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第五十一話 「インキュバスの妖術」~双子の大殊勲~
しおりを挟む満月の月の光を反射して妖しく光る双子淫魔の眼。
二人の蒼い眼光は冷たい矢となって、正面のボルドゥール三世陛下の目を射る。
4つの蒼い光を帯びた眼球が瞬きもせずに、正面の暴君を見つめ続ける・・・・。
「・・・・・この度の帰国の軍事行動は、ゴート大陸の平和を脅かす言語道断な侵略行為だと申しあげます・・・・」
「・・・これは、侵略行為などではないぞ・・・・「秩序の再構築」であるのだ・・・万物は流転するのだ・・・北のイスリア帝国を見よ、偉大なエフケーリャ大王の元に各国が統合され、今や大帝国となっておる・・・・ゴート大陸もそのような偉大な王による統一が必要な時であるのだぞ」
「・・・・それを実現するのが、ボルドゥール三世陛下であると?」
双子の蒼い眼光がボルドゥール三世に注がれる・・・まるで彼の両眼に突き刺さるように。
「・・・・そ、そのとおりりゃ・・・われこひょがっ・・ちっ、ちつりょの・・・・」
・・・・突然、ボルドゥール三世陛下の視線が宙を泳ぎ、その言葉は呂律が回らなくなる。
王の前でひれ伏していた重臣たちが、異変に気づき一斉に顔を上げる。
「・・・・陛下、残念ながら陛下の言う「秩序の再構築」とは武力で行うものではございません、それは神の前で誓い正義に則って行われるべきものです」
直立不動で蒼い眼光を放ちながら、双子の兄弟は暴君の前でキッパリと言い切る・・・・。
「・・・・んらぁ?・・・そ、そうかもしりぇないが・・・ろれ・・・られっ・・・・」
アングリと口を開けて、焦点の定まらない目で虚空を見つめているボルドゥール三世陛下は、とうとう酔ったようにフラフラとし始めた。
「・・・へ、陛下っ・・・大丈夫でございますかっ?」
タップリと脂肪のついた醜い裸を踊らせて、重臣達がボルドゥール三世に恐る恐る近づく。
「・・・・らいりょうぶらぁ・・・朕は眠いぞ・・・・会談は中止りゃ・・・」
・・・・それだけ言うと、ボルドゥール三世陛下は酔っ払ったようにフラフラと玉座を立って、奥の間に引っ込んでしまった。
その表情は、何かに取り憑かれたように呆け、目は焦点が定まらないように虚空を見つめている。
あっけにとられる重臣達・・・・。
それを見届けて、ロルシュが苦しそうに膝をつく。
「・・・ハアッ、ハアッ、アルシュっ・・・僕、もう限界・・・・」
隣のアルシュも脂汗を流して辛そうだ。
「・・・・もうダイジョウブだロルシュ・・・上手くいったよ!間違いない!」
そう言いつつ、アルシュもフラフラと王宮の床に膝をついてしまった・・・・二人はボルドゥール三世に向かって一世一代の「魔力」を行使したのだ。
慈母女王ソフィアとの愛の行為で蓄えた精気を全て魔力として使い切ったのであろう、二人は慰労困憊してその場にうずくまってしまう。
「アルシュ殿っ、ロルシュ殿っ・・・大丈夫でございますかっ?」
全裸となって二人の後ろに控えていた、リュード・ボワジュエール大尉が駆け寄って二人を抱き抱える。
「・・・・よ、妖術じゃ・・・この双子共は陛下に向かって妖術を使ったに違いない!」
・・・・呆気に取られる重臣や愛妾達、しかし年老いたロシゴス僧の長老の一人は流石に双子が使用した「力」を看破した。
彼は、ゴート大陸には、不思議な力を持つ血族が存在することを古い文献で知っていたのだ。
「・・・・おいっそこの坊主、ランデルシアの女王ソフィア陛下の名代に向かって、無礼なことを申すなっ!お前たちの大将は、眠いと言って引っ込んでしまったぞっ!これでは今夜の会談は続けられまい、俺達は帰るとするからな!」
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