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竜騎士になったよ

シンくんお手柄

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「まてこの野郎っ!」

待つわけがない。路地を抜け空き地を横切り、逃げる男達の足の速いこと。悪いことをする奴は足も速くなけりゃいけないんだな。

でも、俺は田舎の山を走りまわって来ただけの足腰の強さには自信がある。比べたことはないけど足は速い気がする。

町と建物の構造を見て、同じような高さの建物が多いことから、俺は上から攻めることにした。塀によじ登るとそのまま建物に乗り移り、並走しながら上から男達を追いかける。上からは逃げるそいつらが丸見え。

よし、前から颯爽とあらわれて度胆をぬいてやろ!

そう思った俺は上から道を迷路のように目でなぞって先を把握するとその先に通じる場所めがけてまっしぐらに向かった。

後ろをチェックした男達は、俺が追いかけてこないことに気づいて油断したのか、少しスピードを落とした。

そこは空き地にたくさんの木材が立て掛けてある場所だった。工務店か何かの物置き場かな?俺は建物の上で男達を見下ろしている。

ここにいるよ、上だよー。心の中でニヤニヤ笑いながら後ろの建物から一気に飛び降りて現れようとしたとき。


ぐにっ!


足首を豪快にひねり、バランスを崩した俺はとっさに材木を掴む。
その物音に気づいた男達が、ぶら下がる俺を見つけ、ぎょっとした。

ああ、失敗したかも…。

ぶら下がったままがっくりしていると、材木が俺の体重でバランスをどんどん崩していき、ゆっくり傾いたと思うと、勢いよく将棋倒しになって崩壊した。

「うわああっ!!」

俺も木材に巻き込まれていく。

大きな轟音をたてて崩れたここへ、沢山の野次馬が集まってきた。

「君!大丈夫か!?怪我はないか?」
「大丈夫です。いてて…」

集まってきた人達に材木をどけてもらい、俺は特に怪我もなく立ち上がった。

「シン!シン!やっと見つけた…大丈夫かっ!」

真剣な表情をしたフィリックスが走ってきてそのまま勢いよく俺を抱き締めた。

厚い胸に押し潰される。

フィリックスの心臓の鼓動が速くて大きい。額には汗が滲んでいて息も切れてる。

そんなに俺を探してくれてたんだな。

「ごめんなさい…」
「心配した、見つかってよかった…」

怒られるかと思ったのに、安心したフィリックスの表情にたまらなくキュンとしてしまって、俺は思わずその胸にしがみついてしまった。

「怪我がなくて良かった…」
「うん…ごめんなさい」

しばらくぎゅーっと抱き締められていると、男達がいた方向から声がした。

「まだ人がいるぞー!」

見ると追いかけていた男達が木材の下敷きになって気絶しているのが見えた。

「そいつは人さらいだ、悪いが確保して王都警護隊に連絡して引き渡してくれ」

フィリックスが集まってきた人たちに声を掛けて、男達を縄で縛って捕まえてもらった。

「竜騎士様、もしかしてその子も竜騎士なんですか?」

誰かがフィリックスに俺の事を尋ねる。すごい、フィリックスは有名人なんだな。

「ああ、この子は新人だが伝説の竜騎士の可能性がある、青の竜騎士だ。今その人さらいをここへ追い詰めて、こうやって捕まえられたのも彼のお手柄だ」

誇らしげに言うフィリックスの話を聞いた周囲が、一気にどよめいた。

「伝説の竜騎士がもう一人現れたのか!」
「すごい!この人さらい達を捕まえたのは彼の作戦だって!」

あの…

「さすが竜騎士!犯人をここで一網打尽にしたのはきっと緻密な計算なんだぜ!」

いや…

「さすが!伝説の竜騎士!」


足ひねって落ちただけ…


俺は伝説の竜騎士なんかじゃなーい。もう!恨むぜ、郷里の長老&ジジイが伝説の竜騎士なんて言うからぁ…


「行こうか、シン。王都警護隊が来た」

紺色の制服を来た男性達がわらわらと走ってくる。フィリックスに敬礼をして、人さらいの男達を引っ立てて連れていった。

「いこう。デートだからな」

フィリックスがまた俺の手を握った。

今度は俺がそっと指を絡めたら、フィリックスが嬉しそうに笑ってくれた。

商店街を通ってもはぐれない安心感と温かさが心地いい。誰かと手を繋いで町を歩くなんてしたことがなかったから素直に嬉しかった。幼い頃はジジイ達みんなが俺と手を繋いでくれていたけど、それとは違うドキドキがあった。

なんだか心まで何か温かい。でも、賑やかな通りに入り、手を繋ぐだけではすぐ人の波に引き離されそうになった。

ぐいっ!

すると、フィリックスが俺を引き寄せて背中から腰を抱く。がっちりと包まれた俺はフィリックスの頬が俺の耳に触れる感触にくすぐったさを覚えた。

「ちゃんと抱いてるから…大丈夫」

フィリックスに耳元でそっと囁かれて、俺の鼓動が跳ね上がった。

だ、抱いてるとか言うし!んで、近い!

フィリックス…イ…イケメン…。耳がゾクゾクしてしまった。

そして俺たちは目指す武器屋の前に着いた。






















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