青夏(せいか)

こじゅろう

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青夏(せいか)

新学期 (二学期)

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 夏休みが終わり、楽しみだった二学期が始まった。私は一学期よりも低いテンションで授業を聞きながら窓を虚な目で見ていた。…恋ちゃん、告白OKしたのかな。まぁ、してようがしてなかろうが私には関係無いし、別に二人が付き合おうが私が悲しむだけだし。と、面倒な事を言いつつも、本当にこんなことを思っていると言っても過言では無いほど、私の心はマリアナ海溝に沈んでいるような気分だった。少女漫画みたいに、私をマリアナ海溝から救ってくれるような白馬の王子様は現れないわけだ。あれ?馬って泳げるんだっけ。でも、どうだろう。この状況は。好きな人を含む人達でお祭りに行った結果、好きな人が友達に告白していた。と言う始末なのだから。私はどうにかしてこの鬱憤を晴らしたかったが、世間がストレス発散グッズをたくさん出すのも頷けるほどに、ストレスが溜まっていくだけだった。授業が終わった中休み、男子達が消しピン?というものをやっているのを横目に見ながら、天井を眺めていた。男子達を直視できない一番の理由は、男子達の中に健太がいるからだが、やっぱりぼーっと何かを眺めているだけというのは落ち着く。健太が告白した。という噂は新学期早々に広まり、生徒どころか先生までもが知っている始末となっていた。まぁ、どうせこうなるのだから、他人の口から娯楽程度の噂で聞かされるよりは、自分の目で見たほうが何倍も気が楽だった。
 一人で天井と会話をしていると、優香が話しかけに机に来てくれた。
「ねえ、愛花。山野…告白しちゃったらしいね。しかも…恋ちゃんに、私は、もし恋ちゃんが山野の事を好きだとしても、愛花と恋ちゃん両方を応援するけど…愛花はどうしたいの?諦める?それとも…まだ、頑張れる?もちろん、あいかが頑張るなら私は応援するよ」
「…」
何も考えたくない。失恋くらいで落ち込みすぎだ。と思う人もいるかもしれないが、私にとって恋とは、命に関わるほど重要なのだ。だからと言って、何も考えたくないからと言って本当に何も考えていないと、だらだらの沼にハマって一生抜け出せなくなってしまう。
「私は…」
何がしたいんだっけ、私。でも、私は健太と恋ちゃんに付き合ってほしくない。こんなこと言ったらワガママだろうか。好きな人の恋愛邪魔しようとして。
「私は、山野と恋ちゃんに付き合ってほしくない…できるなら、私が…」
貪欲でもなんでもいい。私は健太と付き合いたかったんだ。健太に恋してほしかったんだ。私の事を四六時中考えていてほしい。どんなに貪欲と言われても健太と付き合いたいだけだった…のに。 
「愛花、もしかしたら知らないかもなんだけど、恋ちゃん。告白断ったよ」
「え、恋ちゃん断ったの?」
「らしいよ、『ごめんなさい』って」
恋ちゃん、断ったんだな。健太は苦しいだらうけど、私は、これまでにないほど安堵していた。ホッとしていると、中休みの終わりを告げるチャイムがなった。
「あっ、やば!チャイムなっちゃた、また後でね、愛花。後で恋ちゃんと話してみれば?」
そうだな、やっぱり本人と話すのが一番手っ取り早い。昼休みに恋ちゃんと話してみよう。 
 給食後の掃除をした後、私は恋ちゃんのもとへ駆け寄った。
「あのさ!恋ちゃん告白、断ったの?」
「…うん」
うんと言った恋ちゃんの表情はなんとも言えない、複雑な表情だった。そりゃ、友達の好きな人に告白されたら、気まずくもなるよな。
「…せっかく告白してもらえたのに、なんで断ったの?!折角なら、付き合っちゃえば良かったのに」
自分でも何を言っているんだと、口を疑った。本当はホッとしてるくせに、何言ってるんだろう。
「愛花、そんな事思ってたの?」
「…付き合っちゃえば良かったのに、私の事なんてほっておいて、『いいよ』って言っちゃえばよかったのに。そしたら、まだ諦めがついたのに、山野の事、諦められたのに…」 
「…愛花、私がもし山野と付き合ったら諦めちゃうんだ?…私には、愛花はもっと山野のこと好きだと思ってたのに…」
「!…いや、…ちが…」
本当に?もし、恋ちゃんと健太が付き合ったら、きっと、私は諦めていたはずだ。私は、自分が健太に好かれていないから、苦しいからって、諦める理由を無意識に探して、いざ見つかっても、自分が健太を好きじゃなくなるなんて、想像すらできないんだ。
「…違う。ごめん、恋ちゃん。私、逃げる理由を探してただけだった」
「…まあ、良いよ。それに、私が健太を振った理由は、愛花に遠慮したから。じゃ、無いからね?…私も好きな人簡単に諦められるタイプじゃ無いし」
「え?好きな人って、誰?」
「えー…内緒」
内緒と言われたら余計に気になってしまう。人間である限り、知らないことは知りたくなるのだから。
「教えて!お願い!誰にも言わないから!」
「えー、しょうがないなーまあ、愛花なら、勝手に広めたりしなさそうだし、まあ、良いか。由衣とか優香とかにも言わないでよね?」
「もちろん!約束する」
私はごくりと息を呑んだ。誰なんだろう。恋ちゃんが好きになるような人って。
「絶対だよ?…野沢」
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