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第五十四話 暗闇の惨劇!地下に響く乾いた銃声 ~村の掟と女王蜂の謀略~

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 志津は自分の実の娘・・・凛子に、この村で一番最初に幸介の子を産ませ、自分の血筋でこの蜂ヶ谷家を支配してゆくつもりなのだ。
 その為には、凛子を差し置いて最初に妊娠してしまった菊の存在が邪魔になったのである。

 彼女はこの暗い地下室に菊を監禁し、強制的に堕胎させる計画だったのであろう。
 屋敷の女中を一人、麓の町に使いにやったというのは事実であったが、石垣の修理のためなどではない・・・実は菊の堕胎をするために、ある医師に内密に相談に行かせたのであった。


 「・・・菊さんのお腹の子は僕の子だ、勝手な真似はさせないぞ!」

 「幸介さん、利口な貴方ならわかるでしょう?郷に入っては郷に従え・・・ですわよ!何も菊を殺そうなんていうんじゃないの!ただ最初に子を産むのはこの凛子でなければならないだけなのよ・・・その為にはまだ幸介さんには頑張って欲しいの!この呪われた女泣村を救うためにね」

 志津は今度は懐柔策に出る・・・艶めかしい目で幸介を見つめ、甘ったるい声で続ける。

 「ねえっ・・・幸介さんだって、このまま女に不自由しない夢のような暮らしを続けたいでしょう?村の女は抱き放題!大勢の女達にかしずかれて王侯貴族のような生活を満喫できるのよ、なんならこれからは「交尾」のお相手は順番なんかじゃなくて、幸介さんの御指名でも構わないわ!この凛子が毎晩夜伽をして差し上げますわ・・・若くて美しい女の柔肉を存分に愉しんでちょうだい」

 「・・・幸介さん、私をたくさん抱いて!私・・・幸介さんの為なら何でもしますわ」

 凛子もコケティッシュな媚態を見せ、幸介を誘惑する。

 「ハハハッ!・・・そうしてオス蜂は使い捨て・・・ですか?僕が死んだら、また次の男に同じことを言うのですか貴女達は!オス蜂はこの村の呪いでみんな死んでいるんでしょう?」

 幸介は三人の女達を前に大きな声で叫ぶと身構える。

 「・・・い、いえっ、そんなことは、あ、ありませんわ!菊が何を吹き込んだか分かりませんが、オス蜂の殿方は一人も死んでは・・・みな喜んで故郷に帰って・・・幸介さん、菊の奸計にハマっちゃダメよっ・・・」

 「フフッ、志津さん・・・貴女と菊さんならば、僕は言う間でもなく菊さんの言葉を信じますね!さあ、菊さんを解放してください!僕は菊さんを連れてこの村を去る!貴女達はまた新しいオス蜂をみつけて凛子さんに女の子を産ませればいい・・・それでいいでしょう?」


 幸介と三人の女達の間に緊張が走る・・・一瞬の静寂。

 「本当に馬鹿な男ねぇ・・・そんな取引には応じられないわ、掟は掟・・・菊の腹の子が生まれてしまったら、凛子の次の当主は菊の子供・・・蜂ヶ谷の当主の座は奪われるのよ」

 「ま、まだ女の子が生まれると決まったわけじゃないでしょう?」

 「・・・貴方はまたこの村の事をよく知らないようね・・・きっと女の子よ・・・そんな危険な芽は最初から摘み取っておくのが当然でしょう?今までのようにね・・・フフッ、幸介さん「死人に口なし」って言葉、ご存じかしら?」

 志津は帯の隙間から黒光りする物体を掴み出す!

 「・・・こんな真似はしたくなかったのよ」

 ・・・ランプの光に照らされたそれは、舶来物のブローニング自動拳銃であった!
 昭和初期に軍の将校はもちろん、裕福な民間人の護身用に好まれたスマートな小型拳銃である。

 「・・・フフッ、菊と幸介さんは情を通じ合って、村から駆け落ちしてしまった・・・その行方は誰も知らない、そうしましょうか?」

 志津が幸介に拳銃を向け鬼女のように唇を歪ませ、引鉄に指をかけた瞬間、幸介が姿勢を低くして脱兎のごとく志津に組み付く!

 「ふざけるなっ!悪党めっ!」

 「キャアアア~ッ!」


 ・・・・パアアアアア~ンッ!

 洞窟内に鼓膜が破れそうなほど大きな、乾いた銃声が響き渡り、幸介の左耳から鮮血が溢れる。
 弾丸は彼の耳をかすめ、後ろの洞窟の硬い岩壁に当たったのだ!

 「ウオオオオ~ッ!」

 幸介は志津の右腕を押さえ、その手から拳銃をもぎ取ろうと格闘を始める。

 「はっ、離しなさいいいっ!このっ・・・」

 ・・・・パアアアア~ンッ!

 二人がもみ合っている最中、拳銃の引き金にかかった志津の指に力が入り、二発目の弾丸が発射される!

 「ギャアアアアア~ッ!」

 絹を裂くような悲鳴!・・・前のめりになって冷たい床に倒れ込む女の姿が、幸介の目にスローモーションのように飛び込んでくる。

 志津の放った弾丸が不幸にも、悲鳴を上げてこの場から逃げようとしていたセツの背中に命中したのである!

 もんどり打って洞窟の冷たい床に倒れ込むセツ。




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