青夏(せいか)

こじゅろう

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青夏(せいか)

夏祭り前半

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夏休みも後半に差し掛かる頃、由衣から陽気なメールが届いた。
『愛花~誘った人みんな暇だってー!だから、夏祭りの日の八月十九日山野の家の前に3時半集合ねー!』
相変わらず元気な字面だなあ…と、呆れながらも感心していた。こんな言い方をすると、クールな人のようだが、内心健太が来ると言う事実にどうしようもないほど心を躍らせていた。今更だけど、健太の家ってどこなんだろう。由衣に聞こうと思ったが、今聞いて、由衣が健太の家を知っていても、複雑な気持ちになってしまうので、明日自分で健太に聞こう。と、決心した。だが本当は、由衣が健太の家を知っていると言うことを知りたくないと言う嫉妬心以前に健太に話しかける口実が欲しかったという欲望の方が強かった。由衣には、「わかった」とだけ送っておこう。
 口実ができたと言うものの、どうやって健太に連絡しよう。私がいきなり、
『山野の家ってどこだっけー?』
なんて聞こうものなら、気持ち悪いと思われても、仕方がないだろう。それくらいなら、由衣に聞いた方がマシだ。一時間ほど試行錯誤した結果。
『あのさ、今度みんなで夏祭り行くでしょ。でも、私山野の家知らないんだよね。時間のある時でいいから、地図のスクショ送って欲しいな』
文に関してはまあ、悪くは無いとしよう。問題は、一時間経ったと言うのに、健太から返信が来ないのだ。考えられる理由は、返信が面倒だったか、携帯を見ていないか、の二択なのだが見ていないにしても一時間携帯を見なさすぎなのではないだろうか。私は、健太の返信が気になり過ぎて、一時間も携帯を睨んでいると言うのに。私は焦りと不安と緊張で目眩を起こしそうだ。こんなに心配してもしょうがないから、夏休みの宿題でも終わらせてしまおう。私が宿題を始めてからも何度も携帯に視線を送った。だが、その日健太から返信が来る事はなかった。朝起きると、携帯に返信が来ていた。いつもは寝起きには頑固として動かない体が、健太からの返信を感じて、高速で動いた。予想は外れる事なく健太からの返信だった。
『返信遅れちゃってごめん!バスケやってて気づかなかった。画像送っとく!』
健太はバスケが好きなのだ。土日はずっとバスケをしているから、一緒に祭りに行けるのは、本当に奇跡だと思う。健太と一緒にお祭りに行った自分を想像すると、やっぱり、頬が緩んでしまう。緩み過ぎて、溶けるのではないか、と心配してしまうほどに私は情緒不安定になっていた。そして、健太から送られてきた画像には、地図のスクショに色々書き込まれてあった。健太が私の為に書いてくれたと考えると、頬が緩んでしまう。返信が早いと、「えっ、返信はや、もしかして、ずっと見てるの?怖」なんて、きっと健太は思わないだろうけど、万が一に備えて、少し時間を置いて返事をする。
『ありがとう!しかも、こんなに書き込んでくれて、嬉しい!』
結構すぐ送ってしまったが、変じゃないよな?何度も読み直すが、特に目立ってへんなところは無いので多分大丈夫。一安心していると、すぐに健太から返事が来た。
『全然大丈夫!もし、それでもわかんなかったら、みんなで迎えに行くから、連絡してね!』
相変わらずやさしいな。やっぱり私は健太のこう言う所が好きだ。やっぱり、頬が緩んでしまう。ゲームをしにリビングに行こうと思ったが、この顔でリビングに行ったら、兄に
「顔きもっ」
と、言われてしまいそうなので、二度寝して落ち着いてからリビングに行こう。
 朝ご飯を食べた後、由衣からも連絡が来た。
『で、山野に家聞けたー?』
私が山野の家を知らないことをわかってて、わざと集合場所を健太の家の前にしたのか。それに、私が由衣に聞かずに健太の所に聞きに行くとわかっていたのか。なんだか、名探偵にすぐバレた犯人のような気持ちのようになってしまった。
『由衣って変なところで頭いいよね』
『いや?この前のメッセージ送った後に恋ちゃんが「愛花は、きっと山野に家を聞く勇気なんてないはず!で、由衣に山野の家聞いて来ないってことは、やむを得ず、山野に聞きに行ってるはず!」っていってたから、聞いたかなーって思っただけ!』
恋ちゃんか、鋭いな。そういえば、恋ちゃんと優香にも健太が好きという事を話したんだよな。あの時は私の口から言うのがなんだか恥ずかしくて、由衣に言ってもらったんだっけ。あの日も楽しかったな。二人が
「山野かー!ちょっと意外!でも、応援してる!」
って言ってくれたんだよな。自分のことを応援してもらえるってこんな嬉しいことなのか、って感動して、あの時は、涙腺が緩んじゃって、みんなにめっちゃ心配されたな。まあ、何はともかく、お祭りが楽しみすぎる。
 時が経つのは早いもので、瞬く間にお祭りの日がやってきた。用意するだけでもう楽しい。どうしよう。まだ三時だけど、もう家を出てしまおうかな、いや、でもまだ流石に早すぎるな。持ち物少し調べようかな、えっと
『お祭り 持ち物
お祭り 持ち物 デート
お祭り 持ち物 多い』
って、デートって、デートじゃ全然ないけど、ちょっとだけ見てみようかな。
『お祭りの食べ物は手がベテベタするものが多い!なので、濡れタオルは必須!デキル女を演出しよう!』
なるほど、濡れタオルか、演出ってところがなんか猫かぶってる気がしないでもないが、まあ、持ってて損はないだろう。私は、一生懸命に濡れタオルを探して鞄につめた。今、三時十五分か、私の家から、健太の家まで、十五分ほどかかりそうだから、そろそろ出よう。私は、足取りが軽過ぎて、今にも飛んでいきそうな足で、健太の家に向かった。
 思ったより、信号に引っ掛かってしまって、二十分ほどかかってしまった。連絡するより、急いだほうが早いと思ったので、小走りでついた。
「愛花ー!ちょっと遅くない?」
「ごめん、由衣、みんな。信号に引っ掛かっちゃって」
「まー、気にすんなよ、石田。それより早くいこーぜ!」
「えっ、あ、うん」
いきなり健太に話しかけられて、口篭ってしまった。なんだ、えっ、あ、うんって!もっとましな返し方あっただろ。今暗い気持ちになってしまったら、楽しめるものも楽しめない。気を取り直そう。
「お祭りって、ポテトあったっけー?」
「何?池田ポテト好きだったけ?」
「だってポテトを棒状に切って油で揚げたんだよ?美味しいに決まってんじゃん!」
「うわ、デブの思考回路」
「は?ポテトより細いパーフェクトスタイルでしょ?」
「さも当たり前のように話しててくそうざいんだけど」
優香と泉って仲良いよな。今もこうして軽口を言い合っている。なんか、あの二人もいい感じだよな。少なくとも、どっちかはどっちかのこと好きそうだな。健太は、誰が好きなんだろう。
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