第二の人生は王子様の花嫁でした。

本編

ヴォルフ接近

「レイ！ど、どうした！？」

ただ事じゃない雰囲気に慌てて走って来てくれる。
そして俺の姿と壊れた楽器を見て凍りついた。

「…誰にやられた！？」

俺じゃないってすぐに思ってくれるんだね、いい人だな…。

「今ベンは出張だろう？…クレオンはベンがいないと部屋には行かないと聞いてるしな…エルンストか！？」

なんでわかんの天才か…。でも俺は黙っている。
それが肯定のサインになればいいなと少し思ってしまうあたり、俺は嫌なやつでしかない。

「皇后には逆らえないからな…あいつは」

ヴォルフが楽器を拾って俺の頭を撫でてくれた。その優しさに涙を我慢しようとしても一気に溢れてしまった。

「ごめっ…なさ！…止まんない」
「泣いていいよ、誰も見てない」
「ヴォルフが…見てる…」
「ええ？？」

しくしく泣く俺に、ぷっ、とヴォルフが吹き出した。

「かわいいなレイは…ベンが惚れるのわかるわ…」

ポンポンと頭を撫でながらヴォルフが微笑む。

「とりあえずそれは俺が預かる。修理すれば元に戻るだろ」
「でも…これ王宮にあるくらいだし、音色もすごくよかったからおそらく名器だよね…。どうしよう…俺の不注意でこんな…」

動揺する俺にヴォルフがぴしりと言った。

「王家の宝物としての価値はあるのか知らないけど、これを愛して使ってたんだろ？不注意？事故だ事故。気にすんな、またレイが復活して生き生きしてるところを見せつけてやるのが完全な復讐なんだよ、皇后はお前が泣くのが見たいんだ、やつの術中にはまるな」

ヴォルフ…！

「そうだ、父上とシュワルツにレイの演奏を聴かせてくれないか？今夜俺は父上と食事をすることになっていてな。ベンがいないからレイも来るんだろ？ディナーショーだ。代わりの楽器を探しに行こう」

ヴォルフはハンカチを出すと俺の顔をぐいぐい拭き、手を引いて王家の倉庫へと向かった。

「え？ちょ、あっ！」

俺は引かれるままに走らされ、ヴォルフは笑顔を見せる。

そんな笑顔を見ていたら、不思議と心が晴れてきた。