上 下
56 / 93
本編

元婚約者ウッド

しおりを挟む
大嫌いで二度と会わないと思っていたウッドが目の前にいる。全身鳥肌がブツブツと立ち、俺は寝覚めが悪すぎて吐き気がしてきた。

「なんだレイ、久しぶりに会えたのにそんな顔するなよ」

ウッドが笑いながら俺に声をかけてきたけれど、俺が変な顔をしてるのは嫌だからに決まってるじゃん、喜ぶわけがないことに気づいてくれ。

「ベン王子の元で幸せに暮らしてそうだな…少し太ったんじゃねえの?」

そう言って俺の頬をするんと撫でる。うわ、気持ち悪っ!俺は首を振ってその手を拒む。

そこで気づいた。
手錠がかけられている。

「俺をどうするつもり…?」
「は?俺はもう何も失うものはないからな。皇位継承も下がったし、今のままじゃ絶望的だ…そこで、この人に声をかけられたんだよ」

ウッドがそう言って隣の初老の男性を見た。見た目はそこそこ立派ななりをしている、おそらく高位の貴族だろう。

「皇后陛下の従兄弟にあたられる、グリーンヒル公爵だ。皇后陛下のご実家の宰相でもあられる」

…は?クレオンの国の宰相…?ということはクレオンが大嫌いな兄の相棒ということになる。

ベンの国がA国なら、皇后の実家でありクレオンの国はB国としておく。
このグリーンヒル公爵ってオッサンはB国の宰相だ。そして俺の生まれた国、この気持ち悪いウッドが王子をしている国はさしづめC国としておこう。

一番の大国がベンの父とシュワルツの治めるA国。
それよりも小国なのが皇后とクレオンの実家B国。

弱小で田舎の俺の生まれたC国。その国の王位さえウッドは弟が生まれたためもう継げなさそうだ。

「レイを失ってから俺は全てを失ったんだよな…よく考えてみりゃ、レイがそばにいるときは順調だったんだ。それが全てなくなった。なぜか少し考えてみたんだ」
「…自業自得なのにどこを考えることがあるんだ?転生者だっけ?あの女がいるじゃないか」

御都合主義らしいムカつく考え方に俺はついツッコんでしまった。
浮気して俺を捨てたあの行為が全ての元凶ではないのか。まあ俺にはラッキーでしかなかったけどな。

「まあそう言うな…それから気になって調べてみたんだよな…」
「…何を?」

「転生者が生まれると、その母親は命を失うんだってな。お前の母もレイを生んだら命をなくしたよな?んで、調べてみると転生者が生まれるという日食の日だった。異世界と何かが繋がるのだろう、前世の世界での自分の死、この世界のその幸運と偶然が重なった時にここへ生まれ直してくる…って文献には書いてあった」

俺の全身が凍りついた。

「…な、にが言いたい…ウッド…」

震える俺の声に、ウッドが強烈に嫌らしい顔で笑いかけた。

「なに、お前が転生者なのではないかと思ってな…グリーンヒル公爵と利害が一致したもので。…取り返しに来た」








しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

悪役令嬢は自称親友の令嬢に婚約者を取られ、予定どおり無事に婚約破棄されることに成功しましたが、そのあとのことは考えてませんでした

みゅー
恋愛
婚約者のエーリクと共に招待された舞踏会、公の場に二人で参加するのは初めてだったオルヘルスは、緊張しながらその場へ臨んだ。 会場に入ると前方にいた幼馴染みのアリネアと目が合った。すると、彼女は突然泣き出しそんな彼女にあろうことか婚約者のエーリクが駆け寄る。 そんな二人に注目が集まるなか、エーリクは突然オルヘルスに婚約破棄を言い渡す……。

異世界王女に転生したけど、貧乏生活から脱出できるのか

片上尚
ファンタジー
海の事故で命を落とした山田陽子は、女神ロミア様に頼まれて魔法がある世界のとある国、ファルメディアの第三王女アリスティアに転生! 悠々自適の贅沢王女生活やイケメン王子との結婚、もしくは現代知識で無双チートを夢見て目覚めてみると、待っていたのは3食草粥生活でした… アリスティアは現代知識を使って自国を豊かにできるのか? 痩せっぽっちの王女様奮闘記。

眠り姫はエリート王子に恋をする

吉田 咲
BL
※再掲載作品です。本編完結済みです。 ※掲載させて頂くにあたり、修正を加えています。 ☆あらすじ☆  エリートぞろいのKカンパニー第一営業部に所属する瀬川冬夜は、特殊な体質により、周りから「眠り姫」と呼ばれている。  同じく第一営業部の王子様と名高い藤堂隆一は、上司の「眠り姫」の存在が気になって仕方がなくて……。    予告なくR18表現がはいります。  受・攻両方の視点でお話が進みます。

平凡な研究員の俺がイケメン所長に監禁されるまで

山田ハメ太郎
BL
仕事が遅くていつも所長に怒られてばかりの俺。 そんな俺が所長に監禁されるまでの話。 ※研究職については無知です。寛容な心でお読みください。

美春と亜樹

巴月のん
恋愛
付き合っていた二人の攻防による復縁話 美春は先輩である亜樹と付き合っていたが、度重なる浮気に限界を感じて別れた。 しかし、別れてから積極的になった彼に対して複雑な思いを抱く。 なろうにも出していた話を少し修正したものです。

ある愛の詩

明石 はるか
恋愛
彼と彼女と、私の物語

婚約者が庇護欲をそそる可愛らしい悪女に誑かされて・・・ませんでしたわっ!?

月白ヤトヒコ
ファンタジー
わたくしの婚約者が……とある女子生徒に侍っている、と噂になっていました。 それは、小柄で庇護欲を誘う、けれど豊かでたわわなお胸を持つ、後輩の女子生徒。 しかも、その子は『病気の母のため』と言って、学園に通う貴族子息達から金品を巻き上げている悪女なのだそうです。 お友達、が親切そうな顔をして教えてくれました。まぁ、面白がられているのが、透けて見える態度でしたけど。 なので、婚約者と、彼が侍っている彼女のことを調査することにしたのですが・・・ ガチだったっ!? いろんな意味で、ガチだったっ!? 「マジやべぇじゃんっ!?!?」 と、様々な衝撃におののいているところです。 「お嬢様、口が悪いですよ」 「あら、言葉が乱れましたわ。失礼」 という感じの、庇護欲そそる可愛らしい外見をした悪女の調査報告&観察日記っぽいもの。

処理中です...