第二の人生は王子様の花嫁でした。

あいえだ

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本編

引き剥がし

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シュワルツに促され、エルンストが緊張の面持ちでゴリゴリと豆をミルで挽いている。

それを俺たちはソファに座って不思議な気分で見ていた。

うーん、なんだろうこの間は…。俺がちらりとベンを見ると、いきなりベンが立ち上がる。

「すまない、少し席をはずす」

と、それだけ言い俺の手を引っぱり隣の部屋に連れていかれた。

えっ…えっ?

隣は図書室のような私室らしく、本棚にびっしり専門書が並んでいた。シュワルツのものなのだろうか、ほえええーと眺めていると、ベンの手が俺の顎と腰を掴んで引き寄せられた。

「…何があった?」

囁くような声でベンが心配げに俺の顔を覗き込み、頬に彼の唇が触れる。

「…待ち伏せされた。アルがエルンストの隠し持ってたナイフを見つけてくれなかったら…」

ベンの腕の中で安心したら、ふっ、とその時の光景が甦り、やっと我に返った俺は腰が砕けそうになった。
ぐっと力強く支えてくれるベンの腕がいとおしくて彼の胸にしがみつく。

「怖い思いをさせた…ゲットを襲った理由はレイを丸腰にして傷つけるつもりだったんだな…私が離れてるときに、くそ…理由はどうあれエルンストのやったことは卑怯でしかない」
「うん…そうだけど…エルンスト、皇后の呪縛から解けるかな?」
「…レイはどんな奴にも優しいな」

ベンがちゅっ、と俺と唇を重ねながら言った。

「優しくないよ、全然。バイオリンを壊したりゲットを襲おうとする時点でエルンストは常軌を逸脱してるとは思うよ…許した訳じゃない」

そうだ。俺はエルンストのあの精神力の弱さを許さない。
やったことは許されないんだ。なら、どうやって償う?

「そうか…私のレイとゲットを泣かしたやつは許したくない。エルンストを…」
「いいの、ベン」

俺は怒りの表情になったベンを制止した。

「…シュワルツが俺にアルをつけてくれたタイミングって、わざと?」
「え?」

ベンが驚いて俺を見る。そして少し考えてから、ああ。と一言だけ呟いた。

「わざと、だろうな…なら、シュワルツには何が見えてるのだろうな…エルンストがレイを襲うことが予測できてたのかもしれん。シュワルツは策士だ、だけどそれに気づいたレイ、お前もなかなか…」
「そんなことない…離さないで」

不安になった俺はベンの胸に頬を寄せた。俺の銀の髪に何度もキスをして、ベンが抱き締める。顔を上げるとすぐにキスが降ってきて唇が奪われた。
ちゅ、ちゅっ、と音を立てながら唇をお互いに求める。隣にみんながいることに俺たちはまた違う興奮を味わっていた。

エルンストの入れたコーヒーの香りが辺りを漂い、俺たちはまた部屋に戻ってそれを頂いた。

普通より確かに美味いと思った。

「昔はエルンストのを飲んでいたんだ、これからもお前の美味いコーヒーが欲しいな。それに合った菓子も用意しろ」

陛下がそう言ったとたん、エルンストの顔がくしゃくしゃになった。

「…もう、ニーナのところには戻るな。これは命令だ」

陛下がそうエルンストに命じたとき、横から声がした。

「なら、僕の宮殿に部屋を一つあげたいのですが父上、いかがですか?」

ヴォルフがメガネを上げながら爽やかな笑顔で陛下にそう言った。

























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