国王様は新米騎士を溺愛する

ジュリアン

陸へ

バンパイアの船が港へ着き、タラップを降りていくと港には数人の同じ制服を着た騎士が微動だにせず敬礼をしている。俺はリアンの腕を抱いて陸に足をつけた。

「出迎えご苦労。」
「はっ！」

アンドレアのねぎらいに騎士が最敬礼をした。みんなそれぞれに美しい、長身で鍛えられた体をしている。

「シェンさん！」

騎士の一人が彼の名前を呼んだ。

「おー、ご苦労だな。久しぶり。」

数人の騎士達が一斉にシェンのもとへと走っていった。人気あるんだな、シェン。

「ジュリアン、とうとう着いたね…ありがと。」

リアンが俺の髪を優しく撫でてくれる。リアンに見つめられると心があったかくなる。ルークが一緒だったらもっと安心させてあげられただろうな。俺はもっと頑張らないといけない。これから魔法の修行が始まって、魔力をリアンの治療に使うんだ。

「リアンとジュリアンはこちらへ。」

レアルに呼ばれて俺たちは用意された馬車に乗った。

シェンはどうしたのかなと窓から覗くと、用意された馬に乗って馬車を守るように並走していた。目が合うと、シェンが目を細めて笑ってくれた。

「…良かったね、ジュリアン。大事な人ができて。」

リアンが嬉しそうに俺を見て微笑む。

「俺もルークの騎士だったんだよね…。騎士な俺の方が守られてたけど…。」
「ルークに会いたいよね…リアン。」
「ん？いや？」

リアンが、けろっと否定するので俺はものすごく驚いた。魔術師レアルもだ。

「ああ。違う違う。次に会うときは元気な姿でってこと。今のままじゃルークに心配させ過ぎてるから…。ジュリアン、よろしくねっ！」

リアンに明るく肩を叩かれて俺は笑った。ぎゅっと腕を抱かれてリアンが俺の肩にもたれかかる。

「こんなに頼もしくなっちゃってさ…。俺がずっと守ってたのになー。俺のジュリアンって、もう呼べないな。呼ぶ人できたみたいだし？」

ちらっと窓の外のシェンを見た。

「シェンは…本当に頼もしいし、強いよ。シェンは本当に愛する人を見つけたんだね。ふふ。ジュリアン可愛いからなー。」

魔術師レアルが嬉しそうに俺に言った。この人は俺の知らないシェンを知っている。おそらくは、シェンがずっと好きだった人だ。

「これから何処にいくの？レアル。」

「王宮にある魔法宮。俺が魔術師になってから、うちの陛下に特別に作ってもらったんだ。俺は元騎士なんだよ。魔術が得意だから、魔術師になったんだ。騎士は多少魔法を使えるけれど、魔法だけを本職にしてるのは俺しかいないの。」

「そんなに魔力が強いってこと？すごいねレアル。」

リアンが感心したようにレアルに言うと、彼は首をぶんぶん振った。

「え、違うよ。俺は馬には乗れないし、剣術も全くできないの。まあ、弓くらいかな…。騎士なのに致命的なんだよ。」

あはは、と魔術師レアルがごまかすように笑った。

それは…何故騎士になれたんだという疑問が湧いてもおかしくないな。それぞれの国の審査基準があるのかもしれないということで俺とリアンは無理やり納得した。