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本編
ファミリー劇場
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部屋にいる一同、みんなの視線がエルンストのパンパンに腫れた両頬に集中する。
「な…!どうしたその顔…!」
ヴォルフがそう言った瞬間、俺が前に躍りでてしまった。
「ご、ごめんなさい!ちょっと喧嘩して殴っちゃった」
我ながら白々しい嘘をついたと思った。
「え、そうなの…?」
そのとたんシュワルツが肯定して、嘘が本当に化ける。
というよりこれはわざとだな。シュワルツにはきっとこの嘘に乗ろうという意図があるのだと俺は直感的に思った。
「…バイオリンの礼か」
ベンがそう呟く。
「そ、そう!そうそう!甘んじて受けて頂きました」
俺はうんうんと頷く。エルンストは目を丸くして動揺を隠せない様子だ。
「それについてはどうなんだ、エルンスト…あれは自分の意思でやったのか?」
国王陛下の低い声が発せられ、部屋に緊張が走った。
「え…」
「この私に嘘をつくことは許さん。…ここでお前が言ったことは誰も責めない。ニーナをまだ庇うか…」
ニーナというのは皇后の名だ。エルンストは拳を握りしめ、唇を噛んだ。
俺はなんと、エルンストの背中にそっと触れてしまった。そして撫でてあげると、震える肩がとてもつらそうに上下している。
俺より少し背の高い彼を見上げて目を細めて微笑んであげると、エルンストは少し驚いて俺を見つめ、泣きそうな顔になった。
「っ…レイの…大切なものを壊してこいと…傷つけろと、い、言われました…母上に」
絞りだすように、震える声でそう言うとエルンストはその場に泣き崩れてしまった。俺はそんな彼を抱きしめると、シュワルツが近づいてきて自分に代わるように俺に合図を送ってきた。
シュワルツはゆっくりとエルンストを抱き締めると背中をトントンと軽く叩き、近くのソファに二人で腰かける。
エルンストは泣きながらシュワルツに抱きついた。
「…よく言えましたねエルンスト…つらかったね…もう、大丈夫、大丈夫です」
まるで小さな子をあやすようにシュワルツが優しくエルンストを撫でてあげるその姿がなんというか、慣れてる…?
「数年前までずっと毎日エルンストとこうしていたのに、突然皇后がこの部屋に来ることを禁止したのは知っていました…その時には、実の母親に返すのだと納得して黙って従ったのが私の落ち度です。こんなに可愛いエルンストを手放してしまったことはずっと後悔していました。ごめんねエルンスト…」
俺はシュワルツがエルンストに詫びる姿に驚いた。
「よく、連れてきてくれましたねレイ。おそらくエルンストは皇后が怖くてここには自ら近づけなかったはずです」
ただ肩を震わせて泣くエルンストにヴォルフとベンが近づいた。
「ごめんなエルンスト…気づいてやれなかった…思春期か厨ニ病かと…」
ヴォルフが申し訳なさそうにエルンストに謝る。厨ニてヴォルフ…。
ベンは…かなり複雑な表情だ。ま、俺を傷つけろと命令されてきたことにショックだわな。
「ベン、俺は無事だから。護衛騎士のアルがいてくれたし」
俺がベンの手をとって笑うと力一杯抱き締められる。
「ちょ、ちょっと…!ベン」
「…悪い。どう受け止めていいのかわからん…」
だろうね。正直すぎるベンがもっと好きになる。
「…シュワルツ、コーヒーをくれ」
突然陛下がそう言って、俺は目が点になった。
コーヒー?
「…エルンストのいれたやつが飲みたい」
すると、エルンストが涙目で陛下を見た。
「な…!どうしたその顔…!」
ヴォルフがそう言った瞬間、俺が前に躍りでてしまった。
「ご、ごめんなさい!ちょっと喧嘩して殴っちゃった」
我ながら白々しい嘘をついたと思った。
「え、そうなの…?」
そのとたんシュワルツが肯定して、嘘が本当に化ける。
というよりこれはわざとだな。シュワルツにはきっとこの嘘に乗ろうという意図があるのだと俺は直感的に思った。
「…バイオリンの礼か」
ベンがそう呟く。
「そ、そう!そうそう!甘んじて受けて頂きました」
俺はうんうんと頷く。エルンストは目を丸くして動揺を隠せない様子だ。
「それについてはどうなんだ、エルンスト…あれは自分の意思でやったのか?」
国王陛下の低い声が発せられ、部屋に緊張が走った。
「え…」
「この私に嘘をつくことは許さん。…ここでお前が言ったことは誰も責めない。ニーナをまだ庇うか…」
ニーナというのは皇后の名だ。エルンストは拳を握りしめ、唇を噛んだ。
俺はなんと、エルンストの背中にそっと触れてしまった。そして撫でてあげると、震える肩がとてもつらそうに上下している。
俺より少し背の高い彼を見上げて目を細めて微笑んであげると、エルンストは少し驚いて俺を見つめ、泣きそうな顔になった。
「っ…レイの…大切なものを壊してこいと…傷つけろと、い、言われました…母上に」
絞りだすように、震える声でそう言うとエルンストはその場に泣き崩れてしまった。俺はそんな彼を抱きしめると、シュワルツが近づいてきて自分に代わるように俺に合図を送ってきた。
シュワルツはゆっくりとエルンストを抱き締めると背中をトントンと軽く叩き、近くのソファに二人で腰かける。
エルンストは泣きながらシュワルツに抱きついた。
「…よく言えましたねエルンスト…つらかったね…もう、大丈夫、大丈夫です」
まるで小さな子をあやすようにシュワルツが優しくエルンストを撫でてあげるその姿がなんというか、慣れてる…?
「数年前までずっと毎日エルンストとこうしていたのに、突然皇后がこの部屋に来ることを禁止したのは知っていました…その時には、実の母親に返すのだと納得して黙って従ったのが私の落ち度です。こんなに可愛いエルンストを手放してしまったことはずっと後悔していました。ごめんねエルンスト…」
俺はシュワルツがエルンストに詫びる姿に驚いた。
「よく、連れてきてくれましたねレイ。おそらくエルンストは皇后が怖くてここには自ら近づけなかったはずです」
ただ肩を震わせて泣くエルンストにヴォルフとベンが近づいた。
「ごめんなエルンスト…気づいてやれなかった…思春期か厨ニ病かと…」
ヴォルフが申し訳なさそうにエルンストに謝る。厨ニてヴォルフ…。
ベンは…かなり複雑な表情だ。ま、俺を傷つけろと命令されてきたことにショックだわな。
「ベン、俺は無事だから。護衛騎士のアルがいてくれたし」
俺がベンの手をとって笑うと力一杯抱き締められる。
「ちょ、ちょっと…!ベン」
「…悪い。どう受け止めていいのかわからん…」
だろうね。正直すぎるベンがもっと好きになる。
「…シュワルツ、コーヒーをくれ」
突然陛下がそう言って、俺は目が点になった。
コーヒー?
「…エルンストのいれたやつが飲みたい」
すると、エルンストが涙目で陛下を見た。
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