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第十話 幸介の小さな発見、村の旧名「女泣村」 ~男達に災いが降りかかる村~
しおりを挟む・・・にわかには信じられないことに、この目名来村は生まれてくる赤ん坊からして女の子が多いという!
「そうなんだ・・・それで女が多くなり、自然に相続も女系になっていったという事なんだろうなぁ・・・ハハッ、この目名来村は男にとっては鬼門というか、昔からあまり良くない土地らしいねぇ・・・そう、「呪い」のようなものかなぁ・・・」
西村が意味ありげな言葉を漏らす・・・「呪い」とはどいいうことだろう。
「・・・・男にとっては良くない土地・・・そりゃあ一体、どういうことです?」
幸介は驚き、目を丸くして西村に聞き返す。
「うん、昔からこの目名来村ではね、男の子が生まれても病弱でなかなか大人になるまで育たない・・・無事成人しても、どういうわけか体が衰えて早死にすることが多い、さらには子供も作れないというのだよ・・・」
「でも・・・西村さんも村長さんも、他の先輩方も・・・皆、ここの生まれでしょう?あなたたちは大丈夫なんでしょう?」
幸介の無邪気な問いに西村は力なく笑うと、こう続ける。
「もちろんそうだがね・・・やはり村の言い伝え通り、私も含めてみな体がどこか良くなくてね、私も長年肺を患っているんだよ・・・それにやはりこの役場の全員が、子供には恵まれなくてねぇ・・・」
「・・・そ、それは・・・知らずに言った事とはいえ申し訳ございません・・・それにしても、それは・・・いったいどういう理屈なんですかね?」
人口の八割が女性で、日本では珍しい女系社会のこの目名来村は、赤ん坊からして男性が少なく、さらに男性は無事に成人しても病弱で子孫を残せないという・・・科学がこれほど発達しているこの昭和の時代、にわかには信じがたい話である。
「うん、明治の終り頃らしいが、町から偉い大学の教授が調査に来たこともあるらしいね、どうやらこの土地の水が悪いのだろうというのだよ・・・井戸の水になにか男性の健康に害を及ぼすようなものがあって、それで病弱になったり子供を作れなかったりするのだ・・・そういう仮説を立てらたしいね」
「・・・・井戸の水に大量の鉛の成分が溶け込んでいて・・・それで村人の健康に害が出た、という例があるのは僕も聞いたことがありますが・・・それにしても男性だけに作用する成分など・・・それで、その調査の結果はどうだったんですか?」
・・・幸介はこの村の不思議に激しく興味をそそられる。
彼がこの村に初めて足を踏み入れた時に感じた「女性の多さ」ともう一つのことを今、思い出したのだ。
数少ない男性の「覇気のなさ」である。
確かに、今こうして話をしている目の前の先輩、西村をはじめ、村長の朽木から他の官員まで、みな一様に痩せており、年齢よりもずっと老けて見える。
事実、西村は長年肺病を患っているほか、他の役場の男達のどこかしら持病を持っているというのだ。
しかも皆、子供には恵まれなかったという・・・。
「・・・・その調査では特に水にはなにも悪いところはないという結論で、大学の教授達もむなしく引き上げていったらしいね・・・・ほら、役場の奥の書架の中に村の資料が編纂されているから、君も暇な時にでも読んでみたまえ」
「・・・はい、あの書架は機会を見て整理しようと思っていたところですから・・・それにしても、男性には受難の地とは・・・・う~ん、それはどういう訳なんだろう?僕もこの村にいると病気になったり子供が出来なくなったりするんでしょうかね・・・それはなんかイヤだなぁ」
幸介はその場の空気を変えるために冗談めかして言ったが、西村は意外と真面目な顔で応える。
「それがね、君・・・他所から村に入った男はなんともないというのだよ・・・昔からの言い伝えで」
「よそ者は大丈夫・・・それもまた、どういう理由なんですかね、不思議だなぁ・・・」
「ああ・・・もうこうなると「呪い」といか考えようがないね・・・・実際、この村の人々は・・・私も含めてだが・・・これを「呪い」のせいだと考えてるんだ」
「・・・・呪い・・・ハハッ、まさか昭和の時代に呪いなんてっ・・・・」
「まあ、都会から来た君はそう思うだろうが、実際にこの土地では女の子の方が多く生まれるし、男は病弱で子供も作れなくなる・・・科学的にその原因が分からなければ、やっぱり昔ながらの「呪い」のせいになるのは仕方ないことかもしれないね・・・」
「・・・その呪いというのは・・・西村さん、いったいどういうモノなんですか?なにか曰く因縁のある話が伝わっているのですか?」
「・・・まあ、そうだね・・・そのあたりに興味があるのなら、暇な時間に村の地誌や古文書を調べてみるといいよ・・・・まあ、村では皆が知っている話だが・・・・」
西村はふと立ち上がると、役場の裏の畑に出て行った。
どこか村の「呪い」については触れたくない・・・そんな素振りが見て取れたので、幸介もこの話題はそれで打ち止めにした。
そんなことがあった数日後のある日のこと・・・。
仕事もすっかり覚え、時間にも余裕が出てきた幸介は、空き時間を利用して村の奥の書庫に積んである、村の古い文書を読むのが楽しくなっていた。
元々文学青年で、読書好きの彼には書物を読める時間があるのは大変に有難かった。
彼は役場の奥の乱雑に物が積み上げられた倉庫の中にある書架の奥から発見した、虫食いが酷く埃だらけの巻物に興味を惹かれたのである。
それは寛政期に書かれたものらしかったが、その巻物を彼が詳しく解読してゆくと、この村の名前は「女泣村」 ・・・そう記されてあった。
・・・女が泣く村・・・「女泣村」!
現在この村は「目名来村」と記されているが、地誌を紐解くと、それは明治の初期にそう漢字が変更されたらしい・・・それまでこの村は「女泣村」と言われてれていたのである。
そのひどく不思議な村名に幸介は改めて興味をそそられた。
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