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第五十ニ話 村の呪いの真実とオス蜂の運命 ~菊の語る女泣村の闇~

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 「ああっ!菊さんっ!・・・菊さんっ!」

 その鉄格子の中でわら布団に包まって震えていたのは夢にまで見た菊の姿だった!

 彼女がいつも着ている小菊模様の銘仙の着物や、艶やかな髪もうっすらと汚れ、やややつれた菊の表情は不憫であったが意外と元気そうだった。
 牢の奥には、用を足すための蓋付きの木桶と、飲み水の入った桶、そして粗末な膳の上に食器や箸が置かれている。

 ・・・彼女は数日間、ここに監禁されていたのである。

 「幸介さん!来てくれたのですね・・・菊、嬉しいっ・・・」

 二人が冷たい牢の鉄格子越しにしっかりと抱き合うと、菊はシクシクと泣き出す。
 真っ暗な地下の洞窟のなかでただ一人、どんなに怖い思いをしてきただろう・・・。

 「菊さん、こんな所に・・・辛かったろう?今助けてあげるからね!」


 幸介が牢の扉を調べるとここにも南京錠がかかっていた。
 炊事場の扉の南京錠は、木製の扉の方がやや朽ちていたために何とか壊すことが出来たが、菊が閉じ込められている牢の南京錠はそういう訳にはいかなかった。

 牢としての役割を果たすため堅牢に造られているそれは、幸介が手にしている火箸などではこじ開けることは不可能であった。

 「・・・な、なにかこれを壊せるようなものは・・・」

 幸介は手にしたランプの光で洞窟の中を見回し、この牢の錠を破壊するために何か使えそうなものを物色するが、目ぼしいものは見つからなかった。

 「幸介さん・・・菊の事はいいですから、早く!早くこの村から逃げてください!」

 菊は涙で頬を濡らしながらも必死に叫ぶ。

 「そんなことが出来るはずがないよ、菊さん・・・僕と一緒にここを出よう!一緒に逃げよう!」

 「・・・菊は・・・菊の事はどうでもいいのです・・・それより幸介さ!幸介さんがこのまま村にいると命が危ないのです、だから幸介さんだけでも早くこの村から逃げて!」

 「・・・僕の命が?・・・それは・・・」

 「・・・それがこの村の「呪い」・・・なのです」

 「呪い?・・・この村の?あの男に災いするという呪いのことだね?・・・それなら僕はよそ者だから・・・」

 この女泣村の「男」だけに降りかかる「呪い」・・・この村は、そもそも男の子が生まれる率も低く、たとえ男の子が生まれても虚弱で、成人するまでに亡くなってしまうことが多いという。
 そして、なんとか成人したとしても男性は病弱で覇気を失い、子供も作れなくなるという・・・あの伝説である。

 事実、幸介が務める先輩の役場の男達も子供も作れず、肺を患っていたり、体のどこかに病を抱えて苦しんでいるのだ。

 「・・・ええ、この女泣村の呪いはよそ者の男性には災いしません・・・しかし、幸介さん?幸介さんがこの村で過ごす時間が長ければ長くなるほど、幸介さんの身体は呪いに蝕まれてゆくのです・・・だから・・・」

 「・・・そ、そんな・・・・」

 「ええ、幸介さん・・・実際「オス蜂」としてこの村にやってきた男性は数年で・・・亡くなってしまっているのです、幸介さんの前に来た男の方も、その前も方も・・・」

 「・・・僕の前のオス蜂は・・・死んだ・・・僕は彼らが無事に故郷に帰ったと聞かされていたが」

 「本当です、幸介さんの前にこの村に来た若い男の方も・・・1年も経たずに病死してしまったのです!病死では事件性もないですから、町の方でも特に疑問視はしませんでしたが、昔からこの村の秘密を知っている周囲の村人達は「呪い」のせいだと恐れて・・・」


 ・・・「よそ者は呪いの影響を受けない」それは確かにある一面では正しい。

 しかし、どんな男もこの地で生活をし、村の女と交わってゆくうちに「村の男」と同じく次第に呪いに侵食されてゆくのである。

 そして、そんなよそ者は男性としての精力が旺盛な分、その反動で「呪い」の効果を強烈に被り、今までこの村に「オス蜂」として招かれた男は全員病死したり、不慮の事故で亡くなったりしてしているのだという!

 ・・・自然界の蜂の社会と同じく「オス蜂」は短命なのだ。

 女泣村では、その事を知りつつ、他郷から若い男性を募っていたのである。

 「・・・だから幸介さん・・・菊のことはいいですから、一人だけで今すぐにこの村から逃げて!今すぐにっ!・・・お願いです」

 しかし幸介は大きく首を横に振って力強く言った。




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