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伝説のゆくえ

エリアスの家族

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大きな屋敷の前に着いた。門番が立っていて、どこかの貴族の家のように見える。

エリアスの姿を認めると敬礼をして門が開かれた。そのままエンペラーくんを屋敷の玄関前に着けると使用人がわらわらと走ってきて、エンペラーくんの手綱を持つ。先に降りたエリアスが俺の脇を持って降ろしてくれついでに軽く抱き締めた。

「お帰りなさいませ、お坊っちゃま!」
「だから……お坊っちゃま言うな…」

ぽそっと呟くエリアスを俺は不思議そうに見上げた。

「エリアス!!!!」

両開きの大きな玄関ドアがバコーン!と開き、金髪の渋いおっちゃんが両手を開いて現れる。エリアスを抱き締めると頬にぶちゅーっとキスをする。

「うわあああ!やめっ!くそ親父!」
「パピーとのふれあいを嫌がるとはいかがなものかエリアス!ん?…こちらは?」

おっちゃんが隣で呆然としている俺に気づいた。

「俺の…シンだ」

エリアスが照れたように言いながら、俺の腰にそっと手を添えるのを見たおっちゃんは、察した!とばかりにニヤリと笑った。

「美しい子だな…私はエリアスの父、ガイウスだ、初めまして」

連れていきたい場所って、自分の家だったんだ…!俺は慌ててぺこりと頭を下げた。

「ここは手狭な別荘ゆえ、居心地は実家とはちがうが、ゆるりとくつろいでってくれ」

べ、別荘?この王都のど真ん中にあるだだっ広い屋敷が!?もしかしてエリアスってセレブ坊っちゃんですか?!

「…母さんは?」
「マミーと呼んであげろ…今はパルティ山に棲む3つ頭のヒドラを退治しに行ってる」
「ハッ…相変わらず忙しいな、父さんもここにいるなんて珍しい」
「王宮に呼ばれてたんでな…」

エリアスの父親、ガイウスの目が一瞬ギラっと光った。エリアスも表情が激変する。ビリビリする雰囲気になった。

応接室に通された俺はメイドさんからものすごく香りのいい紅茶をいれてもらって恐縮していた。茶器がピカピカで触れるのすら緊張する。まるで国王陛下が使われているもののようだ。

「あの…エリアス…」
「ん?」

慣れた手つきで優雅に紅茶を飲んでいるエリアスが、いつもとは別人のようでドキドキしている。

「ああ、俺んち?ヤクザ」
「は?ヤクザ?!」

俺は面食らった。

「人聞きが悪いな、ヤクザじゃないだろう?ハンター一家だ。うちは代々世界的なハンターを出す一族でな…」
「魔物退治してアイテムやら魔法薬やらを世界中のセレブに高く売り付けるなんてヤクザだろうが」
「甘いな、全て合法だ、エリアス」

そこにはエリアスの兄、銀髪のハンター、ダリウスが立っていた。

「久しぶりだなシン」
「え、あ、はい…」

真っ赤になってダリウスを見た。

「あれから話は聞いた。驚いたよ、フィリックスが伝説の竜騎士だったとはね…シンに違いないと思ったんだが」

そう言いながら隣にどっかりと座り、俺の髪を指ですき始めたダリウスをエリアスはジロリと睨み、俺を掬うように抱き上げて自分の膝に乗せる。うわわ…なんで!?

「そう、それで、シンのことについてダリウスに話があって来た」
「へえ…興味あるな…」

顎に手を添えたダリウスが笑う。俺の相談でここに来たっていうの!?ダリウスはハンターだ。何の相談…?

「18年前にドラゴン族で、人間と結ばれたのはどいつだ?」

えっ?

俺はエリアスを見た。ダリウスも固まっている。

「シン…?お前まさか…ハーフドラゴンなのか…?」

目を見開いて俺を見るダリウスに、静かに一回頷いた。

「今まで、歴代の伝説のドラゴンアイテムがシンに加護を与えるのが不思議だったんだ。バトルも無しに協力するってのがな…」
「あー、お前のピアスのドラゴンは手懐けるのに苦労したもんな」

ダリウスがエリアスのピアスを一瞥した。

「人間と結ばれたドラゴン族なぁ…いるにはいる。今この国にはいないがな…。白のドラゴンだ」

そう聞いたとたん、エリアスが硬直して俺をぎゅっと抱き締めた。

「は…!まさか…白のって、ドラゴン族の王子だろうが!?」
「そうだ。20年程前に人間と恋仲になったという話を聞いたことがある。大反対くらって恋人を連れて逃げたらしいが。子どもも産んだという話も聞いたが3人とも行方不明だそうだ。ハーフドラゴンなんて、どこに行こうが魔族から狙われるだけだろう?」

俺はそんなハーフドラゴンなんですけどね…。

「シンは辺境でラースと一緒に外部とは遮断されて育ったというのも頷ける。あの辺境はジジイだが元王宮の優秀な魔道士や手練れた戦士がゴロゴロいるのは調べた。シンはおそらく彼らに護られてたんだ。だがハーフドラゴンの匂いは成長するにつれて濃くなる。老人ばかりの辺境じゃ護り続けられなくなったんだろうな…。俺たち竜騎士団に託す計画はシンが幼いときから辺境の皆の中にずっとあったんだろう…長老め…シンは愛されてるな」

ジジイたちのこともエリアスは調べ尽くして推論を立てていたことに驚いた。
この人は、こんなに俺のことを心配して、こんなに想ってくれているんだ…俺は胸が熱くなった。

「シンの生い立ちのピースがあらかた嵌まったのかもしれんな…充分納得がいく、見事だエリアス。さすが俺の弟」
「自分中心かよ…ふざけんな」

ダリウスの軽口にエリアスが文句を言い、二人で笑いあう。


「シン…ひとつだけ聞いてもいいか?お前のとても重要な、大切なことだ…包み隠さず答えろ」
「え…?」

ダリウスがすごく真剣な表情になった。ドキン、と心臓が跳ねる。何を聞かれるんだろうか?

咳払いをひとつして、ダリウスが呼吸を整えた。そして。

「お前の母ちゃん美人?」
「…へ?」

その瞬間、エリアスがダリウスの肩を蹴飛ばした。ソファから吹っ飛ばされるダリウス。

「痛えなエリアス!重要だろうがそこぉ!」
「要るかそんな情報!こんのボケぇ!」

それから兄弟喧嘩が始まった。

俺のために争わないで…。










































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