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第二十一話 「賤夫狂歌の事」
しおりを挟む根岸鎮衛著「耳嚢」 巻之九
「賤夫狂歌の事」より
文化九年の夏の事とか、江戸の愛好者達が、浅草柳橋の近くの料理茶屋で「狂歌の会」を開催していた時のこと。
いかにも野暮ったい田舎者が、宿泊先の者と一緒に料理茶屋に居て、この会と鉢合わせになったのだが、
「これは何の会でございますか?」
と尋ねてきたので、会の出席者が答える。
「狂歌の会ですよ、おまえさんも一首詠んでみてください」
「・・・狂歌はどうやって詠むものなのでしょうな」
「なあに、深く考えずに、心のままに詠めばいいのですよ」
田舎者らしいその男を少し馬鹿にするように会の出席者たちが笑う。
その田舎者、少し考えて、
「五右衛門の公家のかたちをするときは・・・」
と、前の句を詠んで、
「・・・・どうか書き留めて置いてください」
と言うので集まった会の者達がいよいよ馬鹿にして口々に、
「下の句はなんと読みます?」
と催促するとその田舎者、
「・・・雲井にまがうおきつしらなみ」
・・・と詠んだので、馬鹿にしていた会の者達も自分たちの高慢を恥じて、その田舎者を大いに尊敬したという。
・・・・相当難しい話で、岩波文庫の注釈がないと私も当然ワカリマセンでした(笑)
「五右衛門の公家のかたちをするときは 雲井にまがうおきつしらなみ」
(五右衛門の公家の形をするときは、雲井に紛う沖津白波)
この「五右衛門」というのは、当然あの大盗賊の石川五右衛門のこと。
この句の意味は、
石川五右衛門が公家の恰好をすると、沖の白波を雲と見間違えるように、盗賊を高貴な人と見間違う。
・・・だいたいこんな意味でしょうか。
「白波」は「白波五人男」「白波もの」というように盗賊のこと、また「雲」は「雲上人」というように、貴人・公家とかけています。
要はこの教養ある田舎者は、
・・・・・おまえら、人を見かけで判断するなよ・・・・。
と言うのを、即興で狂歌にして伝えたのですね、なんというセンス!
こういうのを注釈なしで理解できると本当に古典は面白いのですが、学生時代にもっと勉強しておけば自分の知識が広がったのに・・・とつくづく思います。
後悔先に立たず・・・ですが(笑)
なお、岩波文庫の注釈を参考にしましたが、私はその筋の専門家でも何でもないので、テキトーな部分、誤っている部分があれば申し訳ございません。
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