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第三十話 「やま姫の事」
しおりを挟む「宿直草」荻田安静編著:延宝五(1677)年開板
「やま姫の事」より
ある浪人の語った話である。
彼が備前岡山に住んでいる時、山で暮らしている民の家の遊びに行ったときに、そこの主人から聞いた話だという。
その主人が、猟のために深い山奥に入った時の事、年の程二十歳ばかり女性が突然彼の前に現れた。
見目麗しい容姿、珍しい色の小袖に、艶やかな黒髪は二度と見る事ができないような美しさだった・・・。
こんな生活の糧もないような山奥に場違いな美しい女性、彼はその不気味で妖しい者に鉄砲を向けて真正面に放った。
・・・が、妖しい女は、鉄砲の弾丸を右の手でつかみ取り、深見草のような真っ赤な唇でニコッと笑ったのが凄まじい恐ろしさであった。
主人は、急いで二発目の弾丸を放ったが、それも左の手で受け止め、何事もないように笑う。
もうダメだと悟った主人は、恐ろしくなって逃げだした。
その妖しい女は、特に追いかけてくる様子もなかった。
その後、村の長老に話を聞くと、
「それは山姫というものであろう、気に入った者には宝などをくれる、と言われておる」
・・・怖ろしいが、宝なら頂きたいものである。
これは第五話でご紹介した、「諸国百物語」の「奥嶋検校といふ人、山の神のかけにて官にのぼりし事」に出てきた「山の神様」ですね。
「山の神」は、女性で、好き嫌いの激しい神様とされています。
これは、「山」の持つ、遭難、毒蛇、猛獣などの「恐ろしい面」と、燃料として欠かせない薪や茸、山菜、鳥や猪などの「山の幸」をもたらしてくれる「優しい面」を擬人化したものと考えられます。
弾丸を素手でつかみ取るとか・・・・漫画のキャラみたいです。
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