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第六話 女系村を治める名家の女主人と美しい娘 ~幸介の世話係の可憐な少女~
しおりを挟む目名来村役場に勤務することになった幸介は二年間の契約の間、代々庄屋を務めていた村の名家、蜂ヶ谷家に寄宿することになるという。
蜂ヶ谷家の女当の志津と美しい一人娘・凛子に挨拶をする幸介。
・・・東京から来たという垢抜けした幸介に志津の娘・凛子が興味津々で質問する。
「小田切さんは東京に住んでいらっしゃったんですよね!・・・東京ではどんなものが流行りですの?」
母の隣で、都会から来た垢ぬけた好青年の幸介をウットリとした目で眺めていた、東京でもちょっとお目にかかれないような素晴らしい美少女だ。
「ええ・・・「アッパッパ」なんていう変な名前の服が女性には流行りでしてね、なに、筒服のような洋服で、どうも軽薄な気がして僕はあまり好きではないのですが・・・・東京も今は不況で、失業者が溢れて大変ですよ・・・むしろ、こういう地方の方が物価も安くて住み良いんじゃないでしょうかねぇ」
「・・・そうですの・・・パーマネントっていう髪型が流行りって本当ですの?」
「ウフフッ、凛子、今日は小田切さんもお疲れだから、東京のお話は今度ゆっくりお聞きしましょう?」
「・・・はあい、お母様ぁ・・・」
やや不満げな様子で口を閉じる凛子、その表情もドキリとするほどコケティッシュだ。
「・・・それでは菊、小田切さんをお部屋にご案内して差し上げて・・・小田切さんはお夕食もまだと聞いております、田舎の料理ですので都会の方のお口に合うか判りませんが、御膳を用意しておきましたから、一休みされてからダイニングにおいてください」
「本当に何から何までご面倒をおかけしまして恐縮です・・・」
幸介はこれから自分が下宿させてもらうことになった蜂ヶ谷家の第二十六代・・・女当主の志津と娘の凛子に向い、丁寧に礼を述べて退出し「菊」と呼ばれた若い女中に、自分がこれから住まうことになる部屋へと案内される。
迷路のような長い廊下を何度も折れ曲がる間、幸介は女中の菊に話しかける。
「ここのお家は、女性戸主なのですね!東京でもないことはないとは思いますが、あまり聞かないので少々驚きましたよ・・・それもとても美しいご婦人で!」
「はい、この蜂ヶ谷のお屋敷では、代々当主は女性なのです・・・いえ、このお家だけではなく、村の家も、ほとんど戸主は女性なのですよ」
「ほう!するとこの目名来村は女系の村なんですね?・・・それは珍しいなぁ!・・・いや、非常に珍しい!」
外国の例は分からないが、この日本では代々女性が家督を相続してゆく「女系」は極めて稀である。
期せずしてその珍しい女系社会に自分が飛び込んだことを幸介はちょっと嬉しく思った。
・・・高等学校時代に神田の古本屋で漁っていた歴史の本の内容が次々と思い出される。
その中には、日本のムラ社会の構造ついて説いた本もあった。
戸主制度の存在している昭和四年の現在、家督を相続するのはほとんどが男性である。
法律上は女性の家督相続も認められてはいるが、彼の知る限りそういうケースは珍しいのが現状だ。
「この村に入ったとき、どうも女性が目立つな・・・と思ったんですが、さっき役場の西村さんに聞いたら、この村は女性が八割だそうですね?それも何か、この村が女系であることと関係あるのでしょうかね?」
「・・・さあ、どうでしょう、この村は確かに女ばかりですが、それについては随分昔に町の偉い学者の先生が調査に来たという話は聞いておりますけど・・・私も詳しいことは存じ上げません」
この、入った瞬間から不思議な違和感を覚えた目名来村について、幸介は矢継ぎ早に質問を繰り出すが、年若い菊は緊張しているのか言葉少なだった。
もしかしたら、村には若い男が少ないので自分の事が珍しいのかもしれない・・・そんな己惚れに似た想像をしながら菊の後ろについて廊下を歩いていると、大きな和室の前にたどり着いた。
「・・・ここが小田切さんのお部屋になります・・・どうぞお入りください・・・」
菊がサラリと障子を開けると、そこは十畳ほどもある広い部屋だった。
奥の障子を開けると大きな窓が広がり、そこからはこの目名来村が一望できる絶景の場所である。
すでに日が暮れて暗くなった村に点在している家々から小さく明かりが漏れている光景は、一幅の絵画のように幻想的だった。
「・・・ほう、これは!・・・いい眺めですねぇ、素晴らしい・・・」
幸介が着替えなど身の回りの品を押し込んできたボストンバッグを畳の上に置き、外の景色を眺めていると、菊は畳に手をついて丁寧に挨拶をする。
「改めまして・・・小田切さんの身の回りのお世話をさせて頂くことになりました菊と申します・・・どうぞよろしくお願いいたします」
聞けば菊は十八で、幼いころに両親に死に別れこの蜂ヶ谷家で女中として働いているという。
細面の目のパッチリとした、控えめであるが可愛らしい少女だった。
丸髷の髪、菊という名にちなんだのだろう小菊の模様をあしらった銘仙の着物がよく似あっていた。
・・・彼女もこの村で見た他の女性同様、雪のように白く美しい肌をしていた。
「・・・菊さんが僕の世話を!・・・いや、こちらこそよろしくお願いします!菊さんみたいな綺麗な方にお世話をしてもらえるなんて・・・この村は僕にとっては天国ですねぇ、ハハハハッ!」
・・・女ばかりの村、女系社会、豪壮な村の元庄屋の家での下にも置かないもてなしと、世話係の美しい少女。
独身で東京では恋人もいなかった幸介は突然降って湧いたような僥倖にウキウキとした気分になる。
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