騎士に溺愛されました

あいえだ

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 俺は異世界から魂だけ来た人造人間のセアラになっている。ここは特殊な能力を待つ選ばれし人間だけが魔法を使える世界だった。そして、俺がいるのは王国に仕える魔法騎士団の寮で、東棟と呼ばれており、王国の東方にある。

 魔導士ジョージの保護のもと俺はなんとか生活ができるようになっていた。

 魔法騎士の仕事はモンスターを狩ること。俺に課せられたことはまずは魔法の特訓。この棟には魔法練習場があって、魔法騎士ならいつでも誰でも使用することができる。

 魔導士はこの棟には彼一人しかおらず、ジョージは武器の修理や魔法騎士の治療で毎日忙しく働いている。俺はジョージと寝起きを共にして、この棟から出ない限り割と自由だった。今日はその特訓場通称「ルー厶」に行ってみようと思い立ち、ジョージにそれを伝えるとあっさり許可が出た。

 東棟はとても広く、少し迷いながらもたどり着いた。

「ルーム」には先客がいた。先日会ったラスティとディールだ。彼らは魔法ではなく素手で試合をやっていて、二人とも身のこなしが速く軽いのに、パンチやキックの音が重そうに見えた。一発ごとにドカンドカンと当たる音がもう、すごい。体中に青痣ができそう…と思って見ていたら、二人が俺に気がついた。

「セアラ。おまえも練習する?」

 ラスティが白い歯を見せて笑った。

「おいでよ、一緒にやろう」

 ディールが穏やかな微笑みで誘ってくれた。

 ジョージからは彼らのことは一応聞いていた。

 ラスティ・ソートは茶髪茶瞳の土属性の魔法騎士だ。性格明るく誰にも好かれる元気な人だという。

 ディール・クライアンは金髪碧眼の美麗な青年で、炎属性の魔法騎士。普段はおとなしいが、戦いになると意外と熱い。ラスティとは親友だそうだ。ディールって、見た目がファンタジーの王子様みたいだ。こんな綺麗な人は生まれてこのかた直に見たことがないくらいで眩しかった。


「さあセアラ、俺とディール、初めての対戦はどっちを選ぶ?」

 ラスティが弾ける笑顔で俺に言った。相手をしてくれるだけでもありがたいのに、どちらかなんて選べるはずもなく困っていると、二人は笑ってじゃんけんをはじめた。「勝ったほうがセアラと戦う」らしく、負けた方ではなくてよかったとほっとした。ラスティが勝ち、うれしそうに俺を手招きした。

 手合わせを始めると、彼は手刀のような攻撃や、パンチを出してくる。だいぶ加減をしてくれているが、そもそも手足の長さが違う。恵まれた容姿に体格。鍛えられた筋肉。俺の目が彼の速さに全くついていけなかった。俺は彼らよりかなり華奢で背が低かった。魔法騎士として作られたのに、この体格は何か理由があるのだろうか。

「なんだセアラ、考えごとか?じゃあもう少し速くしようか」

 ラスティが笑ってスピードを上げた。今までも必死でよけていたのにもう無理だ。ついていけずに足が絡まって不意に体勢を崩した腹に彼の蹴りがまともに入った。俺は大きくぶっ飛んで壁に激突した。

「あ、やべ」

 ラスティの声がした。

 背中が痛くて頭がくらくらする。

「セアラ!」

 慌ててラスティとディールが飛んで来る。

 ラスティは倒れた俺を抱き起こして怪我がないか確かめる。ディールも俺の手をとり、心配そうにその手を優しくさすって覗きこんできた。

 イケメン二人に至近距離で心配され見つめられて、俺はとても恥ずかしくなってしまう。

「セアラごめん…。マジで入った、大丈夫か?」

 ラスティが俺の腹に触れて具合を確かめる。彼の大きな手のひらが温かい。

「うん、ごめん。弱くてごめん」

「何言ってんだ、俺が悪い、ごめんな」

 すまなさそうに頭を垂れるラスティの瞳が優しかった。反対側を見ると、ディールが心配げに俺を見つめている。

「ふたりとも、俺たぶん結構丈夫にできてるから大丈夫だよ。続けよっか」

「できてる?」

 二人が怪訝な表情になった。あ、俺が作り物ってことは知らないのか。

「あ、いや、昔から割と頑丈だから」

 俺が笑ってそう言うと、ほっとした表情になったディールが無言で俺の頭をそっと撫でた。その仕草に驚いて、彼を見上げてなんとなく胸が熱くなった。その後も手合わせは続き、また一汗かいて休憩となる。

 次はディールとの手合わせだ。

「無理なら言えよ。ジョージからはセアラは結構出来ると聞いてるからそれなりにいくけど」

 ジョージ、一体なに言ってんの?と思う間もなくいきなりの蹴りが無茶苦茶速いし音が怖い。手加減してくれているとはいえ、これをくらったら失神は確実だろうと思った。こんなに強い二人と、魔法騎士として働くことになるのかと思ったら果たしてついていけるのだろうかと不安になる。

「セアラは攻撃より防御、身のこなしが軽くて素早いからかわすのが上手いな。それはセアラの強みだ、モンスターへの揺動や他の騎士との連携で使えそうだ。フェイントとか、もっとそこを鍛えるといいかも」

 ディールのアドバイスが嬉しい。よし、やってみよう!俺はタイミングを見計らい、紙一重でディールの蹴りをかわし、壁を蹴ってひらりと着地する。

「そうそう、セアラ、飲み込みが早いな……なら大丈夫か」

 穏やかな笑みを浮かべた瞬間、ディールの目がすうっと細められ、獲物を狩る猛獣の瞳に変わったのを見た。

    
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