると家の女房が出て来た。

 「・・・そんなに慌てて、どうなさいました?」

 若侍は、水を貰いながら、その女房に首番に会った話を聞かせる。

「それは恐ろしいものに会いましたね・・・・その首番という化け物は・・・・」

 ・・・・女房の顔が突然変わる。

 「こういうものだったか?」

 怖ろしい化け物の顔・・・・それは、先ほど見た首番であった。

 若侍は再び気を失い、しばらくしてようやくその場を逃げ出したが、そ三日後に死んだという。

 

 これは、日本の怪談によくある「恐怖は二度ある」パターンですね。
 例の「のっぺらぼう」の話とか、小泉八雲の「むじな」と同じ構成です。

 恐怖の「フェイント」とでも言いましょうか、恐怖が去って一息ついたと思ったら突然・・・という手法、実はこれ、今でもホラー映画でよく使われています。

 突然後ろに気配がして、主人公がビックリして後ろを振り向くと、猫だったり、ただ風でドアが軋んだだけだったり。
 主人公がホッとして胸をなで下ろした直後に、突然、本物の幽霊とかモンスター、殺人鬼が襲いかかる、というアレ(笑)

 確かに、普通に幽霊やモンスターが登場するよりも「ビックリ」します。

 なお「首番しゅのばん」は、「朱の盆しゅのぼん」「朱の盤」とも表記され、あの故・水木しげる先生の「ゲゲゲの鬼太郎」にも登場しています。


 
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