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第二十三話 「たぬき薬の事」
しおりを挟む「宿直草」荻田安静編著:延宝五(1677)年開板
「たぬき薬の事」より
打ち身の薬に「狸薬」というもがある。
薬の原料として狸が使われているというものではなく、その作り方を狸が教えたのでこの名前があるという。
ある侍の奥方が夜、便所に行くと、毛のある柔らかな手が奥方の局所を触ってきた。
気丈な奥方は少しも騒がず、驚きもしなかったので、その夜から奥方が便所に行くと、必ずその怪しい手が出るようになった。
奥方が夫にそのことを話すと夫は、
「おそらく狸か狐の仕業だろう、よく用心しなさい」
・・・と言う。
奥方も心得て、化粧箱に護身用として入れてある、細身で良く切れる短刀を取り出し、着物の下に隠し持って便所へと入る。
なにも知らないその怪しい手が出たところで、奥方がその手を短刀で薙ぎ払うと翌朝、便所に狸の前足が落ちていた。
「あの怪しい手は、おそらくこの狸の前足だったのでしょう」
と夫婦で語り合い、その狸の前足を保管しておいた。
・・・と、次の夜戸を叩くものがあった、侍が「誰か?」と問うと、
「わたくしは昨日手を失った狸でございます、馬鹿な事をして大変反省しております、お怒りなのは承知しておりますが、どうかお許しくださって、その手をお返しください」
と、何度も詫びる。
「畜生の分際で女だからと侮るからそんなことになるのだ、どうして手を返すことがあろうか!また、返したとしても一度斬られたものなどなんの役にも立たないだろう、大きな罪ではないから命だけは助けてやる、早く帰れ!」
そう侍が言うと、
「幾重にもお詫び申し上げます・・・ただ、いい薬があるので、手は返して頂ければまた元のとおり体に付ける事が出来るのでございます」
「・・・なに、そんな薬があるのか?ならばその薬の製法を教えるならこれを返してやる」
「・・・あ、ありがとうございます、もちろんでございます」
そうして狸から原材料の草木から調合方法まで細かに教わり、その前足を返してやった。
その薬が現在まで伝わって「たぬき薬」と呼ばれているのである。
スケベ狸が侍の奥方に痴漢行為に及んで(笑)その償いに薬の方法を伝授したという面白いお話。
昔の薬って、なにかこう「謂われ」のあるネーミングが多くていかにも「効く」感じがします。
あの誰でも知っている「正露丸」も、元は「征露丸」で・・・ロシアを征する、の意。
某最大手メーカーの製品の意匠ともなっている「ラッパのマーク」も、軍で使う信号ラッパなのです。
もともと大日本帝国陸軍が開発したこの薬、あの日露戦争の際に、現地の悪い水で赤痢や下痢に苦しむ兵士たちの命を救ったとか。
なお、これも有名な話ですが、正露丸といえばあの独特のニオイ・・・私はあのニオイが大好きなのですが、やはりダメな人はダメなのでしょう、また当時の正露丸は今のと違ってアメ玉ほどもあったと言います、これは飲みづらかったでしょう。
当時、軍で赤痢予防の為に兵士達に支給しても、飲まずにこっそり捨てる兵隊さんが多かったとか!
そこで軍は一計を案じて、正露丸の缶に「陛下のご希望により一日〇〇錠」と印刷をしたところ、兵隊さんはきちんと服用するようになったといいます・・・。
現代にもつづく天皇陛下への敬愛の念が伺える逸話ですね。
応援ありがとうございます!
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