上 下
44 / 113
竜騎士になったよ

国王陛下

しおりを挟む
演習会場まで歩くのは数十メートル。暗い通路から明るい外の会場へ出た瞬間。

ものすごい拍手と歓声が聞こえた。

これが、竜騎士か。

エリアスを先頭に、五人が広がって歩いていく。既に4人は魔力を出して身に纏っているから、足元に陽炎のようなゆらめきが現れている。全員、余裕の笑みを浮かべて観衆には見向きもせず堂々と入場する。俺も頑張って胸だけは張ってみたけど、どうだろうな。

国王陛下の幕に向く騎士団の前に立つと、エリアスが空を見た。天高く遠くのほうから黒い点がいくつか見え、だんだん大きくなる。カイザーを先頭に六匹のドラゴンが五匹を引き連れて上空を飛んでいる。それを見た観客は大きな声を上げた。低空で観客席を何度も旋回した六匹のドラゴンは俺たちのすぐ後ろに着陸し、大きな翼を何度か広げたあと、首を上げる。堂々たる色彩も豊かな美しいドラゴンたちに人々は驚き、ただ見惚れていた。

人々は初めて見るラースに目を奪われた。今日のために角を覆う宝飾のついた魔法アイテムも、美しい虹色に光る蒼のたてがみも、俺が手入れをしてここまで美しくしたんだ。角覆いはエリアスとフィリックスが二人でプレゼントしてくれた。綺麗な俺の蒼いドラゴン、最高だ。

俺はせっかくだからとエリアスが仕立ててくれた竜騎士の制服を着ている。俺は蒼いビロードのマントに毛皮の襟巻きを肩から下げ、蒼い詰襟の軍服のような服を着ている。竜騎士のみんなは形は俺のと同じだけどそれぞれのドラゴンの色と合わせている。一人一人前を向き、陛下の幕と観衆に向かって軽い会釈をしていくんだけれど、俺は三番目。始めにハムザ、トゥルキ。

緊張しながら俺は頭を下げた。
観衆からは拍手と、何だかちょっと、ふんわりした笑いが聞こえる。「可愛い~」なんて声もちらほら。まあ、カッコいいとは誰も言ってはくれないよな…。

黒い竜騎士エリアスと赤い竜騎士フィリックスは特に人気があった。歓声の量が違う。

入場の式が終わるとそれぞれがドラゴンに乗って国王陛下の前に飛んでいき、挨拶をする。
俺もそれに習った。

初めて見る国王陛下は思ったより若くてとてもイケメンだった。黒髪と、輝くほどの金色の目。隣にいるアンディと年が変わらないくらいに見える。
その国王陛下が俺をまっすぐに見ているのに気づいた。

俺がずっと見ているのは陛下に失礼なので、俯いて目を伏せる。

「……」

エリアスが俺を見た。おそらく、陛下の視線の先に俺がいるのに気づいていると思う。

「敬礼!」

アンディの大きな掛け声で、竜騎士も騎士団も全員一斉に敬礼をする。バッ!という音が心地よかった。

そのあとまた退場した俺たちは竜騎士の出番まで幕の中で待つことになっている。

俺は今、呼び出されてエリアスの個室に入れられている。これからの予定が頭に入ってるかどうかの確認かな?と、思ったら。

「即興でヘラクレス号と出たいんだけど、いけるか?」
「え?」
「あの超高速離陸、カイザー号とヘラクレス号、オリオン号にしかできないんだ、フィリックスと出るつもりだったんだが、三匹でやりたいんだ」

えっ?即興で?…できるかなヘラクレス号…。

「昔はやってたんだ、三匹で」

エリアスが遠い目をした。ヘラクレス号の亡くなった竜騎士ベンがいた頃か。

ベンはエリアスにとって、どんな存在だったのかな、と突然そんな疑問が湧いてしまった。

親友だったとは聞いたけれど、この世界は男同士の恋愛も普通にアリだ。もしかしたら…とか思っちゃった。あれ?ちょっと心がざわめくのは何故だ。
だめだ、今は演習に集中するとき!

「ヘラクレス号は行けると思う」
「そうか。調整しておいてくれ」

調整とは、説明しておけということかな?エリアスは書類を片手に俺を見る。

「あの…その、なんだ」
「うん?なに?」
「へ…陛下がな…その」
「陛下?ああ、陛下が?」
「さっきも…お前を見てたんだけど、前からシンのことを気にされていてな…」

エリアス、歯切れがめちゃくちゃ悪くない?

「き、今日の演習が終わったら、シンを祝宴に呼べと言われた」

エリアス、顔がものすごく嫌そうだぞ…。イケメンが台無しなくらい。

「宴会だよね?別にいいけど」
「んな!いいって…?」
「ただのパーティーでしょ?構わないよ」
「嫌だ!」
「はっ?」

突然エリアスにガバちょと抱き締められる。いきなり腕の中にワープしたような速さだ。

「こんな可愛いシンを誰にも見せたくない!特に王宮のやつらに。だが竜騎士は社畜だ、社長は陛下。いや、会長ともいうか…とにかくボスは陛下だ、それも辞任もしないしクビにもならない絶対の存在だ。でも見せたくない!」

はあ?確か俺の可愛さを知らしめ隊副会長だろエリアス?

「でも…出ないとマズイんでしょ?社畜は上司の命令絶対でしょ?」
「うんマズイし絶対だ」
「だったら出…っ」

俺が言い終わらないうちにエリアスが俺の唇を塞ぐ。

ゆっくりと離れるときにエリアスが俺の唇の裏側をぺろっと舐めた瞬間、背中がぞくぞくしてしまって俺は声を上げ、腰が砕けてしまってエリアスの胸につかまった。

「はっ…」
「すまん、ちょっと嫉妬した…」

ぽつりと低い声で呟くように言われる。俺を切ない目でじっと見る。

誰に?陛下に?

エリアスが俯いて、顔を上げて俺を見た。俺の頭に手を伸ばし、髪をくしゃり、とかくように撫でて引き寄せる。

「…ベンは陛下のお気に入りだったんだ。ヘラクレス号が復活したのをお耳にして、今日、飛ぶのを見せろと言ってきた…シンを通して陛下がベンの姿と重ねるかも知れない、と俺は危惧してる。けれど拒否はできない」

エリアスの目が真剣だった。






















































しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

隷属神官の快楽記録

彩月野生
BL
魔族の集団に捕まり性奴隷にされた神官。 神に仕える者を憎悪する魔族クロヴィスに捕まった神官リアムは、陵辱され快楽漬けの日々を余儀なくされてしまうが、やがてクロヴィスを愛してしまう。敬愛する神官リュカまでも毒牙にかかり、リアムは身も心も蹂躙された。 ※流血、残酷描写、男性妊娠、出産描写含まれますので注意。 後味の良いラストを心がけて書いていますので、安心してお読みください。

願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい

戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。 人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください! チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!! ※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。 番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」 「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824

元社畜の俺、異世界で盲愛される!?

彩月野生
BL
「にゃあにゃあ」 「かっわいいなあおまえ~、できれば俺の部屋で飼ってやりたいなあ」 佐原尚輝(三十代後半)は、彼女いない歴年齢の、夢に破れた社畜である。 憂鬱な毎日を過ごしていたが、綺麗な野良猫と出会い、その猫を飼うために仕事に精を出すが、連日のサービス残業と、上司のパワハラに耐えられず会社を辞めてしまう。 猫に別れを告げるが、車道に飛び出た猫を助けようとして、車に轢かれて死んでしまった。 そこに美しい男の神が現れ、尚輝は神によって異世界へと転生し、理想の生活を手にいれることに。 ナオキ=エーベルは家族に愛されて育ち、十八歳になると冒険の旅に出た。 そんなナオキは、ある三人の男(聖者、闇の一族の王、神様)に何故か言い寄られて彼らに翻弄される羽目になる。 恋愛経験のない男が愛を知る物語。 ※一人と相思相愛エンド。 ※ハッピーエンドです。 (誤字脱字報告はご遠慮下さい・ひとますスルー&脳内保管でお願いいたします)

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

異世界に転移したショタは森でスローライフ中

ミクリ21
BL
異世界に転移した小学生のヤマト。 ヤマトに一目惚れした森の主のハーメルンは、ヤマトを溺愛して求愛しての毎日です。 仲良しの二人のほのぼのストーリーです。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

敵国軍人に惚れられたんだけど、女装がばれたらやばい。

水瀬かずか
BL
ルカは、革命軍を支援していた父親が軍に捕まったせいで、軍から逃亡・潜伏中だった。 どうやって潜伏するかって? 女装である。 そしたら女装が美人過ぎて、イケオジの大佐にめちゃくちゃ口説かれるはめになった。 これってさぁ……、女装がバレたら、ヤバくない……? ムーンライトノベルズさまにて公開中の物の加筆修正版(ただし性行為抜き)です。 表紙にR18表記がされていますが、作品はR15です。 illustration 吉杜玖美さま

処理中です...