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本編
泥の海
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「な、なんでそんな泥に挟まれて…」
ヴォルフがあまりのことに口を開けたまま驚いている。
「誰が一体…!?いや、今はいい、それよりここから脱出しなければならないな…ゲット単独ならまだしも、レイを乗せてではおそらく無理な幅だな…」
と、言いかけた時だった。
黒いものがひらり、と躍り出て、俺の隣に鮮やかに着地した。その大きな生き物は。
真っ黒の豹だ。ゲットより何回りか大きいその雄々しい体に精悍な顔つき。艶のある黒々とした毛皮。
「お、ゼル、いいところに」
ヴォルフが安心したように、ゼルというその黒豹の名前を呼んだ。そのゼルは「グァウ!」とヴォルフに一吠えすると、俺の方を向きなおす。
「レイだな。俺に乗るといい。ゲットは自分で飛べるな?」
「えっ…?だれ?」
この黒豹、俺に話しかけた!?ゲットが頷く。
「ごめんレイ、ゼルにレイが俺たちと会話ができることを話してしまった」
あー、なるほどね…。
「じゃ、失礼します…」
俺はゼルの肩甲骨のあたりに手を添えて、その背にゆっくり乗った。しなやかな豹の毛皮がツルッツルだ。大型の、それもトラくらいあるかと思われるゼルの背中は大きかった。
「じゃ、しっかり掴まれ」
ゼルが低いイケメンボイスでそう言うと、軽やかに俺を乗せて跳んだ。
「わあっ!」
思わず声が出てしまうほどの浮遊感と、優しい着地。俺の重さなど全く感じないようにゼルは鮮やかに泥の川を越えていった。
「あ、ありがとう…」
「いや、礼はいい。いつもこんな目に遭っているのか?」
「え、あ、まあ…」
ゼルと会話をしていると、ヴォルフが走ってくる。
「レイ!ゼル!よかった…!どうしてこんなことに!?いつもなのか?」
「いや、まあ…でも今日のはひどいね」
あはは、と軽く笑うとヴォルフが俺の肩を掴んだ。
「ベンは知ってるのか?!」
「あー、いや…ベンがいないときを狙ってくるから…言ってない」
「何で言わないんだ!?」
「んー…、でも、言わないでね。公務で忙しいから邪魔になるし、俺のことに構うあまりにベンが王宮や国の人に嫌われたりしたらやだもん」
それは本当だ。
俺みたいな属国の田舎者が恋人として側にいることも、俺のためにベンがなにかをしてくれることも、悪い噂になるばかりだ。
前の婚約者を捨てて大国の王子に走った淫乱、王子に色仕掛けで近づいたくそビッチ、などここでの俺の別名は数えたらきりがないくらいだ。白い妖精どころか白い悪魔だってさ。
「…そうか。全てはベンのためなんだな」
「うん…ごめんなさい」
ヴォルフが優しく俺の頭を撫でた。ベンのお兄さん。ベンはこの優しいヴォルフを尊敬しているといつも言っていた。勤勉で実直、そして優しい努力家だと。
「…ならば、できうる限り、俺がついててやろうか」
黒豹のゼルが俺にそう言った。
ヴォルフがあまりのことに口を開けたまま驚いている。
「誰が一体…!?いや、今はいい、それよりここから脱出しなければならないな…ゲット単独ならまだしも、レイを乗せてではおそらく無理な幅だな…」
と、言いかけた時だった。
黒いものがひらり、と躍り出て、俺の隣に鮮やかに着地した。その大きな生き物は。
真っ黒の豹だ。ゲットより何回りか大きいその雄々しい体に精悍な顔つき。艶のある黒々とした毛皮。
「お、ゼル、いいところに」
ヴォルフが安心したように、ゼルというその黒豹の名前を呼んだ。そのゼルは「グァウ!」とヴォルフに一吠えすると、俺の方を向きなおす。
「レイだな。俺に乗るといい。ゲットは自分で飛べるな?」
「えっ…?だれ?」
この黒豹、俺に話しかけた!?ゲットが頷く。
「ごめんレイ、ゼルにレイが俺たちと会話ができることを話してしまった」
あー、なるほどね…。
「じゃ、失礼します…」
俺はゼルの肩甲骨のあたりに手を添えて、その背にゆっくり乗った。しなやかな豹の毛皮がツルッツルだ。大型の、それもトラくらいあるかと思われるゼルの背中は大きかった。
「じゃ、しっかり掴まれ」
ゼルが低いイケメンボイスでそう言うと、軽やかに俺を乗せて跳んだ。
「わあっ!」
思わず声が出てしまうほどの浮遊感と、優しい着地。俺の重さなど全く感じないようにゼルは鮮やかに泥の川を越えていった。
「あ、ありがとう…」
「いや、礼はいい。いつもこんな目に遭っているのか?」
「え、あ、まあ…」
ゼルと会話をしていると、ヴォルフが走ってくる。
「レイ!ゼル!よかった…!どうしてこんなことに!?いつもなのか?」
「いや、まあ…でも今日のはひどいね」
あはは、と軽く笑うとヴォルフが俺の肩を掴んだ。
「ベンは知ってるのか?!」
「あー、いや…ベンがいないときを狙ってくるから…言ってない」
「何で言わないんだ!?」
「んー…、でも、言わないでね。公務で忙しいから邪魔になるし、俺のことに構うあまりにベンが王宮や国の人に嫌われたりしたらやだもん」
それは本当だ。
俺みたいな属国の田舎者が恋人として側にいることも、俺のためにベンがなにかをしてくれることも、悪い噂になるばかりだ。
前の婚約者を捨てて大国の王子に走った淫乱、王子に色仕掛けで近づいたくそビッチ、などここでの俺の別名は数えたらきりがないくらいだ。白い妖精どころか白い悪魔だってさ。
「…そうか。全てはベンのためなんだな」
「うん…ごめんなさい」
ヴォルフが優しく俺の頭を撫でた。ベンのお兄さん。ベンはこの優しいヴォルフを尊敬しているといつも言っていた。勤勉で実直、そして優しい努力家だと。
「…ならば、できうる限り、俺がついててやろうか」
黒豹のゼルが俺にそう言った。
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