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【ニ】
しおりを挟む・・・・な、納得いかねぇ!宇宙一の大富豪の俺より、この三人の方が幸せとか・・・絶対納得いかねぇ!
クロイソス「そ、それじゃ、賢者ソロンよ、そなたは朕のこの莫大な富と権力・・・それには何の価値もないというのか?」
ソロン「・・・王様、あなた様は私に「人間の運命」という事をお聞きでございますか?神というものは気まぐれで、人を困らすことがお好きなのはあなた様もよくご存知でございましょう、人間、長い生涯の中では、失意や不幸にも遭遇しなくてはなりません・・・人間の一日一日の積み重ねはこれ全て偶然の産物なのでございますぞ、今日幸運な者でも明日のことは分からない、それが人生なのでございます・・・・」
クロイソス「・・・う、う~ん・・・で、でもさぁ、朕みたいに金いっぱい持っているヤツってやっぱり幸せじゃん?なんでも出来るし何でも手に入るし、楽しい人生歩めるじゃん!」
ソロン「クロイソス王よ、私はあなた様が莫大な富を持ち、多数の民の頂点に立つ偉大な王であることはよく存じております、しかしながら、あなた様がその生涯を終えるのを見届けるまでは、わたくしはあなた様のことを「幸せな人間」とは申し上げられません・・・・」
クロイソス「・・・でも金持ちは・・・」
ソロン「王様、どんなに裕福であっても、その生涯を終えるまでは、貧乏な者よりも「幸せ」であるとは申せません・・・・腐るほど金を持っていても不幸な者もおれば、貧乏でも運に恵まれ幸せな人生を送り良い最期を遂げるものも大勢いるのです」
クロイソス「そ、それでも金はある方が無いより色々と都合がいいではないか?」
ソロン「裕福な人間は、幸運な人間に比べ、欲望を満たしたり、降り掛かった災いに耐えるという点では利点がございますが、ただそれだけの事でございます、そもそも「幸運」な人間はそういった災いを避けることができるのですからね・・・健康で病気をせず、不幸な目にも会わず、良い子に恵まれ、そのうえで幸運のうちに人生を終えられる者・・・それがあなた様が求めておいでになる「幸せな人間」なのでございます」
クロイソス「・・・・そ、そうかなぁ・・・」
ソロン「クロイソス王よ、人間、人生の最期の時を迎えるまでは「幸運な人」とは呼べても、「幸せな人」とは呼べないのでござますよ・・・明日のことは誰にもわからないのでございます」
・・・な、なんだかよくワカラネェ・・・第一、この世界一金持ちの俺が「幸せな人間」とは呼べないって、一体どういうこっちゃ!金持ちは幸せに決まってるじゃん!・・・・ギリシア中に名の知れた賢者っていうけど、こんなこともワカランとは・・・ソロンって意外とアホなのかもねぇ、まあいいや!
クロイソス「・・・そうか、分かった、賢者ソロン、そなたと話が出来て楽しかったぞ」
ソロン「・・・クロイソス王よ、どうか私の申したことをお忘れのないように・・・・」
その後、リュディアの王クロイソスは、当時のもう一つの大帝国・・・ペルシア帝国への侵攻を計画した。
王は、デルポイの神殿に使者を遣わしペルシア帝国との戦いの成否について神託を仰いだが、その神託の答えは以下のようなものであった。
・・・・クロイソス王がペルシアに出兵すれば「大帝国」を滅ぼすことになろう!
それを聞いたクロイソス王は喜んだ。
クロイソス「えっ?マジっ?ペルシアと戦争したら大帝国を滅ぼせる?・・・やったじゃん!それじゃ早速ペルシアとの戦争の準備だ!あと、こんな嬉しい神託を出してくれたデルポイの国民全員に黄金2スタテルあげちゃうよっ!」
クロイソス王は喜びのあまり、お金配りおじさんとなって大盤振る舞いをしたのだった。
・・・・しかし戦争が始まると、クロイソス王率いるリュディア軍はペルシア軍のもとに大敗北を喫し、クロイソス王はペルシア軍の捕虜となってしまったのだった。
ペルシア帝国の大王、キュロスは自国に攻め込んできたリュディアの王、クロイソスを火炙りの刑とすることを命じた。
大きく薪が積まれ、その上に乗せられ火炙りの刑に処せられる直前、クロイソスはある男の言葉を思い出していた。
・・・・人間、人生の最期の時を迎えるまでは「幸運な人」とは呼べても、「幸せな人」とは呼べないのでござますよ・・・明日のことは誰にもわからないのでございます!
クロイソス「ああ、やっとあの時のソロンの言葉の意味が分かった!・・・ううっ、俺が馬鹿だった、ソロンはやっぱり賢者だったんだなぁ・・・ああ、もう一度ソロンに会ってあの時の自分の言動を謝りたい!」
クロイソスは、足元の薪に火が点けられ炎が上がってくる中で叫び続けた。
クロイソス「ソロン~、ゴメンよぉ~、俺が悪かった!やっと分かったよぉ~、ソロン~!もう一度会いたいよぉ~!・・・・あと神様、俺が思い上がっていました、許してください~っ!」
敵国の王の処刑を見ていたペルシア帝国の王・キュロスはクロイソスが火炙りになりながら、なにやら叫んでいることを不審に思った。
キュロス「・・・・おい、アイツは一体何を叫んでいるのじゃ?・・・・なんかスッゴい気になる・・・ちょと聞いてこいっ!」
大王キュロスは家来に命じて、火炙りにされているクロイソスに一体何を・・・誰の名を叫んでいるのか詰問した。
家来「おい、クロイソス王、おまえはさっきから何を叫んでいるのだ?人の名前のようだが・・・」
クロイソス「ソロンというアテナイの素晴らしい賢者だ・・・あのお方がこの世の全ての王と会って話をしてくれたなら、どんな金銀財宝も惜しくないと思っているお方なのだ・・・・」
家来からクロイソスの言葉聞いたキュロスは、彼の言ったソロンというギリシア人の事をもっと知りたくなり、クロイソスの処刑を中止するよう命じた。
しかし、既に火を点けられた薪は容易には消せず、火の手がクロイソスの足元まで昇ってきた。
「・・・・ソロン~っ!俺が悪かったよ~、ああ、神様、私の罪をお許しください~」
・・・・その時、一点にわかにかき曇り、夕立が降り始めクロイソスの足元の火を消してくれた。
アポロン神が、彼の願いを聞き入れてくれたのである!
命が助かったクロイソスはキュロスに会い、賢者ソロンの言ったことを全て伝えた。
キュロスもソロンの言葉に深く感心し、たまたま今回の戦争で敗者となったリュディア王国のクロイソスも、現在、隆盛を極めペルシア帝国の大王となっている自分も、実は同じ立場だと悟り、彼を赦し「客人」として丁重に扱うこととした。
クロイソスは、ペルシア帝国の大王・キュロスの側に居て、王の求めに応じ外交や内政のことなどに様々な有益な助言をし信頼を得ていった。
平穏な暮らしを送るようになったクロイソスには一つだけはっきりさせておきたいことがあった。
クロイソス「デルポイで神託をうかがったとき、神様は・・・・クロイソス王がペルシアに出兵すれば「大帝国」を滅ぼすことになろう・・・・って言ったよなぁ!アレ、結果的に嘘だったじゃん!俺、負けちゃったじゃん!ちょとデルポイの神様に文句言ってきて!」
クロイソスはデルポイに使者を送り、再び神託を問うた。
使者「・・・クロイソス様、デルポイに行って神託を伺ってきました!」
クロイソス「おお、行ってきたか・・・で、神様はなんて言ってた?」
「はい、ご神託は以下のように申しておりました」
・・・・「大帝国」を滅ぼす、の「帝国」とはペルシアのことではなくて、リュディアのことだったんだよ~ん、バ~カ!バ~カ!
クロイソス「・・・・う~ん、確かに!あの時、神様に「大帝国とはペルシアのことでございますか?それともリュディアの事でございますか」・・・と確認しておけばよかったなぁ、いや、これは俺が悪かった・・・・神様は嘘はつかなかった(納得)」
~~おしまい~~
応援ありがとうございます!
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